Erv's Letters index | Text by Erv Yamaguchi |
アーブの日記復活 2004年12月12日 22:47 メーカーにとってmotoGPとは何だろうか? もう1度聞こう、メーカーにとってmotoGPとは何だろうか? 開発の場? 競争の場? いや違うだろう、メーカーにとってmotoGPとは、宣伝の場である。もう1度言おう、メーカーにとってmotoGPとは、宣伝の場である。 多くの業界関係者や、ましてやメーカーの人間すら、こんな当たり前のことを忘却しているが、今年のカワサキを見て、私自身が正に目からウロコが落ちる思いをしたので、それについて以下に論じてみよう。 今年の初め、各メーカーのリッターハイパースポーツ車4車、つまりは、CBR1000RRと、YZF-R1と、GSX-R1000と、ZX-10Rの内、どの車両が1番売れるかを正確に答えられた人間は少ないだろう。 多くの人達は、私を含めて、2輪業界の勢力図は、白雪姫と7人の小人ならぬ、白雪姫と3人の小人だと考えているからであり、大方の予想では、CBR1000RRが最も売れると予想した人が多かったと思う。 実際CBR1000RRは良く売れたが、1番売れたのは、僅差ながらZX-10Rだったのである。 これについて私が何人かのバイク乗りに尋ねたところ、それらの方達は、やはり絶対性能の高さが決め手だったのでは? と考えているようだった。また、無能と呼ばれる雑誌社のコメントも、そうしたものが多かった。 しかし、私自身は株式投資を通じて、優秀な企業の戦略と、優秀な企業の商品やマーケティングについて独学していたので、こうした考えには異論がある。 では私の考えを述べるとしよう。私の考えでは、商品の売れ行きを左右するのは、品質ではない。もっと言えば、性能ではない。商品同士の売上の争いは、性能の争いではなく、ユーザーの知覚の争いである。 では解説しよう。レーサーレプリカにとって必要なものとは何だろうか? それはその言葉自身が端的にに言い表しているように、レーサーのレプリカであることである。 CBR1000RRはRC211Vのレプリカだろうか? たしかにホンダはCBR1000RRをRC211Vと同じルックスにした。これは“RCVルック”というキャッチコピーと共に、非常に重要かつ素晴らしい戦略であり、CBR1000RRの販売成績の向上におおいに役立ったことだろう。しかし、CBR1000RRとRC211Vでは、名前が全く違う。そしてルックスが同じでも、エンジン形式も全く違う。つまり、多くのライダーは、ルックスが同じだけという部分で満足するしかないのである。 次にスズキはどうだろうか? スズキはルックスも名前も全く違うGSX-R1000は、GSV-Rのレプリカではない。 とっとと次に行こう。ヤマハはどうだろうか? ヤマハはYZF-R1に対して、motoGPマシンは、YZF-M1という名前である。また、ヤマハは大昔から間違ったシステムだということが分かっていたというのに、YZF-R1は5バルブにこだわり、それがオリジナルだと宣伝し続けた。自殺行為である。YZF-M1は、5バルブでないだけでなく、今年からは同爆も採用し、YZF-R1はYZF-M1のレプリカだとは言いがたいシロモノ家電となっている。 ではカワサキはどうだろうか? 正にエクセレントである。カワサキのmotoGPマシンの名前は、ZX-RRであり、市販車の名前はZX-10Rである。また、ZX-RRを登場させた時点で、カワサキは他車と違うエッジを効かせた独特のフォルムをレーサーにも市販車にも採用している。また、エンジン形式は並列4気筒で、爆発順序もレーサーと市販車に違いはない。 お見事としか言いようがない。 ほとんどこれだけで充分な説明だが、次には伝統について語ってみよう。 ホンダの4気筒車の伝統とは何か? それはCBという名称であり、ホンダのCB1300SFには、今でもCBの名前が与えられており、4気筒車のレーサーレプリカには、更にRがつくのが定番で、CBR1000RRはそれを守っている。 スズキの4気筒車の伝統とは何か? それはGSXという名称であり、スズキのGSX1400には、今でもGSXの名前が与えられており、4気筒車のレーサーレプリカには、更にRがつくのが定番で、GSX-R1000はそれを守っている。 