Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


カテゴリを制せ 2005年7月18日 14:13

 世界初のパーソナルコンピュータはMITSアルテア8800である。世界初のテレビを発明したのはデューモント社である。世界初の自動車を売り出したのはデュリア社であり、世界初の洗濯機を作ったのはハーレイ社である。
 全て現在は存在しない。
 そして、この度、世界初の大型Vツインのスポーツバイクが発売された。ヤマハのMT-01である。まるで失敗した世界初の商品を展示する博物館行きを約束されたかのような名前だ。ところで、皆さんはこのオートバイのことを御存知だろうか?
 もちろん、私自身も全くノーマークであり、モーターのようにスムーズなエンジン特性を好むことで有名な私が、MT-01について語ること自体、読者にも違和感があることだろう。
 実は先日、私のガレージの隣人宅に、MT-01のデモ車に乗ってきた方がいらしたので、そこで私はこのオートバイの実物を見ることになったのだが、先日購入した『SUPERBIKEMAGAZINE』の中で、カテゴリーごとにオートバイを紹介しているページでは、このMT-01は『マッスルバイク』というカテゴリーの中で、GSX1400、バンディット1200、CB1300、XJR1300、ZRX1200と共に紹介されていた。そう、MT-01以外は全てビッグマルチのネイキッド車である。こうして不幸が始まった。

 話を進めてみよう。MT-01は、よくよく観察すると、大変素晴らしいオートバイである。しかし、大変素晴らしいにも関わらず、私が最も驚いたのは、驚きがないことだった。つまり、言いたいこととしては、ヤマハのマーケティング部門の無能さが際立つオートバイであることが、このオートバイの特徴である。
 では、性能、品質、スタイリング、乗り味(テイスト)といったことは、メーカーと仲の良い専門誌のライターに批評して頂くとして、自分の乗りたいオートバイ以外は、またぐことすら拒否する発信者負担の私は、別の視点からモノを語ってみよう。

 最初に訴えたいのが、その名前である。名前が大失敗だ。あなたはMT-01と聞いて、一体何を想像しただろうか? 私は何も想像できなかった。意味も分からなかった。そして忘れ去った。
 しかし、実物を見て、MTの“T”の文字は、恐らくツインを表しているという気はした。しかし、“01”という数字は全く理解できなかった。これまでの慣習である、排気量を表しているのだろうか? 1番最初という意味を表しているのだろうか? 全く消費者には知覚されない、独りよがりなネーミングである。
 コンピューターの分野を見てみよう。コンピューターが市場に出た時、スタートラインに立っていたのは、アップル2、コモドールペット、IMSAI8080、MITSアルテア8800、ラディオ・シャックTRS-80の5機種であった。成功したのはどのコンピューターだっただろうか? 最も覚えやすい名前のコンピューターだった。

 分野が違うとあなたは言うかもしれない。では、オートバイの分野を考察してみよう。『SUPERBIKEMAGAZINE』の中で、マッスルバイクスと位置づけられた他のオートバイの中で、アルファベット以外の名前を与えられているのは、バンディット1200である。こちらは、他のネイキッド車に対して、リアショックが1本ということで、よりスポーティーさを演出することに、この名前は貢献していると思う。しかし、他のネイキッド車は、MT-01と同じく、アルファベットと数字を使った、眠気を誘うネーミングが与えられている。一体どういうことかとあなたは尋ねるかもしれない。しかし、GSX1400は、スズキの伝統をよく表している。CB1300は、ホンダの伝統をよく表している。ZRX1200は、カワサキの伝統をよく表している。ヤマハは、4気筒車の名前をコロコロ変えた経緯があり、あまりよくはあらわしていないが、それでも多くバイク乗りは、XJRと聞けば、空冷の4気筒車はイメージできる。つまり、これらのオートバイは、消費者のイメージにしっかり知覚されている。余談だが、スズキが他の3メーカーに水をあけられているのは、私がさんざん訴えている、ラインの拡大を行っていることが要因としてあげられる。逆に言うと、このカテゴリーで最も成功しているのは、ラインを絞っているCB1300とZRX1200だと思う。しかし、ホンダはコロコロモデルチェンジするので、あくまでも買い替え需要を喚起する戦略をとっているのに対し、モデルチェンジはしないZRX1200は、永遠にローソンレプリカのイメージを訴え続けることで、既存の顧客の買い替えは期待できないものの、新たな消費者を囲い込む素晴らしい戦略になっていると私は考えている。しかも、モデルチェンジがないということは、ライン変更のコストがなく、収益性が向上し、株主の安眠にも役に立つ。そう、この戦略は、投資家の間では、ビジネスにおけるトッププライオリティ(最優先事項)と考えられている。

