Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ビッグスクーター市場 2004年12月15日 01:58

 頭の悪そうな、否、頭の悪い広告代理店の営業マンから、次のようなエピソードを聞いたことがある。

 とあるオートバイが集まるイベントにて、ヤマハのマジェスティに乗ってやってきた若者に、自分の乗っているオートバイのメーカーは何かと聞いたところ、若者は自分の乗っているオートバイのメーカーを知らなかったという。
 皆さんは、この営業マン同様、この若者はバカだと思っていることだろう。
 しかし、私には異論がある。バカなのはヤマハの方である。

 つまりこうだ。
 若者がマジェスティに乗るに当たって、“ヤマハ”の名前などどうでも良いのだ。つまり、すでにヤマハのオートバイにおけるブランドバリューなど、放棄しても構わない、否、すぐに放棄すべきなのだ。
 多くの一般人に、「ヤマハとは何か?」と質問すれば、ほとんどの人は、「それはピアノだ」と答えるだろう。
 私は国内のオートバイメーカーの4社に対して、オートバイだけしか作っていないヤマハに対して敬意を表しているが、ヤマハ発動機は楽器を作っているヤマハからせっかくスピンオフ(分社化)しているというのに、ヤマハは自分の社名に自惚れして、オートバイを作る会社にも『ヤマハ』と命名してしまった。
 これが終わりの始まりである。

 皆さんはヤマハのマークを御存知だろうか? そう、あの“音叉マーク”のことだ。音叉というのは、楽器の音を調律する時に使用する道具である。これがオートバイに何の関係があるというのだろうか? 皆さんは今までに、バイク屋に音叉が置いてあるのを見たことがあるだろうか? 皆さんはオートバイの整備士が音叉を使ってオートバイを整備している所を見たことがあるだろうか? 私は無い。なぜならば、音叉とオートバイは何の関係もないからである。(RC211Vの排気音を美しくする為には必要かもしれない)
 そう、楽器とオートバイは別の物なのだから、ヤマハは、“ヤマハ発動機”は、即刻社名を変更するべきである。

 更に言えば、ヤマハはマジェスティだけを売る会社を別に作るべきだ。社名はズバリ『マジェスティ』である。
 そう、マジェスティの成功をより強固にする為に、“ビッグスクーター”というカテゴリーを、ビッグスクーターではなく、“マジェスティ”というカテゴリー名にしてしまうのである。
 理由を説明しよう、若者は、マジェスティを買うに当たって、メーカー名にはこだわらない。ヤマハはマジェスティという名前だけを全面的に打ち出したマーケティングをすべきである。たとえば、無知な若者がマジェスティが欲しくなったとしよう。若者は次のように尋ねる。「マジェスティを売っているのはどこだ?」すると知っている者は次のように答える。「それはマジェスティだ」
 えっ? 何々? クスリをやっているのかって? クスリなどやっていないどころか、アルコールすら一滴も飲んでいない全く正常な状態だよ。私は。

 私はマジェスティの成功は本当に素晴らしい偉業だと思っているのだ。だからせめてヤマハはこの成功を噛み締めてもらいたいのである。
 マジェスティがヒットした時、若者はマジェスティに対して、映画の『アキラ』や『ジャッジドレッド』に出てきた未来のオートバイのイメージを抱いたに違いない。そして、その4輪者に乗るような乗車姿勢、ローダウン化すれば、ワイド&ローなフォルム、全てがクールに見えたことだろう。こうしてマジェスティはビッグスクーター市場という革命を起こした。間もなく他のメーカーも隣の芝生を見てこのカテゴリーに参入してきた。スカイウエイブとフォルツァである。しかし、スズキとホンダのデサイナーは、若者の心は全く読んでいなかった。スカイウエイブは、テールのデザインが小さく、とてもワイドとは言えないイデタチだった。若者はこれはマジェスティではないとすぐに分かった。これは他のメーカーが真似したニセモノだと…。しかし、ホンダはもっと愚かだった。マジェスティに乗り出したジェネレーションは、ロードスポーツのオートバイ、その中でも特にレーサーレプリカには絶対に乗りたくなかった。しかし、ホンダはマジェスティのコピー車を、レーサーレプリカ風のフォルムにした。フォルツァのフロントマスク、リアビュー、まるでレーサーレプリカのセンスでまとめられている。若者は思った。「オレが乗りたいのはマジェスティだ、レーサーレプリカではない」と。スズキは少し遅れてそのことに気付いた。スズキはスカイウエイブのリアビューを、4輪風のゴツいデザインにマイナーチェンジして販売し、少し売上を伸ばした。しかし、テールランプの位置が高い為、このカテゴリーの成功のキーワードである、“ワイド&ロー”なフォルムにはなっていないので、マジェスティの成功には遠く及ばなかった。そして他メーカーが裾を噛んでいる間、マジェスティは成功を不動のものとした。初期型よりも更にワイド&ローなフォルムのニューモデルを発表したのである。若者は思った。「やっぱり本物はマジェスティだ」と。ちなみにマジェスティに乗る若者の内、マジェスティの馬力を正確に答えられる人間がいるだろか? その人数自体どうでも良い話だ。こうしてこれまでヤマハの二番煎じでおいしい思いをしてきたホンダは、今回もうまくいくだろうと思ったフォルツァが失敗したので、フォルツァをモデルチェンジした。駄作である。新しいフォルツァのテールランプを皆さんは見たことがあるだろうか? ブレーキランプが中央に寄っていて、夜間スモールランプがついていると、ランプが中央によっている為に、ワイド&ローどころか、寄り目に見えてしまうのである。バカげている。
 もし私がホンダの社長だったならば、ドナルド・トランプの言葉を借りるまでもなく、フォルツァをデザインしたデサイナーを呼んでこう言うだろう。「オマエはクビだ!」本田宗一郎とは一体何だったのだろうか? ホンダDNAとは何だったのだろうか? それは徹底した現場主義ではなかったのだろうか? ホンダの社長は街中を走るビッグスクーターを見たことがないのだろうか? ホンダの社長は、赤坂でポルシェに乗ってバイクに激突する位の勢いで現場を観察すべきである。そう、おフランスからやってきたあの男のように…。

