Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


悪魔のマーケティングマニュアル(業者向け)
2008年2月1日 21:02

バカげた小林ゆきのエントリ

 ↑を読むと、行間からは、何かCS(顧客満足)に対して手を抜いているバイク屋さんに対して、小林ゆきは憤っているように感じられるが、実際、CSを重視したマーケティングに対して手を抜くショップが多いことは事実だろう。
 しかし、原チャリを並べて売っているメーカーの看板を掲げた駄菓子屋ビジネスを行っているフツーのバイク屋さんは、ただのメーカーの奴隷だということは良く知っているし、そんなことに対してアレコレ言うのは、私の文章らしくないので、ここはひとつ、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」ライクなマーケティング論など無視した、『悪魔のマーケティングマニュアル』について以下に語るとしよう。
 ちなみに、昨今では、色々なカスタムショップが夜逃げしたり閉店したりと、2輪業界を襲う不況の波は半端ではないが、これを読む読者の中で、20〜30代のバイクショップの経営者は何人くらい居るのだろうか? もちろん、中にはガンガン儲けているショップもあることだろう。「勝ち組」「負け組」という訳だ。しかし、もしあなたのショップがイマイチ儲かっておらず、カスタムショップとして起死回生したいと言うのであれば、あなたこそ以下をよく読むべきである。また、すでに成功したカスタムショップの方も、復習をかねて是非読んで頂きたい、目からウロコが落ちるハズだ。

★愛すべきライバルの醸成
 カスタムショップとは、フツーのバイク屋が狙わないニッチに食い込むビジネスモデルなので、そのマーケティング手法は、必然的にゲリラ・マーケティングとなる。『ゲリラ・マーケティング』、何とも良い響きだ。そして、ゲリラ・マーケティングという戦略をとったカスタムショップには、「来る者拒まず」と言った王道マーケティングは必要ない。むしろ一切無視した方がいい。あなたが狙うべきは、大きなシェアの小さな利益率というよりかは、小さなシェアの大きな利益率なのである。
 だんだん読めてきただろう。そう、あなたは何か特定のメーカーや車種にターゲットを絞って、少ない経営資源をそこに集中させるべきである。少しでも儲けなければという焦る気持ちも分からないではないが、そんな時には、「損して得とれ」という言葉を思い出して欲しい。つまり、犠牲なくして戦略などあり得ないのだ。

 では、あなたは何か特定のメーカーなり車種を選んだ所で、次にはそれ以外のメーカーや車種を扱っているショップを敵視すべきだ。もちろん、これはビジネスにおけるポーズであり、通りをはさんだ向かい側のショップあてに、うな丼20丁を注文するとかの、中学生レベルのイタズラとかをしてはいけない。ちなみに、一般の読者には笑い話に聞こえるが、通りをはさんだバイク屋同士にはこうした争いが多い。私の住む近所では、世田谷通りなどは有名だが、以前、大阪、京都、名古屋などの地方をドサ回りして色々なショップに営業した時に、こうした争いは全国規模であることを私は知った。しかし、こうした争いは影でこっそりやっても、お互いの憎悪が増すだけで、売上には結びつかない。この敵対関係を売上に結びつける為には、裏で敵対しているショップと握手しつつ、顧客には敵対しているように見せかける位のしたたかさが必要である。

 しかし、かと言って店に初めて来店した顧客に対して、いきなりそんなことを語ってはいけない。あるいは、「男カワサキ1番、スズキ乗りは変態」とか、「スズキ最速、カワヲタキモッ」とか、「信頼のホンダが1番、デザインだけのヤマハは女の乗り物」とか、「デサインのヤマハが1番、竜宮城ライクなホンダ車はセンスゲロ悪」などと、いきなり他店が扱うメーカーの悪口などもまだ言わなくて良い。否、こうしたセリフが自然と顧客の口からこぼれるように仕向けるのが、あなたの仕事である。
 そう、あなたが行うべきマーケティング戦略とは、顧客をあなたのショップの信者にすることであり、新興宗教こそが、カスタムショップにおけるマーケティングの教科書であり、成功しているカスタムショップが、例えカスタムやチューニングの技術が低くても、あるいは、とてつもなく法外な金額を厚顔無恥で請求しても許されるのは、成功したショップが皆新興宗教化しているからで、内容などは2の次なのである。

