Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ロードスポーツ市場(1) 2004年12月16日 02:09

ラインの絞り込み → 成功

ラインの拡大 → 失敗

 国内のメーカーはまだ分からないらしい。
 では、これはどうだろうか?

ドゥカティ → ラインの絞り込み → 成功

アプリリア → フルライン化 → 倒産

 さて、前回はビッグスクーター市場について語ったが、今回はロードスポーツ市場について、私の考えの正当性を論じてみよう。

 ロードスポーツの分野におけるナンバーワンブランド、それはドゥカティをおいて他にはない。
 なぜか? ドゥカティはロードスポーツ車しか作っていないからである。更に言えば、ドゥカティは強力なブランド力を有している。ほとんどパーフェクトなまでに…。
 では、ドゥカティ社のブランド力のフィフスエレメント(5つの要素)を紹介してみよう。

 その1 イタリアンレッドの車体
 その2 スチール製のトラスフレーム
 その3 L型2気筒のエンジン
 その4 デスモドロミック
 その5 贅沢


 正にエクセレントである。
 ドゥカティのラインナップは非常に狭い。従って非常に低コストでオートバイを生産できるだけでなく、マーケティング費用も少なくて済む。しかし、強力なブランド力を有しているので、車体には大きなプレミアムをつけることが可能である。結果、儲けることができる。

 では、ドゥカティのディーラーにあなたが訪れたとしよう。あなたは1番速いドゥカティ(それは999だ)か、伝統的な空冷のドゥカティ(それはSSだ)か、ストリートで乗りやすいドゥカティ(それはモンスターだ)かを選べばいい。ただそれだけである。商談はいたってシンプルだ。

 では次に、ホンダ車の中で1番速いオートバイ、そう、例えばCBR1000RRを買いに、ホンダの販売店にでかけてみよう。
 店頭には、10万円前後の中国人が作ったトゥデイが置いてある。そして店内に入ると、種種雑多なオートバイが展示してある。しかし、多くの場合、CBR1000RRはそこにはない。店員はあなたに尋ねる。「お探しのオートバイは何ですか?」。これは、ここにはこれといって特徴のあるオートバイはないという意味だ。
 あなたは答える。「CBR1000RRをくれ」。すると店員は、「取り寄せになります」と答える。あなたが店内を見回すと、トゥデイをはじめ、オートバイには定価に斜線が引かれ、その下には値引きした価格が表示されている。あなたはCBR1000RRも値引きができると思う。そして店員はしぶしぶながら値引きに応える。いつもやっているように…。
 ホンダの販売店が毎日やっていること。それはトゥデイを売ることである。あなたはこの中国産のトゥデイを売っているホンダの販売店でCBR1000RRを買うハメになる。
 あたなはファッションモデルが、シャネルのドレスを買いにイトーヨーカドーに行くと思うだろうか? しかし、ホンダが行っている行為は、イトーヨーカドーでシャネルのドレスを売ることと変わりがないのである。
 ホンダは何を考えているのだろうか? 少なくともホンダの販売店の店員は、トゥディ(今日)のことしか考えていない。今日とにかく店に入ってきた客に何かを売ることを最優先している。従って、ブランドが傷つこうがお構いなしだ。少々の値引きでトゥデイ(今日)を乗り切ることができるのであれば、とにかくトゥディ(今日)何かを売らなければならない。

 そう、あなたが思った通り、このストーリーの結末は、“ジリ貧”である。
 ホンダが販売店にトゥデイを売らせているのは、ある種象徴的だ。「オマエらはとにかくトゥデイ(今日)のことだけ考えろ」という訳だ。
 しかしドゥカティは違う。ドゥカティのブランド力を維持しているもの。それは高価格である。“高価格”。なんて素晴らしい響きだろう。
 信じられないかもしれないが、価格というものは、高ければ高いほど商品がよりよく見えるのである。
 ドゥカティはホンダの販売店と違って、よく心得ている。えっ? 何を心得ているのかって? それは、価格で来る客は価格で去るということをである。

 しかし、ノーバディー・パーフェクト(完璧な人はいない)とはよく言ったものである。そんなエクセレントなドゥカティも間違いを犯すことがある。そう、学習能力の高いあなたならお分かりのように、SS400とM400である。
 “SS”とは何だろうか? それはスーパースポーツである。400ccのオートバイがスーパースポーツだろうか? 何かを超えている(スーパー)というよりかは、アンダーなオートバイだ。つまりSS400は、スーパースポーツというよりかは、スモールスポーツである。
 M400の“M”とは何だろうか? それはモンスターのことである。400ccのオートバイはモンスター(怪物)だろうか? いや、普通のオートバイだ。M400のMは、モンスターではなく、ミニチェアのMと言った方が相応しいだろう。
 どうやらSS400は現在はラインから消えているようだが、M400はまだ継続して売っているようだ。バカげている。
 ドゥカティジャパンは、今すぐに400ccのドゥカティをラインから外すべきである。ローンの審査も通らない子供を相手にする必要はない。400ccのドゥカティはニセモノだとみんな心底思っている。リッタークラスのホンモノのドゥカティのブランドバリューを傷つけるのは即刻やめるべきだ。

 もう1つ追加しよう。それはmotoGPのL4である。なぜドゥカティはL4など作ったのだろうか? 顧客が次のように考えるとは思わなかったのだろうか? 

