Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


2輪業界 2007年7月20日 18:04

 最初に結論(by つじ・つかさ氏)。何度も言うようだが、我が国の2輪業界にまつわる根本的な問題は、我が国にはオートバイ専門のメーカーがないことである。
 ホンダはオートバイ専門のメーカーだろうか? 違う。ホンダは本来自動車メーカーであり、オートバイは片手間で作っている。
 ヤマハはオートバイ専門のメーカーだろうか? 違う。ヤマハは実質的に産業用ロボットメーカーであり、オートバイは片手間で作っている。
 スズキはオートバイ専門のメーカーだろうか? 違う。スズキは本来軽自動車メーカーであり、オートバイは片手間で作っている。
 カワサキはオートバイ専門のメーカーだろうか? いややめておこう。考えるだけでめまいがしそうだ。
 オートバイメーカーの中で、利益率が高いオートバイを売っているのは、ハーレー・ダビッドソンとドゥカティである。ハーレーは自動車を作っているだろうか? 作っていない。ドカは自動車を作っているだろうか? 作っていない。ハーレーはフルラインだろうか? フルラインではない。ドカはフルラインだろうか? フルラインではない。
 ハーレーには何種類のエンジン形式があるだろうか? Vツイン一種類である。ドカには何種類のエンジン形式があるだろうか? Lツイン一種類である。
 これが勝因である。ハーレーはVツイン、ドカはLツインの生産に集中特化することで、そのブランドバリューを高め、コストを下げ、社員達の仕事は主にマーケティングに集中している。
 大リーグのイチローは言った。「努力は裏切らない」と。しかし、イチローは大事なことを言い忘れた為に、子供達の未来を奪っている。イチローはやみくもに努力した訳ではなく、努力を進塁打に集中させた結果、努力に裏切られることはなかった。もしイチローが、ホームランバッターの練習をしたり、ピッチング練習をしたり、あるいはサッカーやテニスの練習をしていたら、イチローは努力に裏切られていたことだろう。
 つまり努力は、何かに集中させてこそ裏切らないのであり、努力は拡散すると、文字通り無駄な努力に終わる。
 ハーレーとドカは、努力を集中させていることが素晴らしく、国内メーカーは努力を拡散しているので報われていない。
 しかし、業界の人ならば、次のように反論するかもしれない。「パラ4(並列4気筒)とパラ2(並列2気筒)でラインを増加したBMWは、最近好調ではないか?」と、なるほど。的を得た質問なので、的を得た回答をしよう。BMWの最近の好調は、80年代の国内メーカー同様、短命に終わるだろう。理由。ビジネスにおいては、短期的な収益と、長期的な収益の両方を勝ち取ることは難しく、シーソーのように、片方が持ち上がれば、片方が下がり、本物のシーソーのように、両方が持ち上がることはあり得ないからである。
 BMWについてよく考えてみよう。BMWには、ハーレーやドカに匹敵する素晴らしいアイディンティティーがあった。それはボクサーエンジンである。しかし、最近になり、国産と同じく、パラ4やパラ2である、KとFのシリーズを追加し攻勢に出た。業界の人達は、BMWには何かが起こっていると思い、BMWに注目した。BMWの売上は上昇した。そして短期的には、BMWは成功したかに見えた。しかし、大胆に未来を予測すれば、これは長期的な失敗となり、BMWの流行は、トレンド(潮流)ではなく、ファッド(一時的流行現象)に終わることだろう。
 まず、これまでのボクサーエンジンにブランドバリューを求めていたRシリーズ信者は、ボクサーエンジンに対して懐疑的になることだろう。「ああ、やっぱり直4のほうが優れているとBMWも考えたのか」と。そして、これまで医者や弁護士が多かったBMWのコミュニティーに、Fシリーズに乗るフツーのサラリーマンがやって来ることで、これまでの顧客のBMWに対するロイヤリティー(忠誠心)も薄れていくことだろう。
 つまりBMWは、短期的な売上の向上を優先し、長期的なブランドバリューを失うのである。
 BMWは、ボクサー(水平対抗)以外のエンジンがどうしても作りたくなったのであれば、パラ4やパラ2のイメージを持つバイクメーカーを買収し、そちらの名前でバイクを売るべきだった。4輪で言うと、BMWが買収したミニ・クーパーのように。(ミニをBMWの名前で売っていたら、BMWのブランドバリューは大幅に下落していたことだろう)

