Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


ライダー重視orバイク重視
2009年4月2日 11:35

「日本モータースポーツ小論」(童夢の林みのる氏のコラムより)

 ↑のコラムは、結構な長文だが、なかなか興味深いもので、最後まで通読し、珍しく他人の文章で感心してしまった。

 レーシングカーのコンストラクターの林氏の持論を無慈悲にかなり暴力的にシンプルに要約すると、モータースポーツは、ドライバーの戦いよりも、クルマの戦いにすべきだというものであり、フォーミュラニッポンの失敗と、『激走!GT』の成功は、前者がドライバーの戦いにしたことで、後者がクルマの戦いにしたことだと分析している。

 さて、4輪のレースに関しては、4輪屋さんに考えて頂くとして、4輪と2輪では、この古くて新しいテーマも、少々中身が異なってくる。
 そう、4輪のレースでは、トップチームがフロントローを固めることが多いことからも、確かにドライバーの戦いよりも、クルマの戦いの要素が強い。また、ドライバーの姿がGTなどは見えないし、しかもドライバーが交代までしてしまうので、観客もドライバーというよりも、クルマで見分けた方がレースを楽しめる。また、フォーミュラーカーであれば、ドライバーも見えるが、それもヘルメットのカラーリング程度の差しか分からず、皮肉なことに、F-1などは自らの速さが災って、ドライバーの識別が更に困難である。

 しかし、4輪と比較して、2輪のロードレースにおいては、ライダーが誤ってカワサキさえセレクトしなければ、車種の違いによる性能差は、ライダーの腕で埋め合わせることが出来るという要素が大きい。また、4輪と違って、ライダーは体全部が露出しており、しかもライディングスタイルやライディングフォームがそれぞれバラバラなので、ライダー同士の戦いとしてレースを楽しむことが出来る。しかし、あえて逆説を唱えれば、ミック・ドゥーハンやバレンティーノ・ロッシのように飛び抜けた才能をもったライダーが1人だけ現れると、そのライダーしか勝てないという退屈なレースになってしまうという、“諸刃の剣”という側面があることも否めない。

★ダブルスタンダード
 17歳の時に初期型のジスペケ(GSX-400R)でツクバサーキットを走り出すまでは、何を隠そう前を隠そう、私は4輪志向の人間で、小学生の時は、F-1のメカになるのが夢と周りに語っていたが、本当は、レーシングカーのデザイナーに憧れていて、レン・テリーという人の書いた、『レーシングカー その設計の秘訣』という分厚い本を熟読しているような風変わりな少年で、学校の授業などそっちのけで、教科書の余白の部分は、レーシングカーのサイドポンツーンの空力デザインやサスペンションのデザインなどの落書きで埋まっていた。
 従って、私の幼少期の夢を具現化している林氏は尊敬に値するが、更に、モータースポーツをクルマの戦いにすべきだという同氏の気持ちもよく理解できる。

 しかし、2輪に関しては、前述のようにライダー同士の戦いという要素が非常に強く、バイクの戦いでは面白くないという気持ちと、そうは言っても、メーカーの撤退傾向が強いmotoGPよりかは、メーカーの参入傾向が強いSBKでは、SBKの方がより面白いというダブルスタンダードも抱いている。

 しかし、このダブルスタンダードは、結局のところオシリの所でつながっており、ワンメイクレースはナンセンスだとも私は考えている。では、以下には、その理由について考察してみよう。

★ライダーの戦いにする為のバイクの戦い
 バイクの種類が選べないワンメイクレースにおいては、そのバイクに合ったライディングスタイルのライダーが有利となり、バイクの種類が豊富であれば、自分のライディングスタイルに合ったバイクをセレクトすることで、自らの優位性を引き出すことが出来る。
 私はそうした観点から、ワンメイクレースよりも、車種がバラエティーに富んでいる方が良いと考えているので、林氏の持論とは少々スタンスが異なる車種の豊富さ支持者である。

 しかし、これはアマチュアライダーの話で、プロのライダーは、一度契約してしまうと、期限がくるまで乗り換えは出来ないし、少々自分に合っていないと思われるバイクだったとしても、ギャラに釣られたりシートの確保を優先して不利なマシンをセレクトすることもあるので、私の持論は正論過ぎてナンセンスに感じることもあるだろう。

 しかし、ヤマハに移った当時のロッシなどは、普通に考えてホンダの方が優位性があったにも関わらず、ホンダのやり方がイヤだという理由で、ジェリー・バージェス(ジェレミー・バージェス)を引き連れることで、“ちからわざ”でヤマハを“勝てるマシン”に仕上げたという珍しいケースだった。(余談だが、フレディー・スペンサーのヤマハ移籍の失敗は、ロッシと違って、アーブ金本を連れ出さなかったことにも一因がある)
 こうしたロッシとバージェスの稀なケースにおいては、“ライダーにあったバイクのセレクト”は、後付けの理論となり、自分のデーウーという資産をチラつかせることで、メーカーを動かしてしまったという、ロッシとバージェスの組み合わせだからこそ出来たミラクルだが、これも、そもそもメーカーの豊富さがなければ実現出来なかったので、やはりメーカーの種類は多い方が良いと言える。(カワサキという名の地雷を誰が踏むかを予想するのも大変愉快だ)

