Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ロードレースに参戦する戦士達へ
2009年9月10日 10:54

戦いで重要なのは犬の身体の大小じゃない。犬の闘志の大小だ。

ドワイト・D・アイゼンハワー


 私が主催していた草レースの参加者からGPライダーに至るまで、私が好むタイプのライダー達の特徴は、勝利への執着と共に、敗北への憎悪で一致している。

 彼らは、リザルトにて自分の名前がライバルよりも下に位置した場所に記載されているだけで、夜も眠れなくなり、時には怒り狂うことすらある。

 もちろん、こうした特徴は、単に傍観している分には他人が楽しいという意味で私は好んでいるのであり、そうした特徴が必ずしもリザルトに反映される程ロードレースは甘くもない。

 暴力的にシンプルに語ると、上記の激しい感情を持ったままコーナーに進入すれば、突っ込みすぎでフロントからスリップダウンして転んでしまったり、上記の激しい感情を持ったままコーナーを立ち上がれば、今度はスロットルの開け過ぎで“開けゴケ”してしまったりもする。

 つまり、クローズドサーキットにてスタートからゴールまでライバルよりも短い時間でゴールする為には、止まるべき所で止め、行くべきところで行くという、イケイケドンドンと、その気持ちを抑える自制心とのバランス感覚が必要である。

 しかし、そうは言っても、往年のチャンピオンライダーの原田哲也氏や坂田和人氏のように、現役時代はパドックで常に怒り狂っていたかのようなライダーがチャンピオンになるというケースもあり、私はこうしたライダーにどうしても個人的に惹かれてしまう。

 以前、岡田忠之氏がインタビューで、坂田和人氏のレースに対するスタンスは、自分では出来ないが(笑)、ああしたスタンスでレースに挑むのは、ある種羨ましく、なぜならば、それだけレースに対して真剣だからだと思うみたいなことを語っていたことを聞いたことがあるが、ロードレースに参加しているライダーは、勝つ為に走っているのだから、こうした真剣さの表れは素晴らしいものだと思う。

 しかし、自分が好きだからと美化して話しているだけで、何度も繰り返して申し訳ないが、前述のようにそれが勝つ為の絶対条件という訳でもない。

 では一体、ロードレースに参加するライダーは、勝つ為にどの辺りを目指した方がいいのだろうか? 自分のライバルを罵倒し、パドックで怒り狂い、転倒したらヘルメットを地面に叩きつけ、アルファベットの『F』で始まる四字熟語を連発しながら天高く中指をつき上げるようなライダーを目指すべきなのだろうか?

 それとも、例えば『ライダースクラブ』誌を熟読し、国際ライダーを神のように崇め、少しでもそのおこぼれにあずかろうとレーシングスクールに金を支払い、タイムアップしないとパドックでメソメソ泣き事を言ったかと思えば、努力すればきっとタイムも出るだろうなどと女々しく自分を慰めているような、どこにでもいるパンピーライダーを目指すべきなのだろうか?

 えっ? 何々? 「自分はそんな両極端な双方のどちらにも属さないライダーだ」だって? 心配することはない。両極端なタイプのどちらにも属さないからと言って、あなたはそれを恥じる必要はないし、むしろ常識的なフツーの人間として、落ち着いて物事も考えられる人なのだろう。

 もちろん、そうは言っても、私からの助言としては、多少は前者を目指した方が良いと言えるし、逆説的には、後者は負け犬であることを自ら運命づけているようなクソヘタレライダーなので、こんなライダーは絶対に目指さない方が良い。

 しかし、あえて言わせてもらえれば、あなたはこうしたクソヘタレライダーを誹謗中傷などしてはならない。こうしたライダーは、ロードレース界や、しいては2輪業界にとっても大切なカモ、いや失礼、顧客なので、もしあなたがこうしたクソヘタレライダーを目撃し、タイムアップもせずに悩んでいるようであれば、そっと近付き、タイムが出ないのはタイヤを交換していないせいだとか、オイル交換しないせいだとか、「そんなことはすでにやっている」とクチをとがらせ反論してきたら、パッと見て、まだ取り付けてないような、クソヘタレライダーにとっては宝の持ち腐れになるような大して意味のないレーシングパーツをつけていないせいだなどと優しく耳打ちするべきである。そうすれば、非常に多く分布するこのクソヘタレライダーが無駄な出費をすることで、私の属す2輪業界も潤うし、更に言えば、あなたがこれから買うタイヤなりオイルなりレーシングパーツの需要が増えることで、こうしたパーツ類の単価も下がり、巡り巡ってあなたのレース参戦費用も引き下がるというものだ。

 しかし、これを読む業界の人間ならば、こうしたクソヘタレライダーに意味のない無駄な出費を強いた場合、そのライダーが貯金や借金の限度額を使い尽くしてしまうことで、こうしたライダーがバイクから降りてしまったり、こうしたライダーが悪い評判を広めることで、長期的に見てロードレース界や2輪業界が衰退していくと聖人君子の如く考える人もいるかもしれないが、もちろんそれは正論である。