 ここまで書けばお分かりのように、様々なエンジンを作ってラインを増やすのは、自動車メーカーの特徴である。彼らは技術力があり過ぎるあまり、バットを振りたいという誘惑に勝つことが出来ない。
 他方、技術力がないハーレーやドカは、技術力がないことが幸いしている。つまり無駄な努力はしないし、もっと言えば怠惰が財産となっている。
 このように、様々なエンジンを作り、ラインを増加してブランドバリューを下げるのは、自動車メーカーがバイクを作って犯す、古典的なヘマの1つとなっているが、この問題を解決するには、自動車メーカーがバイク部門をスピンオフ(分社化)するしかないというのが、私の持論である。
 しかし、言うはやすしきよしであり、猿真似は得意だが、リスクをテイクすることが出来ない日本のメーカーには、そうした大胆な発想が生まれることはあとしばらく無いだろう。
 しかし、逆説的に言えば、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの中で、最初にスピンオフを行なったメーカーが、しっかりとしたブランドバリューを築き上げ、下品に言えばラクして儲けることが出来るだろう。

 過去を振り返ると、ようするに80年代までに日本のメーカーがバイクを売って儲かったのは、単にスケールメリットが効いたからなのだが、メーカーはそろそろそのことに気付き、タイやインドなどをのぞき、先進国に住む大排気量車乗りには、現在ではそれが通用しないことを素直に認め、本気でバイクが好きな人間にバイクの販売は任せた方がいいだろう。
 そして、本当にバイクが好きな人間が経営者になれば、末端の整備士達のことも大事にすることだろう。
 いかにも小林ゆきさんがブログに書きそうな、様々な2輪業界にまつわる問題の箇条書きは、メーカーがバイク部門をスピンオフし、オートバイが本当に好きな経営者が現れることで、大方解決することだろう。
 過去を振り返ると、バイクの売上の足かせとなる様々な問題があった。例えば、バイク乗り達は、400ccを超えるバイクに乗る為には、パブリックなSMクラブに行く必要があったが、海を渡って来日したハーレーの社長のツルの一声で、民間幼稚園のお遊戯でイエローモンキーも限定解除免許が簡単に取得出来るようになった。又、高速道路の2人乗り規制の解除も、ハーレーの社長の、「私はワイフをうしろに乗せている時の方が安全運転だがね」の一声で、テコでも動かないお役所がクビをタテに振った。(2輪の免許を所有しないヤマハの社長が言っても、誰も耳を貸さないだろう)
 考えてもみよう。2輪業界にまつわる問題を解決し、業界を繁栄に導くには、本気でバイクを売るバイク専門メーカーと、情熱に満ちた経営者が必要なのである。
 その為には、本気でバイクを愛すカリスマが、メーカーのバイク部門の資産を担保に、メーカーからバイク部門を買収して独立するのがベストである。
 また、このLBO(レバレッジド・バイアウト)には、成功を確実なものにする要素が色々とある。それは経営者の報酬である。大きな企業の中で、バイク部門の売上が少々上がったところで、少しボーナスが増えたりする程度だが、自分が社長になって業績が上向けば、報酬は倍増するのだ(中にはケタがズレることもあるだろう)。つまり、大企業の一部門よりも、独立した会社のほうが、がぜん経営者のモティベーションは強くなる。でなければ、青い目がどうして極東の島国の免許制度や悪名高いお役所の決定事項に首を突っ込むのだろうか? それは、バイクの販売に“本気”だからである。

