Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


犠牲なくして戦略はない 2005年1月16日 22:02

 那須mslの休業に伴い、継続が困難になったロムシーだが、その後、めぼしいサーキットが見当たらず、ロムシー自体の存続も厳しかったが、私の友人から素晴らしいサーキットを紹介して頂いたので、急遽、このサーキットでロムシーを再開することとなった。
 新しくロムシーで採用したサーキットの名は、『第三京浜サーキット』である。
 急な話だが、早速今週週末の1月22日の深夜に開催予定で、同日の午前0時に、港北インターで受付を開始し、午前2時から予選をスタートさせる予定である。ちなみに、これまでのロムシーの伝統にのっとり、サーキットまでは自走不可であるので、トランポを所有していない方は、当日はレンタカーなどを手配して頂きたいと思う。
 ちなみに、予選・決勝共、コース上では一般車両との混走になるので、走行には充分に注意して頂くと共に、これも伝統にのっとり、ライダースミーティングは厳しく行う予定である。
 気になる参加料金だが、サーキット側の御好意により、今回はサーキットレンタル料金が無料だった為、参加料金は無料である。
 予想するに、今回のレースでは、これまでにない超高速バトルになると思うので、加給器の装着、及びそのセッティングで勝敗が分かれるだろう。パワーは、最低でも250馬力、出来れば300馬力くらいは欲しいところだ。
 これで、来週の日曜日には、「誰もいなかったので、自分が優勝しました」というメールが来るのが楽しみである。

 長い“つかみ”で失礼。(吉兆が冗談だと通用しない世の中なので、一応冗談とも言っておきます)さて、お正月に私がホメた『ツーカー』だが、昨日、孫さんことソフトバンクが買収を考えていることが報道されていたようだ。それに伴い、ツーカーは例のツーカーSの売上が好調で、昨年の12月の純増数では、ボーダフォンを抜いてツーカーが第3位になってしまったというニュースも知ることができた。
 自分でホメておきながら恐縮だが、実際に売上も伸びていたのか…。

 まーすでに、携帯電話もパリティー(ありきたりな)商品に成り下がった商品なので、他社との差別化はますます難しくなっている訳だが、オートバイメーカーも、犠牲なくして戦略はありえないということを学ぶといいだろう。

 では、シェア重視でなく、利益重視にメーカーが生まれ変わるべく、今回私が紹介するストーリーは、ボーイング社とエアバス社の争いである。
 ボーイング社は、世界最大の航空機メーカーだったが、1990年代半ばには、破綻まで追い込まれたことがあった。
 原因を作ったのは、エアバスの存在だった。エアバスは新規の受注を増やし、1994年にはボーイングの受注件数が50%を割ったことで、業界全体がボーイングの危機だと思うに至った。面白いことに、エアバスの成功はただの偶然に過ぎなかったのに、それを指摘する人はいなかった。エアバスの成功は、新規受注のブームと、政府の補助金と、採算度外視の受注が重なった結果に過ぎなかった。
 しかし、ボーイングは、あせった。そして血迷った。ボーイングはシェア優先に経営を切り替え、採算を度外視するようになった。ボーイングは沢山の航空機の受注を挽回することには成功したが、1997年には50年ぶりに損益を計上した。
 その後、受注を増やす方針をとっていたロン・ウッドワードという人物は解雇され、新しくCEOの座についたフィル・コンディットは、市場シェアを追いかけるのはやめた。対するエアバスは、2000年に超大型の旅客機を発表したが、エアバスは補助金に頼っているだけで、相変らず採算はギリギリで経営していた。ボーイングはこうした企業に正面から戦いは挑まなくなった。
 更にボーイングは、航空機ショーで多数の契約を取るというそれまでの慣習にも逆らい、こうしたショーで新規の受注をとるという姿勢も改めた。2001年のパリのショーでは、エアバスの受注は175件、ボーイングの受注は3件で、関係者は失笑した。しかし、数字を見ると、2001年のボーイングの第2四半期の純利益は35%上昇した。航空機業界専門のコンサルタントのウィリアム・ローは、いみじくも語った。「1番大切なことは、一機売るたびに充分な利益を稼ぐことだ」
 国内オートバイメーカーの中で、どのメーカーがボーイングの戦略を取るだろうか?