 話を戻して、このビッグネイキッドのカテゴリーでは、本当に私が訴えたいことの説明ではなく、“例外”の話になってしまった。つまり、GSX、CB、ZRXというネーミングは、伝統を誇示してセールスを上げているという、特殊分野である。
 私が本当に訴えたかったことは、ネーミングには、固有名詞を使うべきだという訴えである。
 しかし、今さら私が訴えなくても、実の所メーカーはそのことをよく知っている。1番よく知っているマーケティング担当者が在籍するのが、御存知スクーターという分野だ。ホンダのスクーターは、ディオ、トゥデイ、ズーマーなど、アルファベットと数字を組み合わせたネーミングは与えられていない。ヤマハのスクーターは、ジョグ、ビーノなど、アルファベットと数字を組み合わせたネーミングは与えられていない。スズキのスクーターは、チョイノリがヒットし、アドレスV100などはベストセラーだったが、ZZは、何て読むのかよく分からず、パッとしないセールスに終わった。
 もっとよく分かっているのが、ビッグスクーターのマーケティング担当者である。ホンダのビッグスクーターは、フォルツァ、フュージョン、フォーサイト、シルバーウィングなど、アルファベットと数字を組み合わせたネーミングは与えられていない。スズキのビッグスクーターは、スカイウェイブだけだが、アルファベットと数字を組み合わせたネーミングは与えられていない。しかし、ヤマハだけはミスを犯した。ヤマハにとって大成功したビッグスクーターは、御存知マジェスティである。しかし、500ccのビッグスクーターには、T-MAXと名付けた。もちろん、『MAX』はマックスと読むので、アルファベットの羅列ではないが、T-MAXとは、消費者としては、ツインの王者をイメージしたオートバイにこそ相応しいネーミングだった。しかしヤマハは、スクーターの王者ということを訴えたかったのか、スクーターに性能を誇示する名前を与えてしまった。しかし、V4のV-MAX
が、文字通りV型エンジンの王者をイメージさせているように、むしろT-MAXという名前は、今回のMT-01にこそ相応しいネーミングだったのではないだろうか? もちろん、間接的にメーカーから金をもらっている国内2輪専門誌のライターで、そんなことを訴える者はいない。今のところ訴えているのは私だけのようだ。

 スクーターの分野とスポーツバイクは違うとあなたは言うかもしれない。では、スポーツバイクで成功しているオートバイの中にも、アルファベットと数字の羅列ではないネーミングでヒットしているオートバイを紹介してみよう。例えば、ヨーロッパで最も多く販売されているのが、ホーネット600である。また、ホーネットは、我が国では250ccというバカげた排気量を採用したおかげで、子供達の人気が高くなっている。余談だが、子供達が好む250ccのロードスポーツタイプのバイクは、ホンダのジェイドと、カワサキのバリオスが比較的好調なセールスだが、アルファベットの名前を採用したスズキのFXは、バリオスと全く同じ品質で大失敗に終わっている。同様に、カワサキのD・トラッカーの成功に対して、全く同じ品質のスズキの250SBも、大失敗に終わっている。もちろん、こちらの名前もアルファベットと数字の羅列だ。
 話を大きなオートバイに戻して、それ以外にヒットしているのは、ホーネットと同じネイキッド車のモンスターである。モンスターも性能を誇示することなく、その名前に惹かれる人達に対して良いセールスを上げている。
 そして、ロードスポーツタイプのオートバイの中で、アルファベットと数字の羅列を最も使わないカテゴリーが、『SUPERBIKEMAGAZINE』言うところの、『ネイキッド・ストリートファイターズ』というカテゴリーである。それは、トラのスピードトリプルである。KTMのスーパーデュークである。ヤマハのフェザーである。カジバのラプトゥールである。アプリリアのツオノである。そして、名前はアルファベットと数字の羅列だが、ラインが1つしかないので、社名がそのままオートバイのイメージになっているのが、ビューエルである。そして、以前にも指摘した、大失敗なネーミングのオートバイが、カワサキのZ1000である。カワサキは、このカテゴリーでも伝統を誇示すれば良いと考えたようだが、消費者からは「No」をつきつけられた。カワサキはZ1000には、絶対に固有名詞をつけるべきだった。そう、「ニンジャ」のように、青い目の人達がゾクゾクする名前である。
 そう、今思えばニンジャは最高に良い名前だった。しかし、この成功と似たような成功をスズキにもたらしたのが、『ハイパーバイクス』というカテゴリーを制した“ハヤブサ”である。大変に素晴らしいネーミングである。
 メーカーのマーケティング担当者は、この方程式をしっかり認識すべきである。つまり、伝統を誇示するカテゴリーでは、伝統的な名前。伝統が誇示できないカテゴリーでは、固有名詞、である。メーカーのマーケティング担当者は、この条文をプリントアウトし、必ず自分の目につく場所に貼り出すべきである。両眼に見える場所に、である。

