Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


時代と共に硬直化したモーターサイクル
2009年2月11日 15:00

 2月10日の記述にて、ドゥカティが作った、振動がほとんど発生しないシングルエンジンについて、マッシモ・ボルディ博士が設計していたのかどうか、あやふやな記述をしてしまったが、その後調べたところ、やはりマッシモ・ボルディ博士の設計で、それどころか、私自身はイカれたイタリアかぶれチックなドカオタクではないので、すっかり忘れていたのだが、このエンジンは、エンジンだけが作られただけでなく、スーパーモノという名前で、欧州のシングルレースで勝ちまくっていたことを思い出したので、ここで補足しておきたいと思う。

 また、この“思い出し”の作業にて、昔のアルバムを開くような経験をしたので、以下には、ここ100年あまりの内燃機関の短い歴史の中で、モーターサイクルレーサーに搭載されたエンジンについて語り入れてみよう。

★モーターサイクルに搭載された内燃機関の短い一生

きたりんのエントリ

 きたりんですら電動バイクを待ちわびているという昨今、煙いは臭いはうるさいはで、更には環境破壊を加速させ、人類の未来をも奪ってしまいそうな、いいことなど何もなかった、機構的にもほとんどデタラメ調に効率が悪かった、人類が生み出したいわば駄作とも言える内燃機関に対して、私を含めて、これを読む多くの読者も、もうほとんど興味を失い、新しいものが大好きなバイク乗りほど、来たるべき電動バイクに対する興味の方が大きくなっていることだろう。

 しかし、出来が悪い子供ほどかわいかったという、いわば親バカの心境にて、今回は超ヒマ潰しチックに、これまでのモーターサイクルレーサーの歴史の中で、特に変わった内燃機関について思い出してみるとしよう。

★HONDA RC211V V5(2001) 画像
 ここ最近の変わったエンジンと言えば、2002年のmotoGPのレギュレーション変更にともない投入されたホンダのV5がある。
 パワーは当時230馬力程度で、排気音は、HRCのエラい人が「龍角散を飲ませろ」と言ったほど、お世辞で汚い音だったが、ホンダ的には、上から見た時に左右線対称でバランスが良く、ライダーがヒザではさむ側が幅が狭い2気筒ということも、ひとつの優位性とのことだったが、motoGPが800ccにスケールダウンした際、ホンダはなぜか、これらの優位性を全て捨て去り、面白みに欠けるV4を投入することで、ホンダのアイディンティティーは失われてしまった。(画像は、GPが4スト化される前に引退してしまった、ドゥーハンの2001年のテストの画像をあえて紹介してみた)

★BRITTEN V1000(1991) 画像
 ブリッテンに関しては、Vツインというフツーのレイアウトのエンジンながら、そんなことは抜きにして、車体からエンジンからインジェクションのマップに至るまで、モーターサイクルコンストラクターとしてはおよそ縁が無さそうな、ニュージーランドという国のただの個人が全て設計してしまっている所に、技術オタクにはたまらない魅力があった。
 パッと見だけでも、テレスコピックフォークを採用していなかったり、長いロッドを介してリアサスペンションがエンジン前部に置かれていたり、ラジエーターがシート下にあったりと、とにかく隅々まで独創の塊だった。
 ちなみに、実際に乗ってみると、ライダーが座る位置は相当高いところにあったようで、車高が低い通常のレーサーから乗り換えると、かなり違和感があったらしい。
 また、パワーは155馬力で、最高速は時速281キロだった。

★NORTON ROTARY RC588(1981) 画像
 JPSカラーの英国車ということで、ユニオンジャックが心底好きな人にはたまらないルックスのマシンだったが、そんなことは抜きにしても、このノートンには、2輪では珍しいロータリーエンジンが搭載されていて、レーサーに関しては、ロータリーエンジンで有名な、日本のマツダの技術協力もあったようだ。
 ちなみに、パワーは135馬力だった。

★HONDA NR500 32V(1979) 画像 画像
 目もくらむような特許の数で、後にも先にも楕円ピストンのエンジンが作られることはなさそうだが、ホンダは並みいる2ストに対して、どうしても4ストで勝ちたいが為に、充填効率を高める究極的な1気筒8バルブのNRをGP500に投入した。しかし、パワーは100馬力程度で、どうやっても同じ排気量では2ストに勝てないことを悟り、その後は2ストのNSを投入したが、この時の怨恨がmotoGPの4スト化につながったことは想像に難くない。

★LAVERDA V6(1977) 画像 画像
 ホンダがV5を投入する20数年前に、ラベルダは996ccのV6エンジンを積んだレーサーを作っていた。パワーは140馬力で、最高速は時速283キロだった。

★CZ 350 V4(1969) 画像 画像
 最近の日本人は、V4と言うと、ホンダのお家芸だといったイメージが強いと思うが、私が生まれた翌年には、CZと言うメーカーが、すでに346ccのV4のエンジンをバイクに積んでいた。
 ちなみに、パワーは58馬力で、最高速は時速225キロだった。

★HONDA RC166 250SIX(1966) 画像 画像
 前回のエントリにて、私は最もスムーズに回るエンジンはストレート6だと記述していたが、ホンダは、249.4ccのストレート6のエンジンをレーサーに積んでいた。レギュレーションがゆるかった時代には、まさに何でもアリな感じがする。
 ちなみに、パワーは60馬力で、最高速は時速241キロだった。