 中には、私の提言など絵空事だと思う向きもあるだろう。しかし、これは私独自のアイデアではなく、単にその昔、ハーレーの幹部13人が、AMFという企業にしかけたLBOを例に出しているだけである。
 ハーレーがAMFの子会社だった頃、ハーレーはアメリカ国内で3%のシェアしかなかったが、AMFが8150万ドルでLBOを受け入れ、ハーレーがAMFから独立した後は、シェアは20%にまで増加した。(現在はもっと高いかもしれない)
 これまでもクロウトの方達は、ハーレーの成功に対して様々な分析をしているが、それは、品質の向上、製造ラインの見直し、マーケティングの工夫等であり、私はそれらのどれに対しても反論は全くない。しかし、ではなぜこれらのことをAMF時代に行なわなかったのだろうか? それは、経営者に知識とインセンティブ(動機づけ)がなかったからである。
 大企業の経営者は、大抵は知識がない。そして、細かな部門の長には、大抵は動機がない。しかし、スピンオフされた企業の社長には、強力な知識と動機が備わっている(さもなければそもそもスピンオフなど提案しないだろう)。これがハーレー・ダビッドソンの成功の根本的な理由だと私は訴えたい。

 ダイハツは軽自動車しか売らない会社で、軽自動車の販売でトップに躍り出た。トヨタは株主に居座っているだけである。従って、顧客はダイハツがトヨタだとは思っていない。しかし、スズキは軽自動車とバイクを同じブランド名で売っている。ホンダは、自動車と軽自動車とバイクを同じブランド名で売っている。スズキやホンダが軽自動車でダイハツに勝てるとは思わない。スズキやホンダがオートバイでハーレーに勝てるとは思わない。ホンダが自動車でトヨタに勝てるとは思わない。高校生の中には、ピッチャーで4番バッターという選手が存在する。周りのレベルが低いからだ。しかしプロに入れば、ピッチャーか打者か、どちらか一方にシフトするように選択を迫られる。両方同時ではプロの世界で通用しないからだ。仮にスズキが軽自動車とバイクを分割したとしよう。バイク会社の社長は、もう“ツルの一声”で、チョイノリを作るなどといったバカげた仕事からは解放され、心おきなく大好きな隼や刀の販売に経営資源を集中させることだろう。又、隼や刀が売れれば、自分の給料が倍増するので、隼や刀の売上に水をさすようなあらゆる障害は、本気を出して取り除くことだろう。もう1度言おう、本気を出して取り除くことだろう。
 もし、ドル箱であるアドレスなどの販売も、隼や刀のネームバリューにとってマイナスと判断すれば、BMWがミニで行なったように、別のブランドで売ることを思いつくことだろう(トヨタがレクサスで行なったように、逆でも良い)。理由。本気で隼や刀が好きで、頭を使えば売上と給料が増えるからである。サラリーマンにはそうした発想は出来ない。
 この、実行可能で誰にでも理解できるシンプルな提言を、我が国の2輪業界においては聞いたためしがないが、裏を返して言えば、バイクの生産が世界一の国には、バイクが本気で好きな経営者がいないということである。(国内メーカーは、バイクが好きというよりも、製造ラインが好きなのである)

 黙っていても売れる原チャリやスクーターは、ブランドバリューがない中国や台湾がライバルなので、バイクよりも製造ラインを愛すこれまでの経営者に任せても良いが、我が国の大排気量4気筒車を片手間に売るのは、あまりにも惜しいと私は思う。
 我が国のバイクのアイディンティテイーとも言える、並列4気筒車の伝統には、Z、GS、CBがあり、更には、隼、刀、ニンジャと言ったバリューを持ったネームも存在する(全て日本の伝統をイメージさせるネーミングである)。しかし、この伝統とネームバリューに対する障害は、それを開発、生産、販売した部署の人達のLBOに対する無知だと私は思う。しかし、これらの人達は、自分達はジェット機やロボットも作る大企業の中のちっぽけな存在だなどと自分を卑下してはいけない。むしろ、小さなことを逆手に取り、現経営陣にLBOを持ちかけて頂きたいと切に思う。なぜならば、これだけ私が業界の嫌われ役を買って出てまでして苦言を呈しているのだから。

 予想するに、素人クロウトに関わらず、私の提言を聞いた人達は、騒ぎ出し、ブログに書き、私のことを批判するだろう。それも良しである。しかし、私の提言は、バイクというものは、自動車メーカーが作るものだという、これまで慣れ親しんだ安住の地がもたらす快適さから、少しは目をそらす役割も担うだろう。おわり。




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