★ブレーン・ウォッシュ(洗脳)
 成功しているカスタムショップの武器は、顧客に帰属意識を植えつけている点である。また、この帰属意識は集団本能を利用している。
 あらゆる新興宗教がそうであるように、最初に信者、つまりあなたにとっての顧客が訪れた際には、いきなり教義を教えたりはしない。信者を信者たらんとするには、重要なのは信仰心ではなく、まずは人間関係である。
 ちなみに、信者が信仰心を持った後は、彼らは自分は最初っから信仰心を持っていたと信じきってしまっている。しかし、本当のストーリーの流れは、まずは人間関係であり、その逆はありえない。
 信者があなたのショップに惹かれ始めるのは、その店がZのショップだとか、カタナのショップだとか、そうしたことよりも、その店の持つ“コミュニティ性”であり、渋谷あたりに居るカルトの勧誘部隊が、最初に団体の名称を名乗らず、まずは田舎者に対して非常に“人なつこい”のは、皆この戦略のせいである。

 例えば、顧客が最初にニンジャを買おうが、ハヤブサを買おうが、最初の理由は非常にささいなキッカケかもしれない。しかし、ニンジャやハヤブサにのめり込む内に、反スズキ、あるいは反カワサキの気持ちが高まっていくのだ。しかし、そこに至るまでには時間がかかるのが常であり、それが故、来店していきなり顧客に教義を語ってはいけないのである。つまり、信者への洗脳はゆっくりと進めるプロセスなのだ。あせってはいけない。

★仲間化
 そうは言っても、顧客が一旦あなたの店に入ってしまえば、そこからが本格的な活動となる。
 あなたは、顧客に対して、最初の内はフランクに話しつつ、顧客をライバル店か自分の店か、どちらか一方しかセレクト出来ないように仕向けなければならない。そしてめでたく顧客があなたの店を気に入ったならば、優しい声をかけつつじょじょに洗脳し、他店には絶対に足を運ばせないように心理的プレッシャーをかけなければならない。
 顧客はこうした隔離状況の中で、次第に強い集団自我が生まれ始める。いいぞ、その調子だ。また、成功しているショップは、皆イベント・レースに参加しているが、これは顧客の囲い込みにも非常に役立つ。つまり、ライバル店対自分の店という図式は、敵から自分の店を守るという、強い目的意識も醸成するので、大変好都合だ。また、同時に、敵の存在は、自分達は誰かから攻撃されているという、強い被害者意識も醸成する。この戦略により、顧客の犠牲者意識を一気に高めよう。もう、あなたの顧客は、あなた無しでは不安で夜も眠れなくなるだろう。
 しかし、いつの時代にも裏切り者は存在するハズである。そうした裏切り者に対しては、一気に冷遇しよう。そして、残った忠誠心の高い顧客に対しては、冷遇を見せしめにし、店の情報は絶対に外部に漏らしてはいけないというカルチャーを醸成するべきである。つまり、外界と自分の店をパーペキに遮断するのだ。そう、ホームページの掲示板等は、絶対に顧客以外は閲覧出来ないようにし、極端な排他性を発揮した方が良い。これにより顧客の結束度も最高水準に保たれるだろう。その時、他者からの批判など気にしてはいけない。むしろ批判は歓迎するべきである。なぜならば、他者からの批判は、より顧客の忠誠心が増すからである。

★奉仕活動
 訪れた顧客を無事に囲い込んだならば、顧客には自分の店以外のことが考えられなくなるように、ツーリング、走行会、飲み会、ミーティング等と称して、常に店の活動に顧客が関わるように仕向けなければならない。新興宗教を観察すると、教団側は信者達がもう自分の頭でものが考えられなくなる程、信者をこき使っていることが理解できる。つまり、信者が自分のことを振り返る余裕を奪う訳だ。そして、この手法をあなたの顧客にも応用することは、大変効果的である。