 「ああ、やっぱり2気筒じゃダメなんだな…」

 ドゥカティはmotoGPマシンのレプリカを発売するらしいが、恐らくそこそこ売ることができるだろう。しかし、恐らく2気筒車のブランドバリューの低下という出血も伴うハズである。
 ドゥカティはmotoGPに参戦するに当たって、何が何でも2気筒にこだわり続けるべきであった。勝たなくてもよいのである。カワサキのようにタナボタで3位にでも入れば充分である。むしろ4気筒車で勝てなくなった時の方が悲惨である。もちろんそれは今年の話だ。
 ドゥカティはフェラーリから、デスモよりもニューマチックの方が優れているとの助言を無視して、デスモにこだわった。また、トラスフレームにもこだわった。なぜ気筒数だけ変えたのだろうか? 勝てないまでも、2気筒車で並居る強豪を相手に闘えば、更に強力なLツインが開発されたのではないだろうか? これが私の考えるドゥカティのミステイクである。

 ついでに言えば、過去を批判することは容易だが、未来について批判することにはさすがの私も慎重にならざるを得ないものの、カワサキについて語ってみよう。
 カワサキは、ライダーや現場の意見を聞き入れて、同爆の開発をすることは絶対に避けてもらいたいと私は切に思う。カワサキは勝たなくてもいいから、このまま等爆の4気筒車で闘うべきであり、もしかしたら、ミック・ドゥーハンのような等爆使いのライダーにめぐり会えるかもしれないし、まーそれはかなりの幸運としても、等爆を極めることで、そのノウハウがスーパーバイクやスーパースポーツに生かされ、更には市販車にもフィールドバックされればそれで良いのである。間違っても、ヘンテコな2気筒車のようなサウンドをカワサキ車から発してはならない。たかだかmotoGPの優勝の為に、カワサキの並列4気筒車のブランドバリューを低下させてはならないのである。

 おっと、カワサキとスズキについては次回に語る予定だったのに、話が脱線してしまった。
 本題に戻し、今のところうまく行っているだけに過ぎない、国内最大手のホンダについて助言してみよう。

 ところで、つい最近私は、ホンダの本社ビルの1階にある、『ホンダウエルカムプラザ』に行ってきた。そこには、相変らず4輪車と2輪車が展示してあった。なんてバカな会社だろう。なんでいつまでもこんなことをしているのだろうか?
 ホンダの中で最も売上を上げているのは、4輪車である。だからこそ社長は4輪車を売ることに必死であり、2輪車まで頭が回らないのである。しかし、そうは言っても2輪車も相変らず作っているので、ホンダはいつまでたってもトヨタ日産に続く3番手のメーカーに甘んじてしまうのだ。

 さー皆さんお待ちかね! スピンオフ教の教祖のお出ましである! ホンダは2輪をスピンオフすべきである。しかし、元々の会社は、ホンダではなく、別のメーカー名にすべきである。なぜならば、多くの日本人は、ホンダに乗っていると言うと、オートバイに乗っていると思ってしまうからである。これでは4輪のブランドバリューは築けない。えっ? 何々? それではせっかくのこれまでのホンダの歴史が生かせないって? そんなものはクソ食らえだ!

 証拠を示そう。
 ホンダはかつて、小型自動車というカテゴリーが全くなかったアメリカに進出し、シビックやアコードなどの小型車で大成功を収めた。アメリカ人に向って、「私はホンダに乗っています」と言えば、「それはシビックか? アコードか?」という質問が返ってくる。
 しかしホンダは、今度はアメリカの高級車市場に進出しようと企んだ。しかし、ホンダはそれまでのホンダのディーラー網を使わず、あえて大きな出費を覚悟で、ホンダとは違う、『アキュラ』のブランドで高級車市場に進出した。結果は大成功である。アメリカ人はアキュラはホンダとは違うと考えた。次にはトヨタの話をしよう。トヨタは、最初に『トヨペット』という名前でアメリカに進出した。しかし、このクルマは壊れるというレッテルを貼られてしまった。トヨタはレッテルをくつがえすことは無理だと考えたので、次には『トヨタ』の名前で再び進出し、大成功した。そして、高級車市場に進出して成功したアキュラのように、トヨタもアメリカの高級車市場に進出した。名前はトヨタではなく、“ラグジュアリー”の言葉をもじった、『レクサス』にした。こちらもアキュラに続いて大成功した。同様に、ニッサンはニッサンの名前を使わず、インフィニティの名前で進出し、成功した。
 そう、ホンダはすでに自分自身が名前を変えることが成功の秘訣だということを、身をもって体験しているのである。

