Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


バズ・マーケティングの英雄
2009年6月7日 21:11





 代官山にて。

 さて、自分に商才がないと謙虚に考えてはいるものの、何もやみくもに商売をしている訳ではなく、私も一応個人事業主のはしくれなので、常々マーケティングについては独学しているが、すでにマス・マーケティングは終焉を迎えたと多くの事業者が考え出している中、バズ・マーケティング(クチコミを利用したマーケティング戦略)、もっと言えば“ゲリラ・マーケティング”というものがにわかに脚光を浴びるようになってきた昨今だが、そんなゲリラ・マーケティングで、イーベイやスターバックスと並んで、このマーケティング・スタイルで成功した代表的な企業としてレッドブルを挙げない訳にはいかない。

 そう、これを読むモータースポーツと親和性の高い読者諸氏も、レッドブルを知らないハズはないだろうが、現在は莫大なスポンサー料金を支払ってマーケティングしている飲料メーカーだけに、皆さんはレッドブルに対して、フツーの巨大企業だと思っていることだろう。

 しかし、レッドブルは、老舗の巨大ドリンク・メーカーが舌を巻く程、急激に成長した企業であり、その成功秘話は、今や伝説的なものになっている。

 そう、レッドブルの創業者のディートリッヒ・マテシッツは、脱サラ後、日本ではオロナミンCなどで人気だった活力ドリンクを自国オーストリアで販売しようと企み、自分で開発したドリンクをまずは消費者テストにかけた所、薄い色は飲む気にならず、濃い味わいは気持ち悪く、“心と身体を刺激する”というコンセプトもピンとこないということで、調査会社の担当者は脱サラしたマテシッツに対して、「本業を辞めないように」とアドバイスしたという最悪なスタートだったらしい。

 そして、実際に売り出した時には、なんと、何の権威からの推奨もないのに、コカ・コーラの約8倍という高価格帯で売り出した訳だが、常識で考えて、高額でヘンテコな味わいの活力炭酸飲料など、とても売り込みやすいシロモノ家電とは言えなかった。

 しかし、そんなレッドブルを成功に導いたのが、バズ・マーケティングだった。

★バズ
 バズとは、クチコミ、もしくは噂話のことだが、マテシッツがレッドブルを売り出す時、主成分のタウリンに対して馴染みがない国もあったようで、認可にはかなり時間がかかったらしい。

 そして、本国オーストリアのお隣の国のドイツにて認可が取れて売り出せるようになるまでには5年もの時間がかかったようなのだが、この時間がむしろ評判が広まるというポジティブな働きをしたようで、実際には、認可が下りるまではレッドブルは“闇で”取り引きされていたという。(笑)

 そして、認可が下りるまでの間に、ドイツでは様々な憶測が飛び、認可が遅れているのは、「この飲み物は缶入りの麻薬だからだ」とか、「合法ドラッグの類ではないのか」とか、中には、「処方箋のいらないバイアグラではないのか」というものまで、様々な噂が流れたようだ。

 しかし、フツーのまともな企業なら、こんな噂が流れれば、噂を消そうと躍起になりそうなものだが、レッドブルはあえて噂を放置した。否、恐らく本人達は否定するだろうが、噂を助長していたという疑いすらある。(笑)

 実際、ドイツでの販売が正式に始まった時、オール(徹夜)でのレイブ(陶酔状態で踊り狂うパーティー)やエクスタシー(麻薬の一種)が流行った時期と一致していた為、ドイツのPTAがレッドブルの販売禁止を求めたりもしたようなのだが、クラブはレッドブルをガンガン仕入れ、クラブに通う人達も一斉にレッドブルに飛びついたようだ。また、レッドブル側もこの騒ぎに便乗し、クラブのトイレに空き缶を投げ入れる(笑)などの手法で危険なイメージを煽った。(爆)

 しかし、こうした笑えるマーケティング手法により、レッドブルはドイツでの販売後、3ヶ月で在庫が無くなってしまったそうである。

 そして、その後他国に進出した際も、金融界のトレーダーが勢いづけに飲んでいるとか、レッドブルが売られるようになってからバーでケンカや破壊行為が増えたとか、様々な噂が流れるようになったが、レッドブル側は全く静観し、もっと言えば噂を煽っていた。

 これが、現在ではドリンクメーカーとして大成功したレッドブルの初期のマーケティング・スタイルで、その後は、有名人やXスポーツ(危険だが刺激が強い極限スポーツ)のマニアなどにターゲットを絞ってマーケティング展開し、レッドブルは“クールな飲み物”というイメージを定着することが出来た。

