Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


無視される名前問題 2006年2月28日 17:28

 親愛なるきたりんの日記を拝読していたら、『ロードレース.JP 』という、ロードレースに関連するサイトが紹介されていた。また、そこでは、我が国のロードレースをいかに発展させるかについて、訪問者達が熱く語っているという。
 私は最初、それは何かの冗談かと思った。このサイトは、そもそもスタートでつまずいてはいないのだろうか? このサイトを作った会社の人達は、『アーブの手紙』は読んでいなかったのだろうか? 恐らく読んではいないだろう、もし読んでいれば、こんなバカげたドメインにはしないハズである。

 『ロードレース』という文字は、固有名詞ではなく、総括的な一般名詞である。更に言えば、これはカテゴリーの名称である。このドメイン名がブランドとして認知される可能性は、全く、ない。

 アウターネットに目を向けてみよう。
 オートバイのメーカーで、自分の会社に『オートバイ』と名付ける会社はない。そして、オートバイの世界で、しっかりとブランドとして認知され、そのブランドバリューが最も高いと私が評しているのが、『ハーレー・ダビッドソン』と『ドゥカティ』である。この2つのブランド名は固有名詞である。
 そして、もしあなたがハーレー・ダビッドソンのオーナーだった場合、パンピーの知人との会話は次のようになる。

知人「君はオートバイが好きだそうだが、一体何と言うオートバイに乗っているのかね?」
あなた「ハーレーです」
知人「おお、あのハーレーかね」

 このように、“ハーレー”は、パンピーに対しても一発で通じるブランドである。この効果は、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキではなしえない。
 オートバイ以外の世界に目をやると、全世界には、1000億円以上の価値があるブランドが全部で60個ある。代表的なものは、コカ・コーラ、マイクロソフト、ディズニー、インテル、マクドナルド、マルボロ、ノキア、ソニーなどである。全て固有名詞であり、一般名詞やカテゴリーを表した名称は1つもない。ちなみに、この60個のブランドを全部合わせた価値は、約87兆円である。

 「アウターネットとインターネットは違う」とあなたは言うかもしれない。たしかにアウターネットの世界においては、ブランドは、そのロゴのデザインや、発音した時の響きなど、見たり聞いたりする者の心に残りやすいが、インターネットの世界では、アウターネットのブランドのように、相手に自分の名前を認知させることが難しい。

 これがワナである。

 多くの企業が、インターネットの世界に進出する際は、そのカテゴリーを制す為に、カテゴリー名や、総括的な名称をサイトに与えてしまうのである。
 例えば、あなたが新しくマフラーを販売する会社をつくり、これからの商売は、インターネットでの戦略が重要だと考え、『マフラードットコム』というドメインを取得し、『マフラー』というブランド名でマフラーを売ったとしよう。あなたの売るマフラーを買ったバイク乗りと、その友人の会話は次のようになる。

バイク乗り「こないだバイクのマフラーを変えたんだ〜」
その友人「へぇ〜、どこのメーカーのやつ?」
バイク乗り「マフラーだよ」
その友人「だからどこのメーカー?」
バイク乗り「マフラーだよ」
その友人「それはもう聞いたよ!」

 いくら何でも、もう少しひねった名前をつけるとあなたは言うかもしれない。
 では今度は、あなたは新しくオイルを販売する会社をつくり、これからの商売は、インターネットでの戦略が重要だと考え、更に、ユーザーが自分が使ったオイルに対して満足するようにと願い、『マイベストオイルドットコム』というドメインを取得し、『マイベストオイル』というブランド名でオイルを売ったとしよう。あなたの売るオイルを買ったバイク乗りと、その友人の会話は次のようになる。

バイク乗り「こないだバイクのオイルを変えたんだ〜」
その友人「へぇ〜、どこのメーカーのやつ?」
バイク乗り「マイベストオイルだよ」
その友人「だからどこのメーカー?」
バイク乗り「マイベストオイルだよ」
その友人「意地悪すんなよ!」