★SUZUKI RK67(1966) 画像 画像
 なんでもアリと言えば、昔のレーサーはミッションの段数がハンパなく多く、このスズキのレーサーは、なんと14段ミッションを採用していた。画像でみると、ピストンの占有よりも、ミッションの占有の方が多く、エンジンを積んでるというよりかは、ミッションを積んでいるという感じだ。
 ちなみに、排気量は49.8ccで、回転数は17,500回転まで回り、パワーは17.5馬力で、最高速は時速170キロだった。1966年に50ccのバイクが時速170キロで走っていたとは驚きだが、逆説的には、技術など進歩していないようにも感じてしまう。

★MOTOGUZZI WATER-COOLED V8(1957) 画像
 今から50年以上も前には、モトグッチが498.5ccのV8のエンジンをバイクに搭載していた。
 ちなみに、パワーは72馬力で、最高速は時速292.9キロ(笑)だった。

★AJS SUPERCHARGED V4(1939) 画像
 失礼。V4はもっと前からあった。しかも、こちらのAJSのV4は、水冷495ccのV4で、なんとスーパーチャージャーまでついていた。
 バイク乗りは、なぜかバイクのエンジンと過給機には親和性がないと勝手に決め付けている感があるが、昔の人の方がよっぽど自由な発想でエンジンを設計し、しかもそれを具現化していた。
 ちなみに、パワーは55馬力で、最高速は時速217キロだった。

★BMW KOMPRESSOR SUPERCHARGED FLAT-TWIN(1939) 画像
 スーパーチャージャーは他にもあった。こちらのBMWは、伝統的なフラットツインで、AJSとほぼ同じ494ccのエンジンから、パワーは68馬力を発揮し、最高速は時速225キロだった。今から70年前ですよ。

★VINCENT-HRD SUPERCHAGED SINGLE(1936) 画像
 スーパーチャージャーは他にもあった(笑)。こちらは499ccのシングルで、パワーは46馬力で、最高速は時速201キロだった。空冷でもバルブが2個でもいいから、スーパーチャージャー付けた方が楽しそうな気さえしてくる。(笑)

★NLG JAP V-TWIN(1909) 画像
 更に30年もさかのぼると、今から100年前という、ほとんど原始時代に突入するが、そんな大昔には、NLGという、聞いたこともないようなメーカーの2714ccのVツインという、とてつもなく排気量がデカいバイクが存在していた。
 ちなみに、パワーは20馬力で、最高速は、どうやって計ったんだよみたいでマユツバチックな時速144キロだった。(笑)

★CURTISS 4340cc V8(1906) 画像 画像
 と思ったら、1906年には、カーティスというメーカーが、4340cc(笑)のV8(爆)エンジンを搭載したバイクを作っていた。(核爆)
 ちなみに、パワーは40馬力で、最高速はホントかよと言ったレベルの時速219キロ(若い人達が利用するカッコがない小文字のダブリュの長い羅列)だった。

★今後の大義
 モーターサイクルレーサーの歴史を振り返ると、最も進化したのはブレーキだと気が付く。(笑)
 パワーや最高速を引き上げる為のネタは、大昔から尽きており、たしかに工作技術のレベルが上がったことで、エンジンの質も良くはなったが、昔の人は工作技術がなかっだけで、アイデアと情熱は現代人より大きかった気がしてならない。
 つまり、内燃機関のネタとは、内燃機関が誕生した時にほとんどが出尽くしており、ここ100年の歴史とは、工作技術力の上昇に伴い、それらのネタをじょじょに具現化していっただけだと言える。

 しかし、パワーの上昇に伴い、むしろ技術の足かせとなるようなレギュレーションが沢山作られ、モーターサイクルエンジンの開発の意欲は、日に日に委縮している。そして、ここにきての経済危機である。

 では、それならそれで仕方がないという刹那主義を発動したとして、タイヤがタテに2個という、モーターサイクルのアイディンティティーはこのまま継続した場合、モーターサイクルのモーターの部分は、とっとと電気のモーターに移行した方がいいだろう。

 最後に、もし、未だ頑迷に内燃機関にこだわるメーカーがあるとすれば、私はそのメーカーの経営者に対して、ベトナム戦争から撤退した時のニクソン元大統領のセリフを参考にして頂きたいと助言したい。

 そう、ニクソンがベトナム戦争から撤退する時に何と言ったか? ニクソンは「アメリカの目的は達成された」と言った。「カネがなくなったから戦争はやめた」とは言わなかった。つまり、ものは言いようであり、内燃機関の開発は、ほとんど終わったと消費者に釈明すれば、電動バイクへの大義も簡単に生まれることだろう。早く、静かで臭くないバイクを作って頂きたい。

 えっ? 何々? 電気を通すだけでモーターが回ってしまう電動バイクでは、複雑怪奇な内燃機関オタクの心がつかめなさそうでまだ心配だって? 大丈夫、これまでバルブのすり合わせとかポート研磨とかが趣味だったバイクヤローも、今度はローターのコイルの銅線の巻き方とか、ブラシの進角とかブラシレスとか、そんなことに悩んで、これまで通り女っ気のない無駄な人生を過ごすことで、あなたの会社の株価を押し上げることだろう。




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