 ちなみに、新興宗教においては、信者が教団に対して行う献身ぶりは、時間、金の面で見ても、ほとんど異常である。しかし、意外なことに、これらは教団が強制的に行わせていることはほとんど無い。多くの場合は、仲間内の心理的なプレッシャーにてこれを達成しているのだ。そう、創価学会のメンバーの、選挙時の公明党の応援のように。
 また、このプレッシャーの中でも、“競争意識”の利用は、大変有効な手段なのだが、それについては次に語ろう。

★ヒエラルキー
 顧客を奴属化したら、次にあなたがやるべきことは、顧客のヒエラルキー化である。
 なぜならば、フツーのバイク屋がただのつまらない小売店に成り下がっているのは、顧客を平等に扱っているからであり、あなたが同じようなことをしていては、顧客のあなたの店への情熱は一気に冷めてしまう。
 つまり、店内では格付け制度を暗黙裏に作り上げ、顧客がヒエラルキーの階段を自ら登って行くように仕向けなければならない。
 もちろん、ヒエラルキーの上位には、店の看板を背負ってレースで速い顧客など店の知名度を上げる顧客、ボランティア的に雑用を引き受ける顧客など店の経営に役立つ顧客、最も金払いが良い顧客など店の売上に貢献する顧客、等が占めることになる。
 あなたの店の新入り顧客は、このヒエラルキーを登るという目的意識により、より一層周りの世界に対しては盲目的となる訳だ。
 もちろん、もし新入り顧客が店の知名度を上げたり、雑用をこなしたり、気前良く金を支払ったら、少しかまってあげることで、まるでご主人の前でしっぽを振りながら喜ぶ子犬のように、より一層顧客はあなたに忠誠を誓うことだろう。

★カリスマ化
 顧客が忠誠を誓ったら、店のステッカー、お揃いのTシャツやジャンパー、お揃いのカラーリングなどで価値観を共有すると共に、自分達はクールなんだと顧客に思わせよう。(他人から見てお寒くバカげていても良い)
 そして、この時初めて、「カワサキサイコー」とか「(あなたのショップ名)はどこにも負けねーぞー!」とか「ハイルヒットラー」とか「ジークジオン」など、極端に単純化した世界観を分かりやすく語ると同時に、仲間内独特な隠語等を駆使して会話しなければならない。そうすることで、しばらく店に来なかった顧客に対して、「同じ言葉を使わない部外者」というレッテルを貼ると同時に、忠誠心の高い顧客には、同じ言葉を使う者こそ仲間だと意識させるのである。
 また、ある程度の人数が集まった場合には、店長たるあなたは、気安く誰にでも話かけてはいけない。あなたに接触できるのは、ヒエラルキーの上層部の人間だけに限定するのだ。そうすることで、下っ端の顧客のあなたに対するカリスマ度は更にエスカレートすることだろう。

★提灯記事の利用
 ある程度顧客も集まり、店の知名度が上がったならば、次にあたなが行うべきは、雑誌の利用である。
 特に、カスタムバイクのネタを目前にすると、ヨダレがとまらなくなるという『ロードライダー』誌や『バイカーズステーション』誌などがお勧めである。彼らはカスタムバイクを作ったと言えば、電話一本で飛んで来ることだろう。そこでエディターや編集長と仲良くなり、何かこれらの人達にとって必要なことは、気前よく無償で答えるべきである。これであなたの店に関するファンタスティックな記事がこれらの雑誌に掲載されることだろう。思惑通りだ。
 ちなみに、雑誌のライター共は、小学生が使う定規しか使えない連中で、理解できる距離の単位はセンチメートルなので、溶接等で歪みまくったトンデモバイクを前にしても、それがホンモノだと考えられる大変ありがたい連中なので、用意するバイクは形だけギトギトしていれば問題ない。むしろ溶接で色々なものを取り付ければ、ネタが増えたと小躍りして喜ぶことだろう。バカな連中だ。

