Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ラブハブステア
2009年4月27日 11:35

 バイクには反社会的なイメージが付きまとっている為、なかなかメジャー化せず、ストレートに社会のゴミ扱いを受けることもよくある。

 例えばアメリカでは、子を持つ親達は、バイクと言うと、すぐにヘルスエンジェルスを想起し、子供達をバイクには乗せたくないという条件反射があるようだ。
 同様に、日本においても、バイクというと、すぐに“旧社会”チックな珍走族を想起してしまい、アメリカ同様、親達は子供達をバイクには乗せたくないという条件反射があるようで、バイクというのは、ロックは不良の音楽と言われ続けたように、バイクは不良の乗り物というイメージがまだある。

 「そうした考えはすでに時代遅れだ」と、あなたは言うかもしれない。もちろん上記は、バイクを取り巻く環境のごく一部を紹介しただけで、バイクに対するネガティブなイメージは、不良の乗り物というステレオタイプだけでなく、単純にうるさいとか、すぐに事故を起こして危ないとか、他にも沢山あるだろう。

 しかし、こうした抽象論による「バイクはなぜマイナーか論」は他の専門家に任せるとして、ここのところのマイブームチックに、もっとメカニカルな話題にて、バイクが4輪乗り共からゴミ扱いされる理由を以下に考察してみよう。

★バイクのデタラメ設計っぷり
 4輪のデザイナーが、バイクなど自転車の延長に過ぎないと、バイクをゴミ扱いする理由は主に3つあった。

 まず最初の理由は、“チェーン駆動”だ。

 バイクのチェーン駆動ほどバカげたシステムはないが、このバイクのチェーン駆動は、皆さんご存じのように、スイングアームがスイングするだけでテンションが変化してしまうのである。一体誰がこんなバカげた設計を始めたのか知らないが、バイクという乗り物は、このチェーン駆動のおかげで、ドライブシャフトとスイングアームピポットとリアのアクスルシャフトが同一線上に並んだ時にスムーズにホイールが回転するように調整し、その後、1G状態にスイングアームを落とすと、チェーンがたるんでしまうのである。ああ、まるでパンツからハミ出た脇腹の贅肉みたいななんとも情けない姿だ。

 また、仮に、エンジンの中で回転しているカムチェーンのように、ファイナルのチェーン駆動もしっかりと“いつでも”テンションが一定という設計であれば、何もわざわざバネ下が重くなるホイールにリアのディスクローターを装着する必要もなく、バネ下が軽くなり、更にはマスの集中化にも貢献する、ドライブシャフト脇にリヤのディスクローターをもってきた方がはるかに合理的だと言える。

 しかし、不思議なことにライダー達は、そんなことは全く気にせず、主にオートバイのエンジンの進化について語ることが多いが、4輪のデザイナーからすれば、バイクという乗り物は、そもそもチェーンのテンションが変化してしまうようなどうしょうもない乗り物だと言うのに、新しいエンジンはスロットルのレスポンスが向上したうんだらかんだらとかブツブツ語っているライダー達のことは、北朝鮮がミサイルを打ち上げただけで核武装論を展開する自民党の中川(酒)に平和な日本の未来を託すかのようなバカげた人達として4輪のデザイナーは捉えていることだろう。つまり、本末転倒である。

補足:インターネットの世界では、自民党の2人の中川に対して、酒好きの中川昭一を“中川(酒)”、女好きの中川秀直を“中川(女)”と表記することで2人の中川を使い分けているようだ。

 次に、バイクの設計で4輪のデザイナーから蔑まされてきたものが、“キャブレター”だ。

 4輪はと言うと、もう随分と大昔に、このキャブレターという部品を棺桶に放り込み、電気信号でガソリンの吐出量をコントルールしていたので、いつまで経っても電気が苦手なルックスのバイクという乗り物を、ただの子供騙しと考えていた。しかし、幸いにして、最近ではほぼ全てのバイクがインジェクションを採用するようになったので、この点については、もう4輪のデザイナーからバカにされなくても済む時代がやってきたと言えるし、サーキットにおいても、大して登場しないジェット類をズラーッと揃えて、いちいちガソリンで手を汚して混合気のセッティングをする必要がなくなったので、「パドックでキャブをバラしているライダー共など、ミニ四駆をイジるガキと同じ」という、4輪乗り達からの偏見もなくなることになった。

 最後に、バイクをダメダメな乗り物として決定づけているのが、ご存じ“テレスコピックフォーク”の存在だ。

 バイクは、減速時には、フロントホイールは後方に力が働き、バネ上はそれまでの慣性で前方に力が働くが、フロントのアクスルシャフトと、ステアリングヘッドパイプをつなぐテレスコピックフォークは、ただの棒なので、当然“しなって”しまう。しかもとてつもなく最悪なのが、そのしなる部分にて、バイクはサスペンションの機能も持たせているので、当然、サスペンションのスムーズな動きは阻害されてしまうという、まったくもってインチキテキトーな設計がバイクには施されている。これでは4輪のデザイナーからゴミ扱いされても仕方がないだろう。

