Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


発信者負担情報 2006年6月4日 16:44

 この世の全てのサーキットの神様を目の前に集めて尋ねたところで、「テクニックなくしてコースレコードはありえない」と神様達は仰ることだろう。あなたは神様達に反論できるだろうか? もちろん、プロアマ問わず、反論できる者はいないだろう。
 これがワナである。
 ライテクを伝道する著名なライター達は、ここにつけ込み、これから魚釣りを始めようとする人達に、いきなり魚を与えようとするのだ。理由。ヨダレを垂らすアマチュアのライダー達から金を巻き上げる為に。しかし、問題の根を深くしている点は、彼らに悪気がなく、むしろ自分達は良いことをしていると考えている点である。しかし、彼らが好むと好まざるとに関わらず、金を稼ぐことが彼らの目的であり、2輪業界のヒエラルキーの上位に自分自身を位置づける為には、子羊のように従順で純朴なアマチュアライダー達に問題の全体像をつかませないようにした方が得策であることを、彼らは自分が理解しているしていないに関わらず、無意識の世界で理解し、またそれを実行しているからである。
 これは出版の世界では特に重宝される方法論であり、分かりやすく言えば、ネタ小出しの術である。
 例えばあなたは、パレスチナのベドウィン族を知っているだろうか? 彼らは古代文書を発見すると、細かくちぎってしまい、お金が必要になった時に、その紙切れを小出しにして売るのである。おかけで歴史家達が余計に出費することがあなたにも簡単に理解できるだろう。
 そう、国内2輪専門誌によるライテク特集においても、テクニック論は細かくちぎって小出しにするのが優れた編集テクニックなのである。
 なぜ、彼らはこんな手法にすがるのだろうか? それは何度も言うように、彼らが生きていく為であり、それが彼らの宿命なのである。

 では、これまた何度も言うように、この正体が分かっている悪魔の目の上のたんこぶであるアウトサイダーの私が、否、単に孤立しているとも言える私が、細かなテクニック論は、森ではなく木だという話を以下に始めるとしよう。なぜならば、もちろん私は、ネズミ小僧のような正義の味方を気取る訳ではなく、情報料を受信者に負担させる国内2輪専門誌と正反対のアプローチ、つまりは、金を支払ってでも伝えたい情報があるというモティベーションを有しているからである。
 えっ? 何々? タテマエはいいから本音を言えって? 著名なライターを余裕でDISる国内2輪専門誌を無視する信じられない程賢いインターネットの住人の方々は、行間から全てがお見通しのようだが、『ロードライダー』誌編集長のセニョール月岡をはじめとする、私のことをコケにした国内2輪専門誌の編集長に対して、私には報復する意思と能力があることをアピールしたいというのが私のモティベーションの原動力であり、アマチュアライダーを天国に導きたいといった崇高な意思があるからという訳ではない。従って、以下の文章は、ダークサイドに堕ちる覚悟がある読者に向けて書くとしよう。
 えっ? 何々? 最初っから毒しか期待していないって? よろしい、では始めよう。