 このバイク乗りは、まるでアムウェイのディストリビューター(販売員)のように、友人を減らすことだろう。
 お分かりだろうか?
 総括的な名称は、それを与えた者は、最初はカテゴリーを制す素晴らしい名前だと錯覚するが、実際には一般名称や総括的な名称では、ブランドを確立することが出来ず、成功はおぼつかない。
 では、実際にブランドを確立している例として、マフラーメーカーのブランド名をあげてみよう。アクラポビッチ、ヨシムラ、モリワキ、こうした名前は、全て固有名詞であり、ブランドを確立している。では、国内2輪専門誌の名前を見てみよう。『オートバイ』(最悪なネーミングである)『ヤングマシン』『モーターサイクリスト』『ミスターバイク』etc…。ほとんど全ての国内2輪専門誌が、固有名刺ではなく、一般名詞を使っているおかけで、国内2輪専門誌の中で1人勝ちしているという雑誌はない。どの雑誌もブランドを確立していないからである。
 そして、街中やテレビのように看板を掲げることが出来ないインターネットの世界においても、一般名詞や総括的な名称は、ブランドを確立することができないのである。
 しかし、あたなは言うかもしれない、「街中では、例えば八百屋さんは見るからに八百屋さんであり、魚屋さんは見るからに魚屋さんであり、店の名前が分からなくても、そのルックスで充分商売の内容を伝えることが出来るが、インターネットにおいては、固有名詞のサイト名では、即座に内容が伝わらないので、カテゴリー名をそのままサイトの名前にした方が有利だ」と。
 あたなの言う通りである。インターネットが生まれて間もない頃は、訪問者に対して、総括的な名称を伝えたほうが、訪問者もサイトを発見しやすかった。そして、こうした状況は約2週間続き、その内に何千、何十万というサイトが立ち上がり、ドットコムだけで、私のサイトを含めて500万以上のサイトが生まれ、総括的な名称をつけているサイトの利点は、現在では事実上皆無となった。
 現在、インターネットを利用する者が、何か情報が欲しいと思った場合、『ヤフー!』を開く。何かを検索したい場合には、『グーグル』を開く。何かものが欲しい場合には、『楽天』を開く。本が欲しくなれば、『アマゾン』を開く。インターネットで1人勝ちしているサイトの名称のほとんどは固有名詞である。『情報ドットコム』や『検索ドットコム』や『ネット通販ドットコム』や『本屋ドットコム』ではない。
 ロードレース.JPは、我が国のロードレースに対する問題点を、皮肉なことに、そのサイト名で表現している。「名は体を表す」という訳だ。
 ちなみに、、一般ピープルは、ロードレースに対しては、ほとんど、あるいは、全く関心を持たないが、オリンピックには多大な関心を向けている。ロードレースに参加するライダー達の競技に対する投資額や、競技に対する努力は、オリンピック選手のそれとかわりがなくても、である。
 ロードレース.JPに集う人達は、こうした現状に対して、歯がゆく思っているだろうから、色々とロードレースの発展の為に、侃々諤々(かんかんがくがく)するのは結構な話だが、彼らは最も重要な部分を見落としている。それは名前の問題である。

 『全日本ロードレース選手権』は、カテゴリーを表した総括的な名称である。『オリンピック』は、固有名詞である。前者はブランドとして認知されず、後者はブランドとして認知される。運営手腕はどちらにも問題があり、結果の公平さは、前者の方が上回っていても、である。
 「比較の対象が別の分野なのは良くない」とあたなは言うかもしれない。
 では、国内のロードレースで、ブランドバリューがあるのは、『スズカ8耐』である。
 ロードレースに関わる人達に対して、『全日本ロードレース選手権』と、『スズカ8耐』のどちらに価値があるかと聞けば、あなたが予想したように、「どちらとも言えない」という答えが返ってくるだろう。しかし、一般ピープルに聞けば、『スズカ8耐』と答える人が多くなるだろう。
 『全日本ロードレース選手権』は、総括的な名称であり、『スズカ8耐』は、固有名詞が含まれている。
 しかし、ロードレースに関わる人達も、最近では『スズカ8耐』のネームバリューは下がり、『もて耐』の方が相対的に人気が高まっていると思うことだろう。『もて耐』も、『もてぎオープン7時間耐久ロードレース』を短縮した造語として、素晴らしい資質を持っている。実のところ、『もて耐』の走行時間が、6時間だろうと、7時間だろうと、8時間だろうと、観ている者にとってはどうでも良く、名前が4文字でシンプルなことのほうが、数十倍重要なのである。高慢ちきなフランス野郎が考案した、悪名高いル・マン式スタートを採用していても、である。(ル・マン式スタートがライダーの安全よりも優先されるのは、『ル・マン』という固有名詞がブランドになっているからである)

 つまり、ロードレースにまつわる問題は、すなわち名前の問題である。『全日本ロードレース選手権』などという、アクビが出るほど退屈で総括的な名称では、それを運営する者も、それに参加する者も、苦労は報われないだろう。
 しかし、漂白された、骨抜きの、おとといきやがれ方式のMFJが主催するお堅い『全日本ロードレース選手権』に比べれば、相対的に人気が高い草レースである、『バトル・オブ・ザ・ツイン』は、「バトル」「ボット」と短縮して呼ばれ、バイク乗り達に親しまれている。『テイスト・オブ・フリーランス』は、「テイスト」と短縮して呼ばれ、バイク乗り達に親しまれている。私が主催していた、『アールオーエムシー』は、「ロムシー」と読ませることで、この名前問題を回避した。
 これ程名前の問題は重要だと言うのに、これに対して語る者はほとんどいない。否、まったくいない。

 ロードレース.JPとアネハ物件の違いは、合法か非合法かの違いであり、成功と言う名の柱がないことは共通している。




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