 しかし、そうした大局を考えて行動するのは、この業界で生きているような私の役割であり、あなたの役割ではない。つまりだよ、いくら業界の“鼻つまみ者”の私だって、一応はこの業界でモノを売って生計を立てているのだから、私が自分の大切な顧客に助言する時には、経済的で将来に渡って長く楽しくバイクライフを楽しめるよう、適切な助言を行うことだろう。

 えっ? 何々? 「オマエは自分のことを棚に上げて、自分の棚が一杯になっているだけで、自分だけイイ子ぶって俺達ライダーだけを悪者にするのか?!」だって? どう取って頂いても構わないが、そのように解釈して頂いても結構である。

 私はロードレースになど参加していないし、ただの善良な傍観者である。しかしあなたは違う。そう、ロードレースに参加しているあなたは違うのだ。

 つまり、正論を振りかざして生きなければならないつまらない人生を歩む私と違い、ロードレースに参戦するあなたはもっとズル賢く立ち回らなければならない。

 しかしだよ、ロードレースの世界は、あなたにもっとズル賢く立ち回るよう求めているというのに、あなたは相も変わらずイイ人に見られたいなどと言うチャンピオンライダーなら歯牙にもかけないバカげた感情に脳を支配され骨抜きになっている。

 ロードレースの世界は、あなたに勝つためなら何でもせよと迫っているというのに、あなたはライバルと談笑し、あまつさえmixiで慣れ合ったりもしている。この愚か者!

 いいかね、あらためてあなたに問うが、ロードレースの世界で1番大切な事とは何かね? フムフム。そう、その通りだよ。ロードレースの世界で1番大切なのは、フェアに戦って勝つことだよ。では聞くが、ロードレースの世界で2番目に大切な事とは何かね? えっ? 何々? 「フェアに戦って2番手になること」だって? そんな泣き事を言ってるからダメなのだよ、君は。いいかね、ロードレースの世界で2番目に大切なことは、フェアに戦わずに勝つことだよ。

 えっ? 何々? 「そんなことを公けの場で言っていいのか?」だって? 何を今さら正義の味方を気取っているのかね、君は。これまでのホンダのロードレース史を見て、一体君は何を学んできたのかね? アホちゃうか。(漂白された、骨抜きの、おとといきやがれ方式のMFJの新しい会長は、今度もまたホンダからの天下りだよ)

 えっ? 何々? 「カピが原田にぶつかってチャンピオンになった後、原田は残留してギャラが上がったが、カピはチャンピオンになったというのにチームをほされたことは、一体どう説明するのか?!」だって? さっすが生粋のロードレースファンのあなたは、なかなか鋭い指摘をしてくるね。フムフム、たしかにそんなこともあったが、原田はすでに引退したが、カピはまだ現役で戦っているし、もうそんな昔のことは誰も覚えちゃいないよ。つまり、一時的にギャラが下がったところで、現役を長く続けている方が、トータルで稼ぎも増えるんだし、カピは最近はリザルトは残さないものの、仮にチャンピオンにでもなれば、過去の出来事は歴史がうまく脚色してくれるというものだ。

 そう、歴史を作るのはいつでも敗者ではなく勝者なのだから。

 つまり、ロードレースの歴史において、敗者のつけ入る隙間などなく、5000万歩譲って上記の原田とカピのエピソードが、原田側にとって優位となる美談としてロードレース史の余地に入り込んだとしても、それはあくまでも“余地”でしかなく、メインストリートで栄える話ではないのだよ。

★戦争そのもの
 ロードレースというのは、戦争のようなものではなく、戦争そのものなのだから、聖人君子など気取っている場合ではなく、あなたはいさぎよく勝つ為なら何でもする覚悟を決めることだよ。

 それにだよ、私は人を殺すリアルな戦争には反対だが、ロードレースは人を殺すことなく合法的に出来る戦争なのだから、モノホンの戦争を参考に、あなたの持つ闘争心を最大限に発揮すべきなのだよ。しかもだよ、モノホンの戦争は相手を殺してしまうが、ロードレースは相手を殺さないので、自分の勝利を相手の目にまざまざと見せつけ情けない姿を思い知らせることが何度も出来るという痛快な戦争なのだし、サディスティックで邪悪なるあなたには最高に楽しめるカテゴリーなハズだよ。そして、それを望んで入ってきたんだろ? このカテゴリーにあなたも。

 そう、何度でも言うが、ロードレースは戦争なのだよ。ライバル達が泣き事を言っておいおい泣き叫ぶよう圧倒的な速さで叩き潰すことを目指す戦争なのだよ。

 戦争に正義もクソもなく、相手の顔をつかみ、よろけていく姿を眺める世界なのだよ、ロードレースとは。

 分かったら、徴兵された兵士の如く、あなたに与えられた銃と言えるレーサーを武器に、徹底的にライバルを叩きのめしたまえ! コーナー進入でブチ抜け! 立ち上がりでブチ抜け! オマケにストレートでもブチ抜け! 抜いて抜いて抜きまくれ! 進め! 行け! オーッ!!!




戦争ってよくないと思うわ。

バーバラ・ブッシュ




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