 さて、前置きが長いのが私の文章の特徴だが(前置きの長さは、読解力がない人間を遠ざける効果が期待できる)、本題に入り、サーキットにおいて本当に速く走る為には、国内2輪専門誌のライテク特集のページを開くよりかは、第一線で戦うプロのライダー、あるいはプロのエンジニアの姿勢を観察したほうが良いというのが私の考えである。
 ロードレースのプラクティス(予選)においては、コース1周のラップタイムが最短であることが望ましい。また、レースにおいては、スタートからゴールまでの時間が最短であることが望ましいが、クリアラップを前提とした予選と違う点は、燃料の残量変化や、タイヤのグリップ力の変化、更にはライバルとのかけひきや(レースにおいては、スタート・トゥ・ゴールの時間を最短にするよりも、ライバルをあえて先行させゴール時だけトップでゴールラインを通過するという戦略もありえる)、周回遅れの処理といった、より複雑な要素がからんでくることである。そして、ライダーやエンジニアは、最高の結果を出す為には、ありとあらゆるテクニックやセッティングに関する情報収集を行なう。アマチュアライダーがここで勘違いするのが、プロ達は、徹底的に情報を収集した後は、そこから何かを導き出して結果を出していると考える点である。しかし、そうした方法論は、単に推論に過ぎない。推論とは、今日の法則を明日に当てはめるだけの作業であり、それだけではライバルを出し抜くことは出来ない。
 では、成功しているプロ達は、一体何を行なっているのだろうか? それは先見である。先見とは、将来に起きるだろうことを想像する能力であり、戦略的知性の1つである。
 例えば、プロのレースの現場では、アマチュアの想像を絶する量のデータを収集する訳だが、アマチュアライダー達は、プロ達はきっと、このデータを元にサーキットのラップタイムの短縮、あるいはレースにおけるより上位の順位を導き出しているのだろうと考えてしまう。たしかにそうした側面も否定は出来ないが、その一方で、あらゆるデータやテクニック論は、現在以上の能力を発揮する為の“カン”を養う為の知的準備であり、現場においては、数字や論理以上に、“匂い”や“感触”や“カン”というものが大切になることが多く、場合によっては、データや常識に逆らってでも自分の直感や本能に従って結果を出すことも少なくない。(でなければ、マッコイの勝利を誰が説明できよう)
 そして、こうした能力にたけたチームは、チャンスをモノにし、好調の波に乗り、最終的には勝利の女神まで味方にしてしまうのである。
 逆に、データやテクニック論の奴隷になったライダーやチームは、創造性や革新性が醸成されず、ライバルを出し抜くことが出来ない。(この為に、ロードレースにおいてドイツのチームよりもイタリアのチームの方が結果を先に出すことが多いとも言える)
 では、ドラマの脚本家になったつもりで考えよう。ドラマの脚本家は、場所は六ヒル(六本木ヒルズ)で、主人公はIT企業の社長で、秘書が美女で…、と、細かな点を個々にバラバラに決めても、物語にはならないことを知っている。それよりも、何か1つのテーマ(例えばインサイダー取引)から物語を作り上げようとする。これが全体の概念の為に個々の点を統合しようとする能力であり、プロのライダーやエンジニアには、この知的スキルこそが最も重要である。(それ以外の、モティベーションの醸成、ヘルパーやチームとの関係の構築といった、現実的スキルについては、ここで語ることは省略しよう)

 話を天上界から下界に移そう。
 国内2輪専門誌のライテク特集に紹介されたテクニックは、説得力があり、挿絵や写真も素晴らしく、結果、多くの賛同者も集まる。
 しかし、紙に書かれた情報を実際のリザルトに結びつける為のスキル、あるいはモティベーションの醸成やヘルパーやチームとの関係の構築といったスキルについては、ほとんど語られることはない。理由。もっとも難しいエレメント(要素)であり、その割にそれを伝えた所で大して金にならないからである。つまりは費用対効果が低い。
 誤解してもらいたくないのは、テクニック論やデータを収集することは、全くもって健全な行為である。しかし、それでおなかを一杯にして満足してはいけない。
 繰り返すが、それらは将来を想像する為の知的準備の為の引き出しに過ぎず、それらを充分に吟味し、時にはそれらに逆らうことは、将来に向けてカンを養い、まるで表参道をプライベートでかっ歩するノーメイクのジンガイデルモ(外人モデル)のように、自分の“スタイル”で勝負する為の第一歩に過ぎないのだ。

 そして第二歩は、単にスタイルに固執するだけでなく、バックミラーからは未来が見えないように、まだ見ぬ新しいものに対して貪欲になることであり、推論ではなく先見という名の戦略的知性を育むことである。
 考えてもみて頂きたい。オリンピックの競技などの、あまりハードに頼らず、肉体に重点が置かれたスポーツですら、日々進化していくのである。それに対して、オートバイという日進月歩で進化する工業製品を扱う世界で、今日のデータや今日のテクニック論に固執するのは、バカげているとは思わないだろうか? 今日のように、データも、テクニック論も百花繚乱の時代においては、未来に向けて戦略を立てること、つまりは、戦略的知性の育成こそがトップ・プライオリティー(最優先事項)だというのが、金を支払ってでも伝えたい私からの情報なのである。
 なぜならば私は、1回転ジャンプではなく4回転ジャンプ、つまりは古いものではなく、新しいものが見たいのだ。




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