★失敗した大企業
 当然のように、老舗のドリンク・メーカーは、レッドブルの成功を妬み、後追いし始めた。

 そう、コカ・コーラはKMX、アンハイザー・ブッシュは180という、レッドブルを真似たドリンクを販売し始めたのである。

 そして、当然、これらの老舗大企業は、資金力や企業力にものを言わせて、絶対に成功するつもりだった。

 しかし、老舗大企業は、レッドブルのように音楽シーンやスポーツ・シーンというサブカルチャー層にじっくりと売り込んでいくというスタイルではなく、伝統的な“協賛”という形で猿まね商品を売り始めた。

 つまり、コンサートなどでどこを見渡してもそのドリンクの宣伝一色というアレである。これには消費者もうんざりし、最初っから商品は消費者からそっぽを向かれた。

 また、KMXは、本当はコカ・コーラが販売しているのに、コカ・コーラ側は、わざと子会社に販売させて、自分達が販売していることを隠した。しかし、こうした不誠実さはすぐにバレて、ネットでは掲示板等でこうしたコカ・コーラ側の姿勢を非難する書き込みが増えた。「コカ・コーラはもうさんざん儲かってるだろ、弱い者イジメはするな!」という訳だ。

★その名もバズ(笑)
 コカ・コーラの海外でのKMXの販売は大失敗に終わった。しかし、日本のコカ・コーラは、まだレッドブルがメジャーに認知されていない日本では、つけ入るスキがあるとにらんだ。

 そして、日本で販売された活力飲料が、その名も“バズ”である。私はその話を聞いた時に思わず笑ってしまった。

 そして、このバズは、伝統的なマス・マーケティングに頼らず、主にクラブで配るなどのマーケティングで売り始めたが、二番煎じは今のところ成功したという話は聞かない。

★私が国内2輪専門誌を敵に回しても平気な訳
 私のサイトを知る人は、バイクのパーツを売っている人間が、匿名ではなく、自分のサイト内で国内2輪専門誌にケンカを売っているようで、それに対して不思議に思っている人も多いようだ。(私的には、私がケンカを売っているのではなく、国内2輪専門誌が反感を買っていると考えている)

 しかし、私はマス広告はすでに死んだと踏んでいるので、国内2輪専門誌など敵に回しても痛くもかゆくもないどころか、むしろ、バズ・マーケティング的に優位だとすら考えている。

 つまり、雑誌に広告を出すようなメジャーなパーツメーカーは、“アバブ・ザ・ライン”(伝統的な広告戦略)という手法に頼って商売を営んでいる訳だが、私はそれを全く無視した、“ビロウ・ザ・ライン”(ゲリラ・マーケティング)を採用しているからだ。

★違い
 通常のブランドは、サブカルチャーではなく、メインストリートで栄えることを目指している。

 そして、広告を通じてシンプルなメッセージを消費者に伝えようとする訳だが、要は、マス・マーケティングで商品の意味を消費者に押し付けたい訳である。

 これに対して私は、ブランドを消費者にそっくりそのまま渡してしまう。

 分かりやすく言えば、消費者が商品をどのように使おうと、どうでもいいという訳だ。こうして、私の売り出すブランドは、サブカルチャーに所有されることになり、商品は草の根的にアンダーグラウンドにて浸透していくことになる。

 もちろん、消費者達は、私のブランドを勝手にイジり始めるので、ことの成行きがどうなるのか私にも想像がつかず、状況は泰然として見守る必要がある訳だが、つまり、こうしたマーケティング・スタイルでは、ある程度の不確実性を受け入れる豪胆さが必要となる。

 しかし、ミスター・マーケットとの付き合いから、私は不確実性を最大の友人としているおかげで、こうしたマーケティング・スタイルを積極的に採用することに喜びを感じている。

★解説
 え〜と、前置きが長くなってしまった、つーか、すでに最後となってしまったが、↑の写真は、尊敬すべきバズ・マーケティングのヒーローであるレッドブルのマーケティングの一種のようだが、あれだけ成功しているにも関わらず、まだこんなイタズラをしているようなので、レッドブルにはつくづくゲリラ・マーケティングのDNAが根強いのだと感心した。

 ちなみに、レッドブルの成功秘話には敬意を払っているが、私自身はレッドブルを飲んだことはない。(笑) つーか、22歳の時に事業主になった時から、経営者として健全な精神を保つ為に、炭酸飲料を飲むのはキッパリやめたのだよ。

 あっ、モエは別だよ。(爆)




★オマケ
 今日のおもしろ。



 手品をするノッチ。(代々木公園にて)




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