 また、もっと言えば、このフォークの“しなり”に対する唯一の対策が、“フォークの大径化”だったが、大径化によりサスの摺動部の面積が増えることは、そのまま作動性の悪化にもつながるという自己矛盾もテレスコピックフォークははらんでいた。

 しかし、もちろん、この見るに耐えない醜悪な設計に対して憤った2輪の技術者も少なからず存在し、4輪ライクな方法でキチンとレーサーとしてバイクを設計した人もいる。例えば、ニュージーランドのブリッテンや、アプリリアも250のレーサーで、ブリッテンタイプのフロントサスを投入したことがあった。

 しかし、残念ながら、オーリンズやホワイトパワーという、それまでのテレスコピックフォークの性能を究極に極めようという勢力が技術の進歩を阻んでしまい、こうした斬新な設計はメジャー化の日の目を見ることが出来なかった。

 そしてまるでその様は、アメリカンV8のチューナーが、オーバーヘッドカムシャフトの新しいエンジンなどに興味を示さず、プッシュロッドの材質を吟味したりとか、第三者が見たら、「おいおい、新しいエンジンに買い替えろよw」みたいな調子で、それでもドラッグレースで新しいエンジンのマシンに勝ってしまうかのような、着眼点が進歩思想を考慮していないかのような有り様だった。

★ハブステア



 ↑は、以前紹介した、ビーエムが開発していると思われる、S675RRの画像だが、ビーエムも、お堅いドイツ人達の設計らしく、これまで、テレスコピックフォークの採用を頑なに拒んできたメーカーだが、驚いたことに、今度はハブステアを投入するようで私は驚嘆してしまった。

 ちなみに、これまでもハブステアは、レーサーのエルフモトや、ビモータのテージで採用されていたが、これを読む皆さんも、テージは高価な乗り物なだけに、ハブステアを経験したことがある人は少ないだろう。

 当然、私もテージに乗ったことはないのだが、私は以前、イタリアのインチキ臭いバックヤードビルダーチックな、イタルジェットというスクーターメーカーが作った、ドラッグスターという50ccのスクーターと、フォーミュラ125という125ccのスクーターに乗ったことがあり、この2車は、フロントがハブステアだった。

 乗ってみた感想はと言うと、「エクセレント」の一言である。

 そう、ハブステアのバイクは、これまでのテレスコピックフォークでの感覚とは異なる全く異質な感覚で、何かとてつもないフロントの剛性感でコーナーリング中もフロントタイヤが路面をトレースするのである。

 例えて言えば、まるでFF車のような安心感で、過去の経験で言うと、タイヤがバイアスからラジアルになった時のような進歩を感じたが、例えば、バイアスタイヤの時代は、フロントがスリップすると、そのスライド特性の悪さから、即転倒ということが多かったが、タイヤがラジアルに進歩すると、コーナーでフロントが流れたりしても、そのスライド特性の素晴らしさから、そのままプッシュアンダーでコーナーを周れたりしてしまい、まるでFF車のような安心感があったが、そうしたスライド特性の進歩という安心感ではなく、ハブステアの場合には、とにかく、テレスコピックフォークのあのしなる感触が全くなく、とてつもない剛性感によるFF車のような安心感があった。(その内ヤンマシとかビッグマシンのゴーストライターになれそうなくらい大袈裟な文章表現だなw)

 ちなみに、ハブステアというのは、私が乗ったイタルジェットのようなシングルアームの場合、フロントのアクスルシャフトと、スイングアームピポットが同一線上であれば、ブレーキング時にフロントの車高が全く変化せず、フロントが低ければ、ブレーキング時に車体が浮き上がり、フロントが高ければ、通常のテレスコピックフォークのように、フロントが沈み込む。
 そして、私が乗った50ccのドラッグスターの方は車高が変化せず、125ccのフォーミュラの方は車体が浮き上がる設定で、125の方は若干違和感があったが、車高が変化しない50の方は、ブレーキング時にも、これまで慣れ親しんだフォークのしなり感が全くないので、とてつもない剛性感を感じながらブレーキングできた。

 私はこの時の経験から、バイクはとっととハブステアに移行すべきだと常々思っていたが、もちろん、いつものパターンで、ライダー達の認知的不協和がそれを阻んでいる。

★テレスコピックフォークの捨てがたい特性
 テレスコピックフォークが、構造的にデタラメ設計だったとしても、どうしてもライダーにとって馴染んでしまうのが、自然なキャスター角の変化だと私は考えている。