 しかし、MT-01は、本当に失敗だったのだろうか? もしここで物語を終了させれば、私は代替案を出さずに吠えるだけの共産党や社民党と同レベルの人間に落ちぶれることだろう。従って、次にはMT-01を成功させる為の別のストーリーを展開してみることにしよう。
 さて、そもそもこれまでにMT-01のようなオートバイは存在しただろうか? いや、全く初の試みだろう。これは大変素晴らしいことである。ヤマハは、他の競争の激しい分野で闘わず、全く新しいカテゴリーを作ったのである。訴えるべきは、この部分である。そう、私からの提案としては、ヤマハは、このオートバイの性能、品質、スタイリング、ネーミングなどは2の次にして、とにかく新しいカテゴリーだということを訴え続けるべきである。そして、ビッグネイキッドといった、これまでの既存のカテゴリーには属さないオートバイなのだということを、金をバラまいてライター達に語らせることである。
 そして、(これが最も重要だが)そのカテゴリーに独自のネーミングを与えるべきである。そう、車名ですでに失敗しているのだから、もう失敗は許されない、しかし、ヤマハにとって良いニュースは、新しいカテゴリーを創設し、それにネーミングした人間は、その分野ではチャンピオンになれるという事実である。
 私が考えた新しいカテゴリーの名称は、『マッスルツイン』である。マッスルツイン、マッスルツイン、マッスルツインと、ひたすらこの新しいカテゴリーの名前を連呼するのである。消費者はその内こう知覚するハズだ。「MT-01の“MT”は、マッスルツインという意味で、01は、最初のマッスルツイン車という意味かな?」

 辺りを見回してみよう。メルセデス・ベンツが発売される前まで、高級車という市場は世の中に存在しなかった。ドミノ・ピザが始めるまで、宅配ピザという市場は世の中に存在しなかった。現在両者はそれぞれの市場でナンバーワンである。
 そう、ヤマハは、新しいカテゴリーで1番手になるのである。1番手、何度聞いても良い響きだ。
 しかし、1番手になる為には、2番手のオートバイが必要である。しかし、新しいカテゴリーを作ると寄ってくる、小学校も出たのかどうかよく分からない人物が創立したあのメーカーがすぐにやって来るので、その点は心配ないだろう。そう、あなたもよく知っている、図体はデカいが、子犬のように何にでも鼻を突っ込むあのメーカーがいるからである。ホンダだ。
 ホンダは、ヤマハがガタガタ言えば言うほど、頭にきて、文字通りシッポを振ってこのカテゴリーに参入してくるだろう。もちろん、性能、品質、スタイリングのどれをとってもMT-01を上回るものを投入してくるだろう。こうして、広がらなかったパイは、金をドブに捨てても痛くもかゆくもないメーカーのおかげで広がることだろう。そう、あきれるほどいつものパターンだが、ヤマハはパイの分け前よりも、パイ自体を大きくする為に、“子犬”を利用するのだ。まるでビッグスクーターの時のように…。
 しかし、マッスルツインというカテゴリーに対する名付け親に自ら率先してなることで、MT-01という最初は失敗だった車名は、この時こそ光り輝いてくるだろう。その時、ホンダが持ち出すベター・プロダクト戦略は、ヤマハの戦略の前にひれ伏すことだろう。このカテゴリーは、性能や伝統の争いではないということを証明するかのように…。
 その時ヤマハは、まるでオウムのようにこう言い続ければ良い。「このカテゴリーのリーダー(先駆者)は、我々です」
 ホンダは言うだろう。「当社のオートバイの方が、品質が上です」
 消費者はこう思うだろう。「そんなに品質が良いのなら、なぜリーダーじゃないの?」
 この消費者の心理的疑問に、ホンダは永遠に答えることはできない。よって、ベター・プロダクト戦略は、ホンダになかなか有利なポジションを与えない。(これで成功しているのが、SRである)
 では、ホンダはどうすれば良いのだろうか? 放っておくことである。ヤマハがカテゴリーについて何も宣伝しなければ、このまま自滅を待つのが1番良い。

 オートバイの販売成績の争いは、オートバイの性能や品質やスタイリングや乗り味(テイスト)の争いではない。オートバイの販売成績の争いは、消費者の知覚の争いである。
 あなたが品質だと思っているものは、品質ではない。品質イメージである。




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