 何度でも繰り返し言おう。商品の売れ行きを左右するのは、品質ではない。もっと言えば、性能ではない。商品同士の売上の争いは、性能の争いではなく、ユーザーの知覚の争いである。
 そして、ユーザーの知覚とは、これすなわちブランドイメージのことである。
 ホンダのドル箱とは何だろうか? それはミニバンである。ホンダは国内でミニバンを売るに当たって相応しいメーカー名に社名変更すべきである。墓の下で眠る宗一郎はこの際無視して構わない。なぜならば、ホンダのオーナーは、宗一郎ではなく、株主だからである。

 しかし、宗一郎の意思を受け継ぐ別会社においては、『ホンダ』の名前を生かしてもいいだろう。では、本田宗一郎のレジェンド(伝説)とは何だろうか? それはスーパーカブである。そう、ホンダは、カブ系エンジンを載せた車両、カブ、モンキー、ゴリラといった小排気量車だけを生産する会社を作り、その会社にこそ『ホンダ』と名付けるべきである。

 だいぶ話が長くなったが、この調子で、CBR1000RRがドゥカティに対抗できるオートバイになる為には、ハイパースポーツ車だけを売る会社を立ち上げるべきである。ここで重要なのは、オートバイのカラーリングである。
 カラーリングは、絶対にライバルメーカーに対して、反対色を使うべきだ。つまり、ドゥカティにすでに赤と黄色を取られているので、ホンダ(の新しい会社)は、青しかない。しかし、青はすでにスズキに取られているので、非常に微妙だ。唯一の救いは、スズキは、青一色ではなく、青白のツートンだということと、最近の青は、マットな青ではなく、メタリックブルーだということくらいだ。
 ちなみに、私の個人的な希望では、本当は黄色が良いと思う。実際、ワールドスーパースポーツのCBR600RRは、黄色のカラーリングが施されている。
 ところで、聞くところによると、ヨーロッパにおいては、ワールドスーパースポーツの成績が、600ccクラスの売上に直結しているという。しかし、ホンダはなぜかCBR600RRのメインのカラーを赤にしている。こんなところ1つとってみても、ホンダのマーケティング担当者の無能ぶりがよく分かる。

 しかし、こうして考えると、(再び話脱線調だが)カワサキのライムグリーンという色は、本当に素晴らしい色だ。ライムグリーンというのは、ヨーロッパの一部の人達にとっては、悪魔を表す色らしく、ヨーロッパのメーカーならば、絶対にライムグリーンという色は採用しないらしい。しかし、極東の島国のメーカーが、悪魔の色を身にまとい、海を渡ってきて活躍したのならば、ヨーロッパの人々は何か得体の知れない魅力を感じることだろう。カワサキは未来永劫に渡ってライムグリーンを使用し続けるべきである。

 えっ? 何々? (←このフレーズを待ちわびる読者も増えたようだ)そんなに沢山会社を作って、それぞれに別ブランドを与えるよりも、1つのブランド名で色々なものを作って売った方が、相乗効果が高まるんじゃないかって?
 的を得た質問なので、的を得た回答をしよう。
 相乗効果はないという証拠は数字だ。例えば、アメリカの上位100社の売上と、我が国の上位100社の売上は、ほとんど同じである。しかし、利益率は、アメリカが6.3%に対して、我が国はたったの1.1%である。なぜか? それは、我が国の上位の会社は、同じ名前で異なる仕事をしている会社が多いからである。代表的なのが、三井や三菱である。また、松下やソニーも色々なことに手を出し過ぎている。こうして、顧客は会社の名前と製品のイメージを一致させずらくなっているのだ。つまり、日本の企業の利益率が低いのは、政治的、経済的問題やマネージメントの問題ではなく、ブランド作りの問題なのである。逆説的に言えば、アメリカはコカ・コーラやマクドナルドに代表されるように、ブランドによって莫大な利益を上げているのだ。(最近で言えば、マイクロソフトやインテルなどもこれに加わっている)

 えっ? 何々? アメリカと日本の2つの例だけでは、説得力がないって? では、ナショナリズムを恐れずに、お隣の韓国を例に出そう。韓国の状況は日本よりも更に悪い。韓国には、ヒュンダイという会社があるが、この会社はチップ(半導体)からシップ(船)まで作る巨大企業である。韓国では、ヒュンダイはお金以外のものは何でも作っているのだ。ちなみに、韓国の上位25社の利益率は、なんとたったの0.8%である。

 しかし、実際には、あなた自身がすでに日々の暮らしの中で感じているハズだ。辺りを見回して頂きたい。業績が悪化している商売は何か? それは百貨店である。百貨店は、文字通り何でも売っている。逆に、業績を伸ばしている商売は何か? それは、マツモトキヨシ(薬局)、ABCマート(靴)、ガリバー(自動車の買取)などの専門店である。

 証拠は揃っている。
 国内のメーカーは、技術や品質の売り込みよりも、ドル箱になっている商品に特化して、更にブランドを築くことに精力を傾けるべきだ。
 そしてその第一歩は、ラインエクステンション(製品種目の拡大)をやめるか、どうしても作り続けたい場合には、カテゴリー毎に会社をスピンオフ(分社化)するのである。




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