Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


倒産の理由 2005年3月10日 15:53

 アプリリアが倒産した当時、メディアは次のように原因を分析した。つまりは、アプリリアの倒産は、イタリア国内の原付車両のヘルメット着用義務付けにより、スクーターの販売が悪化したことが原因だ。と。本当だろうか?

 イタリア国内には、無数のスクーターメーカーが存在するが、販売台数のほとんどはトップ3メーカーが奪い、残りはバックヤードビルダー的な小さなメーカーが占めている。
 トップ3メーカーとは、ピアジオ、マラグーティ、アプリリアである。3メーカーの内、フルラインはアプリリアただ一社だけであり、ピアジオとマラグーティはスクーターしかラインしていない。
 もし仮に、ヘルメット着用義務付けにより販売が不振となったならば、倒産するのはスクーター専門メーカーではないだろうか? しかし、スクーターが売れなくなったにも関わらず、スクーター専門のメーカーは倒産せず、スクーター以外のオートバイも売ってリスク分散しているハズのアプリリアが倒産した。そして、皮肉なことに、アプリリアを買収したのは、スクーターしか作っていないピアジオである。
 メディアの分析は間違っているのだろうか? 間違っている。
 スクーターが売れなくなる、つまりは、スクーターが欲しい人が減少した場合、本当にスクーターが欲しい人は、スクーター専門メーカーのスクーターを買うのだ。フルラインのメーカーのスクーターは専門イメージがない為に、スクーターにおけるブランドバリューを下げる。また、もうひとつの要素として、フルラインのメーカーは、スクーターだけにラインを特化していないので、製造コストが高くなってしまい、更に言えば、販促費などの見えない隠れコストが経営を圧迫していくのである。(販促費や企業イメージは、一体何の車両に対して貢献していのかはフルラインのメーカーは分析できない)

 対して、スクーター専門のメーカーは、製造ラインがシンプルな為に、コスト構造が良好で、更なるコスト削減も容易である。また、企業イメージが分散していない為に、販促費の費用対効果も把握しやすい。例えば、ピアジオに抱く消費者のイメージは、かのベスパである。ベスパは、スクーターのブランド力を高めるに当たって、強力な伝統とイメージを確立している。何にでも手を出すメーカーとは違う強力なブランドバリューである。
 しかし、ピアジオのミステイクは、アプリリアを買収したことである。これは、アプリリアの既存株主に対する、ピアジオの株主からのプレゼントになることだろう。つまりは、アプリリアはピアジオの株主のお金を使ってリストラクチャリング(企業再構築)し、企業をが立ち直れば、御褒美はアプリリアの株主が得るという訳だ。別の道もある。それは、アプリリアがうまく立ち直らなかった場合だ。その場合、ピアジオは高い買収価格に対して、バーゲン価格でアプリリアを売却するだろう。おごれる企業によくある話だ。

 話を私の日記の底辺を流れる潮流である、フルラインの愚行に戻そう。アプリリアのアイディンティティー、及び消費者のアプリリアに対する知覚は、2サイクル125ccと250ccのレーサーである。この部分が最大のアプリリアのブランドバリューである。アプリリアは、日本メーカーが席巻するWGPにて、この2つのクラスで日本メーカーを打ち破り、優秀な日本人ライダーを自分のチームに移籍させることにも成功した。これに気を良くしたアプリリアは、自分達はフルラインでうまくいっているかのように見える日本メーカーにもなれると考えた。誤解である。
 日本メーカーはフルラインでうまくいっているのだろうか? あなたはこう答えるだろう。倒産しないのだからうまくいっているハズだ。と。
 日本のオートバイメーカーがフルラインでも倒産しないのは、オートバイメーカーではないからである。
 理由。ホンダは100%オートバイメーカーではなく、大部分は自動車メーカーである。自動車で売上の大半を上げているホンダにとって、小さなオートバイの分野が何を行おうと、大した問題ではないのである。スズキは100%オートバイメーカーではなく、大部分は自動車メーカーである。自動車で売上の大半を上げているスズキにとって、小さなオートバイの分野が何を行おうと、大した問題ではないのである。カワサキは100%オートバイメーカーではなく、大部分は船舶、鉄道車両、航空機、環境保全設備等の製造メーカーである。これらの売上が大半を占めているカワサキにとって、小さなオートバイの分野が何を行おうと、大した問題ではないのである。
 ではあなたはオートバイ専門のメーカーである、ヤマハはどうかと聞くだろう。ヤマハはすでに、営業利益の70%は、船やバギーや産業用ロボットが上げているのである。これがオートバイメーカーだと言えるだろうか?

