Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


良いお年を 2004年12月31日 11:08

 マーク・トウェインはかつてこう語った。「われわれが純粋に正直な自分自身になるのは、自分が死んだ時であり、死後何年も経ってからだと思う。早く正直になるには、早く死ぬことだ」。

 私が正直になるのは、どうやらあと数年後のようだ。少なくとも今日ではないだろう。従って、今後も私のダブルスタンダード(二枚舌)は続くと思うが、皮肉なことに、私から二枚舌をなくしてしまったら、私の魅力も半減することだろう。

 さて、国内2輪専門誌に寄稿するライターの方達の書く、天真爛漫な文章は嘲笑の対象だが、彼らはバカではなく、自らの使命に忠実なだけである。それは広告主へのリップサービスであり、自らの保身の為に編集長に歩調を合わせることもあるだろう。つまり、これが国内2輪専門誌は死んでも治らない理由でり、バカなのは国内2輪専門誌ではなく、それを読む我々なのである。

 そして、国内2輪専門誌に書かれている内容は、“変化”であって、“英知”ではないというのが、私の考えである。英知が欲しければよそへ行ってくれという訳だ。ようこそ『アーブの日記』へ。

 しかし、もしあなたが私の文章に運命を感じないのであれば、運がないのだよ。お気の毒。

 話を戻して、二輪業界は、80年代から始まった空前のロードレースブームとバブルの波に乗って、急成長したカテゴリーだが、ロードレースブームが去り、バブルがはじけたことで、一気に真冬に突入してしまった。業界関係者はもがき苦しみ、多くの人達は業界を去り、残された人達もなすすべがないといった状態だ。その内にストリートバイカー系へとニーズは移行し、若くて新しい才能が業界を席巻し、それまでのレーサーライクなセンスの持ち主は歯がゆい思いで彼らを眺めていた。私はその様子を観察しているだけでかなりおかしかったが、業界全体がおかしくなってしまったのは困りものであった。

 これに対して、私はことあるごとに、メーカーの一貫性の無さを指摘してきたが、話を面白くする為に、メーカーを消費者の目からではなく、投資家の目でながめることで、読者に英知を伝えたいと考えた。
 我々の良いお手本は、ハーレー・ダビッドソンとドゥカティであり、ハーレー・ダビッドソンとドゥカティは、時代のニーズの変化に対しても全く動じないブランドである。それに対して、国内メーカーは、尻の軽い女のようだ。
 そして、尻の軽い女が目指すものは、“売上”と“市場シェア”である。逆に自社の持つブランドは軽視している。これが自滅への道であることは、多くの企業が証明している。

 では例を出そう。ドイツには2つの高級車のビッグブランドがある。あなたも御存知の、『ベンツ』と『BMW』である。しかし、ベンツの方は、競争力を増加させる為に、大衆車と高級車の部品の共通化を計り、開発コストを抑えようと考えた。こうしてダイムラークライスラーが生まれた。
 しかし、ドイツのエンジニアは、デトロイトのエンジニアを蔑視し、この統合は見事に失敗した。そして、この失敗に対して、社長は会社を再構築することにしたが、その内容は、幹部を更迭し、自分の妻を片腕にすることだった。やれやれ。
 えっ? 何々? それでもベンツは高品質漂う素晴らしいクルマで、近所の成金も乗っているって? その品質に関する調査でも、ベンツは日本車にも負け、ジャガーにすら劣り、リンカーンやキャデラックにすら負けているようである。
 対してBMWは、高級車路線は変更しなかった。会長のヘルムート・パンケは記者会見で、「高級ブランドは、それを堅持しなければならない」と語った。エクセレントである。
 結果、ダイムラー・クライスラーは6億6600万ユーロの赤字なのに対し、BMWは純利益が50%増えて、18億7000万ユーロの黒字となった。ダイムラー・クライスラーが『スマート』などというバカげたクルマに手を出したり、安っぽいベンツを売り出したりしている間に、BMWは高級路線を守り続けたことが、両者の明暗を分けた。

 さて、このストーリーで思い出されることはないだろうか? そう、それはスズキとカワサキの業務提携である。全くバカげている。
 スズキとカワサキの業務提携は、今のところ目覚しい失敗に終わっている。詳しい方なら知っていることだろう。それは、スズキのスカイウエイブのラインエクステンション(姉妹品)である、カワサキのエプシロンと、カワサキのD-トラッカーのラインエクステンション(姉妹品)である、スズキの250SB、カワサキのバリオスのラインエクステンション(姉妹品)である、スズキのGSX250FXなどである。
 こうした姉妹品は、商品の競争は、性能や品質の争いではなく、ユーザーの知覚の争いであることの格好の例となっている。
 つまり、エプシロンはスカイウエイブに勝てない、250SBはD-トラッカーに勝てない、FXはバリオスに勝てないのである。
 なぜならば、先発したオートバイがホンモノであり、後発はニセモノだとユーザーは考えるからである。性能や品質に違いはないというのに。
 同様に、国内メーカーがドゥカティの二番煎じでVTRやTLやSVを発売した所で、ドゥカティの優位がゆらぐことはない。なぜならば、2気筒のロードスポーツはドゥカティがホンモノだとユーザーは知覚しているからで、国内メーカーは4気筒や単気筒なども作っている、“何でも屋”だからである。

 何でも屋はうまく行かないと分かっていながら、なぜスズキとカワサキは業務提携などして、無駄にラインを増やしたのだろうか? 全くバカげている。全くバカげている。全くバカげている。

 私から伝える英知は、スズキとカワサキは元旦からすぐに業務提携を解消し、自分のブランド作りに邁進すべきである。

 良いお年を。




www.romc.jp www.maderv.com www.bugbro.com www.bugbromeet.com