 ゼファーがヒットすれば、ホンダはCB、ヤマハはXJR、スズキはインパルスでシェア争いに加わった。更にカワサキは水冷のホンダやスズキに対抗して、ZRXというラインエクステンション(製品種目の拡大)を行った。
 TWがヒットすれば、ホンダはFTR、スズキはバンバンでシェア争いに加わった。
 マジェスティがヒットすれば、ホンダはフォルツァとフュージョン、スズキはスカイウェイブ、(言うのもバカらしいが)カワサキはエプシロンでシェア争いに加わった。
 D-トラッカーがヒットすれば、スズキは250SB、ホンダはXR250モタードでシェア争いに加わった。

 メーカーのこうした行いがなかば常識化しているので、国内2輪専門誌も消費者も、何か新しいカテゴリーが生まれれば、4メーカーは全てそのカテゴリーのオートバイを販売しなければならないと信じきるに至っている。これがバカげた行為だと指摘するのは、今のところ私だけだ。

 では仮に、カテゴリーの競争に関して、ほとんど無関心なハーレー・ダビッドソンが、今後一切モーターショーへの出展を取りやめ、モーターショーでの新規受注を棒に振ったとしよう。ハーレー・ダビッドソン社の利益率は悪化するだろうか? ひょっとしたら、ショーへの出展の経費の分、利益率は向上するかもしれない。
 しかし、新製品の受注件数を増やさなければならないと信じきっている国内メーカーならば、そんな発想すら思いつくことはないだろう。
 しかし、フタを開けてみると、国内メーカーは労多くして報われない結果となっている。

 ここで頭の悪い国内2輪専門誌の意見をうかがってみよう。国内2輪専門誌は次のように言うだろう。「多くのメーカーが同一カテゴリーで戦うからこそ、消費者の選択肢は増え、メーカーもより良いものを開発するのだ」と。
 品質信仰という訳か。
 しかし、これまでの私の日記を読んで学んでいる方ならば、商品の争いは、品質や性能の争いではなく、消費者の知覚の争いだということに気付いていることだろう。
 大抵の場合、カテゴリーを制すのは、消費者の知覚を奪い取ったオートバイである。そしてそれは、カテゴリーに1番最初に参入したオートバイである。2番手3番手で参入したオートバイは、1番手のオートバイに対抗して、価格を下げたり、性能を上げたり、品質を良くしたりして対抗する。しかし、どれもなかなかうまく行かないので、メーカーは頭をかかえることとなる。
 そう、1番手でカテゴリーに参入するのは、大変大切なことだ。しかし、2番手でカテゴリーに参入する場合には、自分が1番手になってしまうカテゴリーを作ってしまうというのが効果的である。
 上記の私の解説で、400のネイキッドの争いで不信感を持った方もいるだろう。ゼファーはヒットしたが、結果的にこのカテゴリーを制したのはホンダのCBだったからである。しかし、ホンダはゼファーの作ったカテゴリーに対して、水冷のネイキッドという、新しいカテゴリーを制したのである。
 カワサキの不運は、CBの後に続いて、水冷のZRXもこのカテゴリーに参入させてしまった為、ゼファーとZRXという2つのブランドに戦力が分散してしまったことである。
 フォルツァの失敗は何だったのだろうか? それはマジェスティに対抗して、マジェスティと同じ土俵で戦ったことである。ホンダは、誰も作っていない、別のカテゴリーを作り、そこにフォルツァを投入すべきだった。例えばトライク(3輪車)である。今のところ、ビッグスクーターのトライクをメーカーは販売していない。しかし、ホンダはこれまで3輪のスクーターのノウハウは、ジャイロアップなどで持っているので、これを発展させればいいだろう。少なくともロボットを走らせるよりかは簡単なハズである。まー本当に作る時には、大排気量車のトライクのように、車体が傾かないタイプでいいと思われるので、設計はもっとラクだろう。もちろん本気で作る時には、メーカー名を変えてスピンオフしてその部門を立ち上げて頂きたい。

 国内2輪専門誌や消費者は、同一カテゴリーでのメーカー同士の争いを好むが、株主はこれを好まない。ではメーカーとは誰のモノか? ユーザーのモノ? いや、株主のモノである。経営者は、ひたすら株主に報いる為に経営を舵取りをする必要がある。
 メーカーの経営者は、カテゴリーは最初に制することを考え、他人が最初に制した場合には、別のカテゴリーを考えることである。
 しかし、国内メーカーがまずやることは、現在自分が制しているカテゴリーを死守することだと思う。そして、自分が制さなかったカテゴリーからは、思い切って撤退するのである。そう、犠牲なくして戦略はありえないのだ。参入よりも撤退が難しいのは、結婚に対して離婚のエネルギーの方が大きいことと似ているが、結婚もシェア争いに加わることも、歯列矯正の費用のように、“仕方のないもの”と考えて行動すると、その先には不幸が待っているので、メーカーも皆さんも御注意して頂きたいと思う。




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