Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


メリークリスマス 2004年12月24日 20:45

 ドゥカティにブリヂストン、玉田にミシュランと、GPファンの認知的不協和の分娩に立ち会うこの時期、皆さんいかがお過ごしかね?
 えっ? 何々? すでにシティーホテルでヨロシクやっているって? それならばあなたがこの日記を読んでいるのは、イブではなく25日ということだな。(笑)

 さて、本日はクリスマスイブだが、クリスマスというのは、本来はキリストの生誕を祝う日とのことだが、この素晴らしいお祝いのイベントは、今ではカップルだけのものになってしまっているようだ。
 しかし、私が思うに、クリスマスにキリストを祝うのは、国内のオートバイメーカーのマーケティング担当者こそ相応しいと思う。
 なぜならば、キリストこそはマーケティングとブランディングの天才だからである。キリストは、自分の売り込みたかった商品(それはキリスト教と呼ばれている)を売り込む際、金を持っているおエラ方連中をターゲットにはしなかった。(もちろん自分が迫害されるという不可抗力もあっただろうが)かわりにキリストは、どちらかというと肩身が狭い思いをしている、失業者や売春婦などの人達にターゲットをしぼり、自分の商品を売り込み、自分が死んでからも、(ナント!)今日まで全世界に自分の商品を売り続けているのである! ファンタスティック!
 もちろん、キリストは自分のアイデアを売り込むに当たって、世間の注目を集める為にヨハネを使ったし、マーケティングに関しては、どちらかというとパウロの方が才能を発揮していたかもしれない。まー、私はキリスト教徒ではないし、聖書を枕元にも置いていないので、詳しくは知らないが、“おつむ”が弱い私にも理解できることは、マーケティングにおいては、犠牲が必要だということで、これはこれまでに人類が起こした戦争を見てもよく分かる。そう、あらゆる争いにおいても、犠牲なくして戦略はありえないのだ。

 しかし、国内のオートバイメーカーを見ていると、他人に追従するばかりで、とても主体性を持って商品の売り込みを考えているとは思えない。ゼファーが売れればネイキッド、TWが売れればトラッカータイプのバイク、ビッグスクーターが売れればビッグスクーターと、これでは、「誰かが宝くじで100万円当てたので、自分も当てられるだろう」的な思考とほとんど変わりがないと言える。

 さーおでまし! そこでスピンオフ教の教祖の私がスピンオフを再び宣伝しよう。
 スピンオフによって最も効果が高い要素とは、それはトップに強力なモティベーションが生まれることである。
 例えば、以前私が記述したフィクション(つくり話)であるマジェスティ社を、ヤマハからスピンオフして本当に作ったとしよう。マジェスティ社の社長は、マジェスティの販売戦略に関して、全権を握ると共に、莫大な年収も稼ぐこととなるだろう。そう、あなたも御存知のように、人間のやる気は収入と深い関係を持っているのだ。
 そして、マジェスティ社の社長は、マジェスティを売ることに全精力を傾けるだろう。そうなれば、間違っても、motoGPに参加しようなどとは考えず、株主の金をドブに捨てるようなこともしなくなる訳だ。
 大抵のスピンオフが成功する1番の理由は、この“強力なトップの出現”である。
 逆説的に言って、4輪の販売の不振に頭を悩ますホンダの社長が、2輪にまで頭が回らないように、ラインエクステンション(製品種目の拡大)は、弱い社長を生み出すのである。
 そう、例えばソニーは、あらゆることに手を出して、かの有名な“ソニーショック”という株価の暴落の憂き目を見たが、最近私の耳には、素晴らしいニュースが飛び込んできた。そう、ソニーのプラズマテレビの撤退である。素晴らしい。本当に素晴らしい英断である。
 また、もひとつオマケに素晴らしいニュースは、IBMのパソコン部門からの撤退である。素晴らしい。本当に素晴らしい英断である。

 何度も繰り返すようだが、国内のオートバイメーカーは、今すぐ、本当にたった今から、得意な車種に特化すべきである。そして、得意ではない車種は、思い切って売るのをやめるべきである。そう、高収益部門に全てのモノ、つまり、ヒト・モノ・カネを全部注ぎ込み、不採算部門からは撤退する、それがゲームの全てである。
 えっ? 何々? そんなことをしたら、多くの社員をリストラしなくちゃなんないのでツラいって? その場合は、リストラする人達を納得させる為に、外国人のCEOを雇ってきたらどうだい? そう、ニッサンがやったみたいに。(笑)

 冗談はさておき、国内のオートバイメーカーは、全世界に高性能なオートバイを売り込むことに大成功した。そして成功に気をよくして、オートバイなら何でも作るようになった。そして今度はフルライン化によって自滅の道を歩み始めた。つまり、成功は傲慢につながり、傲慢は失敗につながるという訳だ。なんと教訓めいたストーリーだろう!

 それに対して、海外のメーカーは堅実である。ハーレーは、V型2気筒のゆったりとしたオートバイを意味している。ドゥカティは、L型2気筒のスポーツバイクを意味している。BMWは、水平対抗2気筒のオートバイを意味している。トライアンフは、3気等のオートバイを意味している。ホンダ、ヤマハ、スズキは、あらゆるオートバイを意味している。それは何も意味していないことである。
 なぜ国内のメーカーは、何でも作りたがって自社のブランディング作りには無関心なのだろうか? それは、とにかく何か新しいものをつくってヒットさせたいと考えるからである。日本のメーカーは、まるで今の時期の映画制作会社の幹部のようだ。つまり彼らの頭の中にあるキーワードは、「来年は何がヒットするか?」である。彼らには長期的展望はなく、何か一発ヒットさせたいという欲望で頭が埋まっている。つまり、四半期の決算報告書にしか関心がないのだろう。
 しかし、もし仮に、拳銃の弾が命中するのに5年も10年もかかるのであれば、殺人罪に問われる犯人がいなくなりそうなように、企業の長期的な不利益を生む人物よりも、短期的な不利益を生む人間を罰するような風潮がメーカーにはあるようなのだが、私は日本の製造業をホンモノにする為にも、日本はただモノを作るだけの国から、キチンとブランドを構築できる国になってもらいたいと切に思う。
 ドゥカティが(モンスターとそっくりな)VTR250を見ても訴えないのは、恐らく訴える価値もないからなのだよ。ちなみに、ホンダのニセモノを作っていた中国の『HONGDA』に対して、ホンダは裁判に勝って、約1900万円を『HONGDA』からせしめたそうである。灯台下暗しだ。


偉大な企業は、意味を生産する。
リチャード・パスカル




www.romc.jp www.maderv.com www.bugbro.com www.bugbromeet.com