 そして、無事に雑誌に掲載されれば、インターネットと親和性の低い騙されやすい信者が次々に店に訪問することだろう。この時に、金がない冷やかし客は全て冷遇して良い。全ての顧客の満足に応えるのは、メーカーや大型店舗の役割であり、信じられないかもしれないが、優良な顧客のみを優遇することで、店の利益率は向上するのだ。つまり、雑誌への掲載は、優良な顧客と出会う確率を高める為の、分母の増加が一番のメリットなのである。
 そして、本当に儲かり始めたら、その時初めて金を支払い広告を打とう。もちろん、広告に効果などないのは分かっているのだが、税金を払うよりかは有効である。そう、広告費は有効な税金対策になるだけでなく、自分の悪口を書かせない為の雑誌への口止め料として機能するのだ。現在の広告とは、すでにそうした意味あいしか持っていない。従って、間違っても利益が出ていない時に広告費を使ってはいけない。「広告で宣伝してから儲ける」ではなく、「儲けてから余った金で口止め料として利用する」というのが、儲けた企業のやり方なので、十分に注意が必要だ。
 しかし、広告費さえ入れられるようになれば、あなたと雑誌との間には、もう離れられない蜜月関係が生まれることだろう。つまり。あなたが教祖たるキリストだとしたら、国内2輪専門誌は、優れたマーケティング能力を発揮したパウロという訳だ。(キリストは磔刑(はりつけ)、パウロは斬首により殉教)

★エピローグ
 あなたはこれまで、常識ではありえないような金額を平気で提示しておきながらも、それなりに顧客を捕まえているショップの存在に対して、首をかしげたこともあっただろう。
 あるいは、あまりよろしくない評判が沢山あるショップが、なかなか潰れずに、むしろ業務拡張していたりする現実に対して、憤った経験もあるだろう。
 それは、その理由とは、多くの一般ピープルが、新興宗教に対して嫌悪感を持っていると言うのに、一向にして新興宗教が無くならない理由と同じである。
 これは一種のマーケティング手法であり、宗教とは、一言で言えばビジネスである。
 今回私は、思い切ってその手法を暴露してみた訳だが、この手法を毒にするかクスリにするかは、あなたの判断に委ねられている。

 しかし、吹けば飛ぶような大して儲かりもしない2輪業界にて、このまま八方美人戦略で自滅してもいいのかい?






★追伸
 店先に並べておきさえすれば勝手に売れた、80年代に乱立したバイク屋の負の遺産として、売りっぱなしの店が存在することは事実だが、メーカーからのノルマ、仕入台数の少なさによるマージンの減少と、当時と違い、メーカーは小さな販売店に対して、すでに“生かさず殺さず”から、“生かさず殺す”に方針転換しており、言うことを聞く従順な大型店舗以外の冷遇(遠因は今のところ成功しているハーレー・ダビッドソン・ジャパンのマーケティングスタイルの模擬)と、売りっぱなしの店舗数の数100倍の人数の“買いっぱなし”客の存在と、「仕入」「販売」の両面からによるモティベーションの低下が根深い問題となっているが、それらは放っておけば淘汰されると共に、実際の顧客の9割が前述の買いっぱなし客で、残りの1割の中の更に1割、つまり100人に1人の売りっぱなしに対する苦情が大げさにこだましているように感じられる。また、売りっぱなしを助長しているのは、前述のような買いっぱなしの顧客の存在が大きいので、問題を高所から傍観すれば、どっちもどっちという気もする。

 また、上記は小さなバイク屋レベルのストーリーで、もっと確信犯的な大型安売り店は、大量仕入れにより価格を引き下げることで利益をあげていて、売りっぱなしという販売スタイルは、価格の安さを優先したい顧客からの支持を集めていると、彼らは自己弁護するだろう。彼らは、どれだけアフターサービスを充実させたとしても、「価格で来る客は価格で去る」ということを熟知しており、世のバイク乗りが、すべてにおいて価格を優先するのは、一言で言って所得が低いからだと思われる。証拠は、高価格の外車を売っている店は、相対的に価格競争ではなく、CSの競争になっており、つまり世の中は二極分化しているというのが実情だと思われる。また、この二極分化、つまり格差社会を作ったのは小泉純一郎と竹中平蔵であり、つまりはそれを支持した有権者で、これは国民が望んだ姿とも言えるので、無責任に放言すれば、自業自得だ。




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