 テレスコピックフォークを採用している通常のバイクは、ブレーキング時にフロントが沈み込むことでキャスター角が立ってしまうが、ブレーキング時にはフロントタイヤの接地圧が高まっているので、キャスターが立つことによる直進安定性の悪化を防いでしまうという、非常に合理的な側面を持っていて、更に、ブレーキング終了後の、4輪にはない2輪独特の儀式による“倒し込み”の作業も、キャスターが立っていることによる運動性の高さにより軽快なものになるという、年代物の上等なワインのような味わいのある、これまたありがたい副産物をバイクという乗り物にもたらしている。

 そして、ライダー達は、このテレスコピックフォークがもたらすキャスター角の変化の特性を、知らず知らず積極的に引き出すライテクを自然に身に付けてしまっているだけに、恐らくハブステアのマシンに乗っても、違和感ばかり感じて、せっかくのフロントの剛性感も、それを速さに結びつけるまでに時間がかかり、すぐに結果が必要なレースシーンでは、まるでデイトレーダーのような、目先以上の先が見えない人達からノーをつきつけられてしまう可能性が高く、事実、エルフのレーサーも、結局はテレスコピックフォークに道を譲ってしまった。

 つまり、テレスコピックフォークがどんなにバカげたシステムだったとしても、長年その特性に慣れ親しんだライダー達が、テレスコピックフォークの特性を利用して速く走る術をすでにしっかりと身につけてしまったので、減速時にフロントが沈み込まないバイクへの変更は、脳内をお花畑にキープする才能に恵まれた、小林ゆきを改心させるくらい困難なことだと言える。

 ちなみに、理解のある4輪のデザイナーなら、それならそれで、スイングアームピポットの支点に気を使うことで、これまで通りブレーキング時にフロントが沈むハブステアを設計すると言ってくれそうなものだが、テージなどを含め、まだそうした設計のハブステアは登場していない。

 また、仮に登場したとしても、テレスコピックフォークのような自然な沈み込みのフィーリングに対して、ハブステアによる沈み込みは、“作られたもの”という違和感も感じそうだが、私の希望的観測では、そうした違和感も、フロントの剛性感の高さというメリットで十分相殺されるのではないかと考えている。

 また、↑で紹介したS675RRのように、仮にスングアームがシングルアームだと、フロントのディスクローターがシングルになってしまい、ブレーキの効きが悪くなるというデメリットもあるので、本当であれば、テージのような左右のアーム方式の方が、ダブルディスクに出来るだけでなく、ブレーキング時のアームの片側へのしなりも全くなくなるので、ハブステアのメリットを更に引き出すことが出来ると言える。

★期待できるmoto2クラス
 どうやら、GP250を廃止して、2010年より始まるmoto2クラスは、エンジンはどこかのメーカーに作らせたものを使ったワンメイクとなるようだ。

 最初にこのニュースを知った私は、以前、motoGPクラスのエンジンにおける様々な規制にネガティブな反応を示していただけに、これではライダー同士の戦いという側面が強くなり、4輪のFN(フォーミュラニッポン)のような失敗になることを予想したが、少し気分を落ちつけて考えると、これはこれで、私が好きだった70年代のF-1のように、フェラーリ以外は全てコスワースのDFVというV8エンジンで、マシンの特徴はシャーシデザイナーの独創性で形作られていた頃のようになるかもしれないという、ほのかな期待を抱き始めている。

 そう、これまでであれば、エンジンが設計できるメーカーでなければ、エントリーすらすることが出来なかったという時代におさらばバイバイし、エンジンをどこかが供給してくれるのであれば、日本ならモリワキとかオーヴァーレーシング、海外なら、ハリスとかスポンドンとかニコバッカーとかバカバッカーとか、そうしたシャーシコンストラクターが、独自のアイデアで独創的なマシンを試す機会が増えるかもしれない。

 そして、もしそうなれば、ハブステアに希望を見出すコンストラクターも現れるかもしれないし、多少成績が悪くとも、斬新なデザインということで、スポンサー獲得もしやすくなるかもしれない。

 という訳で、来年度からは、メカオタクはmoto2クラスが要チェギだ。

 それはそうと、moto2クラスに供給されるエンジンが、「どうせイコールなんだからタダ回ってりゃいいだろ!」みたいな調子で、プッシュロッド使ってたら笑える。












 ↑は、2005年11月号の英『STREETFIGHTERS』誌に掲載されていた、プッシュロッドではないが、“空冷”のGPZ1100のエンジン(でも吸気のシステムは“インジェクション”w)を、ヤマハのGTS1000のフレームに搭載したストリートファイター。

 こうした、過去と近未来の融合といったサイケデリックなフォルムに弱いです。乗りてー。




★オマケ

bloodrunners

 ここのところファイター系の雑誌を賑わしている、Andy Sparrow氏のサイト。
 登場するバイクが全部ハブステアなんすよ。(おまわりはテレスコピックを使用www)




www.romc.jp www.maderv.com www.bugbro.com www.bugbromeet.com