 話を戻そう。ヤマハはマジェスティの成功を強固にする他に、即刻マジェスティだけを製造販売する、『マジェスティ』という名の新会社を立ち上げ、元の会社からスピンオフすべきである。
 そしてマジェスティ社は新規上場するのだ。投資家はこの新しいマジェスティ社の社名を聞いて、アナリストにこう質問するだろう。「マジェスティ社はどんな会社だ?」アナリストは次のように答えるだろう。「街中で走っている、大きなスクーターを作っている会社ですよ」。「あああれか、あれならよく見かける、最近特に売れているようだ」。恐らく難なく投資家から資金を集めることができるだろう。こうして集めたお金で、マジェスティのカスタムビルダー、ファッションリーダー、旬なタレントに片っ端から無料でマジェスティを提供するのである。そう、TWでやったように…。
 まずはターゲットは若者だ。そうこれは、GAP(衣料品メーカー)の戦略である。GAPは、若者向けのカジュアルな洋服を売っていると自ら語っている。しかし、実際のドル箱は、“若者に見られたい中年”なのである。マジェスティは若者の乗り物だと大マジメにマーケティングすれば、恐らく、“若者と思われたい”中年ライダーの多くもマジェスティを買うだろう。間違っても、「中年ライダーもどうぞ」などといったキャンペーンを打ってはならない。
 そしてまた、マジェスティ社は、ビッグスクーターのカテゴリーを独占してはならない。他社が食い込む余地をワザと残すのである。
 食い込ませる会社はどこが適しているだろうか? 多分それは、図体はデカいが、子犬のように何にでも鼻を突っ込むメーカーがいいだろう。ホンダである。
 そう、マジェスティ社はすでにビッグスクーターという名のカテゴリーのリーダーなのだから、パイの分け前にこだわるのではなく、パイそのものをデカくしていくことを考えるべきである。
 普通、1つのカテゴリーで奪えるシェアは、50%位が限界である。つまり、マジェスティは50%のシェアを奪い、残りの50%はホンダとスズキに渡すのである。消費者は浮気性である。すぐにリーディングブランドとは別のブランドを欲しがる連中が現れるものだ。その場合、自社に忠実でなくなった顧客は整理するのだ。そう、整理するのだ。
 また、カテゴリーを成長させるには、競合は利益にもなる。例えば、たった今、秋葉原の電気屋がほとんど店をたたみ、秋葉原には一軒しか電気屋がなくなってしまったならば、外国人観光客は秋葉原に買い物にでかけるだろうか? 競合の存在は、カテゴリーの成長にとってチャンスである。マジェスティ以外にも、フォルツァ、スカイウエイブと、色々とライバルがいると、益々消費者はそのカテゴリーを意識せざるを得なくなるのだ。そしてそのカテゴリーを制すのは、間違いなくリーディングブランドであり、何でも屋ではなく、ビッグスクーターしか作っていないブランドである。それはマジェスティ社が相応しい。

 では、ホンダやスズキはマジェスティ社に対して、どうすれば打撃を与えることが出来るだろうか? それは、この分野からの撤退である。
 この分野にライバルがいなくなることで、消費者の関心は薄れ、カテゴリーの成長も鈍化するだろう。逆にやってはいけないのが、このカテゴリーに対する参入、更にもっと良くないのが、ラインエクステンション(製品種目の拡大)である。どうだろうか? ホンダが更にバカに見えることだろう。
 ホンダは、ワイド&ローの掟を破ったフォルツァが若者から見向きもされなかったので、ワザワザ苦労して中古のフュージョンを選ぶアンチマジェスティ派の若者を見て、仕方がなくフュージョンの新車販売を再開した。ラインエクステンションである。ホンダに言わせれば、「ヤマハは車種を選べませんが、ホンダはお好みの車種を選べます」ということだ。しかしこれは敗者のゲームである。ホンダ党はホンダの薦め通り自分の好みでバイクを買うので、マジェスティだけにフォーカスしているヤマハから益々遅れを取ることとなり、製品ラインの増加は、そのままコストの増加につながり、利益率を圧迫するのだ。

 繰り返し言おう。私がホンダやスズキにやってもらいたいことは、このカテゴリーからの撤退である。もう1度言おう、私がホンダやスズキにやってもらいたいことは、このカテゴリーからの撤退である。それがライバルメーカーに対する攻撃の第一歩だ。




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