カワサキの4気筒車の伝統とは何か? それはZという名称であり、カワサキのZRX1200Rには、今でもZの名前が与えられており、4気筒車のレーサーレプリカには、更にRがつくのが定番で、ZX-10Rはそれを守っている。 ではヤマハはどうか? 悲運である。ヤマハは長いこと2サイクルのイメージが強く、4サイクルのイメージが弱い。しかし、しいて言えば、ヤマハの4気筒車は、昔はXJの名前がついていた。そして今もXJR1300はその伝統を受け継いでいる。しかし、レーサーレプリカはどうだろうか? ヤマハは失態を犯した。ヤマハはレーサーレプリカには、FZ、更に途中からYZFに、そして今ではYZFよりも強いイメージを持つこととなったR1という名前が消費者の知覚にインプットされてしまっている。つまり、ヤマハは伝統的に4気筒車のカテゴリーで他メーカーに弱みを握られている。 ほとんどこれだけで充分な説明だが、次にはカラーリングについて語ってみよう。 ホンダの伝統的なカラーリングは、トリコロールである。これはあまりよろしくない。なぜならば、赤と白と青にイメージが分散してしまうからだ。しかし、イメージがないよりはマシだろう。しかし、motoGPマシンは、レプソルのイメージが強い為、市販車とのイメージにギャップが生まれ、このギャップはRCVルックという言葉では埋まらない深いミゾとなっている。 スズキの伝統的なカラーリングは、青白である。この点においては、レーサーと市販車は、イメージをオーバーラップさせていて、スズキは道を誤っていない。 カワサキの伝統的なカラーリングは、御存知ライムグリーンである。もちろん、レーサーと市販車は同じカラーリングで、カラーリングの共通化は、ZX-10Rの売上に大きく貢献していると私は考えている。 ヤマハの伝統的なカラーリングは、イエローのストロボカラーである。しかし、ヤマハはいつの日かこの伝統を捨てて、現在ではメーカーの独自色というものがない状態になっている。バカとしか言いようがない。 多くの人が考えていることと違い、オートバイを売ることにおいて、性能第一主義や、motoGPでの勝利はあまり関係ないことを証明したのが、カワサキとZX-10Rの存在であり、メーカーの人間はマーケティングについて、カワサキから多くを学んだ方がいいだろう。 もちろん相変らずホンダは2輪業界では手ごわい存在だが、ホンダを観察していると、強さの中には弱さが同居していることも伺い知ることが出来る。 又、上記の私の記述においては、ヤマハがいかに無能かも分かるが、面白いことに、4メーカーの中で最も2輪業界を制すことに好都合なポジションにいるのが、ヤマハなのである。 これまでに何度も記述しているが、ホンダ、スズキはオートバイ以外にも、クルマを販売している。これはクルマにとってもオートバイにとっても、マイナスに作用するお荷物でしかない。また、カワサキは他のメーカーと違って、オートバイに関してはフルラインではない素晴らしいメーカーだと言うのに、それよりも以前に、電車や船や飛行機などを造っている。まるでめまいがしそうだ。 ヤマハはフルラインをやめ、得意なことに特化すれば、恐らくナンバーワンのブランドになることだろう。それについてはその内に語りたいが、まずはカワサキのZX-10Rの成功に対して、拍手を送りたいと思う。 ★追伸 本日より予め予告していたように、“ですます調”ではない『アーブの日記』にくらがえすこととした。 これに伴い、ある一部の人達の気分を害すこともあるだろう…。しかしヒトは、1日に1回位は他人を怒らすようなことを言わなければ、その人は意味のあることは言っていないと私は思うので、1回の書き込みで数百人の人達を怒らせる可能性を秘めた、インターネットの日記というものに対して、私は抗しがたい魅力を感じている。 しかし、その一方で、ある一部の人達においては、ヒザを打つようなことを語っていくことにより、共感者との出会いもこれ格別な味があるものである。 モノを書くというのは、つまりは命がけの飛躍である訳だが、投資と同じで、何もしなければ得られなかったであろう利益の為にも、私は積極的にリスクもテイクしたいと思い、また、蛇足だが、1人で立っていることができないオートバイという乗り物は、リスクをテイクしている人間からは、自由は奪えないという象徴的な乗り物だと私は思う。 えっ? 何々? もちろん環境破壊の象徴でもありますよ、エコロジストの皆さん。 |
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