 アプリリアは、こうした日本メーカーの背景をよく観察せず、日本メーカーはオートバイで成功していると勘違いした。極東の島国の芝生が青く見えたのである。しかし、オートバイの製造など、株主のお金をドブに捨てているとも言える日本のメーカーと違い、真のオートバイメーカーであるアプリリアは、判断ミスにより自滅した。下はスクーター、上はリッターバイクをリリースしたのである。フルラインだ。
 そして、最も力を入れるべき、宝物のような2サイクルのブランドバリューを平気でドブに捨てた。

 下を眺めよう。スクーター専門メーカーは、製造ラインがシンプルだと思われるので、利益率が高いだろう。ヘルメット着用義務付けなどにより、価格の下落が起きた場合でも、それに耐えられる利益率を誇っていれば、品質は下がらない。品質が下がらなければ、消費者からの信頼を勝ち取ることができるだろう。フルラインのメーカーは、利益率が低い為に、エマージェンシー(緊急)な事態において、価格が下落すると一気に赤字転落するだろう。これは財政の悪化につながる。しかも、アプリリアはWGPなどに無駄金も使っている。

 上を眺めよう。オートバイのフレームは、鉄フレームからアルミのツインスパーフレームに進化した。理由。アルミのツインスパーフレームは“しなやかに”しなるので、二次旋回に有利だからである。対して、溶接箇所の多いつぎはぎだらけのフレームは、乗り味がガチガチとした感じになり、オートバイの向きが変わりずらい。しかも、アルミに対して比強度で劣るスチールを利用することは、特別にメリットはない。しかし、向きが変わらない鉄フレームを使うドゥカティに対して文句を言う者はいない。それは、ドゥカティのフレームの美しさがドゥカティのブランドバリューを高めているからである。ドゥカティは間違ってもアルミフレームなど採用しない。そして、古くから使うエンジン形式も永遠に採用し続ける。『トラスフレーム』『Lツイン』、これこそがドゥカティが死守すべき財産である。高価なアルミに対して安い鉄を使い、エンジンの開発費を抑えていると言うのに、ドゥカティは、自分の持つブランドバリューにて、強い価格決定力を持ち続けることができる。エクセレントだ。
 アプリリアは、このカテゴリーに参入した。お荷物の2サイクルとスクーターのイメージを引っさげて…。アプリリアがより近代的なアルミツインスパーのフレームを使った、より近代的な狭い挟み角をもったVツインエンジンを搭載したマシンを市場に投入しても、消費者には独自性とは知覚されない。ラインの延長として知覚される。敗北である。雇った日本人ライダーも、その後はドゥカティで活躍する始末だ。

 フルラインは、世の中の人全員を不幸にする。オートバイの性能など、実のところ無関係である。大切なのは品質ではなく、品質イメージである。
 あなたはガンになった場合、ガンの専門医に観てもらいたいと思うだろう。何でもやる医者には観てもらいたくないだろう。実際のところは、専門医の方がヤブ医者だったとしても。である。
 日本のメーカーは、オートバイを作るのをやめるべきである。もしどうしても作りたいのならば、スピンオフ(分社化)して作らせるべきである。そうすれば、オートバイを作ることだけに専念するモティベーションの高い社長が強力なイニシアチブをもってオートバイの製造販売に専念することだろう。そう、ハーレー・ダビッドソンのように。

 決めるのはメーカーである。私の仕事ではない。株主の提言を期待する。




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