★ネタがない国内メーカー
 林氏よりの話もしてみよう。
 私はレーシングカーデザイナーに憧れていた為か、バイクのレーサーに関しても、速く走る為の斬新なデザイン等に強く惹かれるものがあり、4輪ではロータスの創始者のコーリン・チャップマンに憧れていたが、2輪の世界では、J・J・コバス(ホッタ・ホッタ・コバス)の創始者の今は亡きアントニオ・コバス氏などを尊敬していた。
 ちなみに、コバス氏はホンダに多くのアドバイスをしていたので、ホンダのレーサーには、コバス氏のアイデアが多く含まれていたが、林氏が、レーシングカーを作ることが出来ない日本の現状を憂いているように、2輪に関しても、何か新しいアイデアというものは、大抵は海外のコンストラクターが考え出すことが多く、日本人は、いつものように、他人の猿まねを誰よりもうまくやることでのし上がってきたというイメージが私の中で強い。
 従って、シャーシコンストラクターの戦いという視点で観察すると、海外勢が多い250ccや125ccクラスのバイクの方が見ていて面白いのだが、motoGPクラスでも、鉄パイプで作ったフレームのドカが勝ってしまったのは、ある意味痛快だった。そして、ドカは今年はF-1ライクなカーボンフレームを出してくる訳だが、こんなことも、なんで日本のメーカーが出来ないのか誰も指摘しないのは、寂しいというよりかは、どこか間抜けにも感じられる。

★SBKが成功するワケ
 これは私の勝手なイメージで、正確に統計を取った訳ではないが、ドカに乗っているからドカを応援するというmotoGPファンは、恐らくライダーがどれだけ入れ替わっても、ライダーを追いかけたりせず、永遠にドカを応援するだろう。しかし、例えホンダに乗っていても、ロッシのファンだというmotoGPファンは、ロッシがヤマハに乗ってもロッシを応援するだろうし、下手をすると、ホンダからヤマハに乗り換える人もいるかもしれない。つまり、国内4メーカーは、実質的に自らのアイディンティティーでレーサーを作ることがターヘー(下手)で、V5V5と散々騒いでいたホンダも、ロッシに逃げられ、更には天に向かってツバするかのごとく、800でV4にしてからは、まるっきり存在感がなくなってしまった。

 従って、motoGPでは、せっかく国内4メーカーが参加しているにも関わらず、ニッサン車に乗ってるからGT-Rを応援するとか、トヨタ車に乗ってるからSC430を応援するとか、ホンダ車に乗ってるからNSXを応援するとか、そうした『激走!GT』のような構図にはなかなかなれないのは、林氏の言葉を借りれば、「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」に傾倒し過ぎたからで、自分が乗るバイクとの親近感が強く、「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」が希薄なSBKは、『激走!GT』のような構図になりやすいカテゴリーだと言える。

 しかし、全日本のレースなどは、「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」が根強いので、今後もフォーミュラニッポンと同じ問題を内包し続けることだろう。

 ちなみに、スズカ8耐だけは、『HRC』vs『ヨシムラ』の戦いといった、ライダーというよりかはコンストラクターの戦いといった構図なので、全日本のスプリントレースよりも視聴率は高くなっている。そう、ヨシムラ製品を使っているユーザーは、リアルタイムのヨシムラのライダーについて知らないことも多いが、コンストラクターとしての『ヨシムラ』が、チリひとつない冷淡な帝国軍イメージのHRCに戦いを挑んでいると感じれば、サーキットに足を運んだり、画面にクギ付けになったりしやすいだろう。

 また、どれだけライスポが「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」を展開しようと企んでも、野球でイチローを持ち上げるのとは違い、全日本のST600などは、ほとんどライダーの知名度などないので、ハタから見ると“内輪の盛り上がり”にしか見えず、第三者はすっかりシラけてしまうが、ワールドのSSであれば、青い目など誰が誰だか分からず、パッと見は、ありがたいことにデザインの違いで識別が容易なCBR600RRとYZF-R6の戦いなので、CBR600RR乗りやYZF-R6乗りは、こちらのレースの方が感情移入しやすいだろう。

★エピローグ
 色々と考察し、私自身が自らの頭の整理もしてみたが、結論としては、例え4輪よりも2輪はライダーの力量が占める割合が多いと分かっていても、興業的には、レースはマシンコンストラクターの戦いといった方向に持っていった方が、観客動員数や視聴率を増やすことが出来ると思われる。そうした意味では、ドカヲタとかカワヲタとかは、ロードレース界にとって大変ありがたい存在であり、「ロッシが好き(はあと)」とか「日本人ライダーを応援しよう!」みたいな、にわかロードレースファンに媚びたロードレースのメジャー化戦略は、一見有効に思えても、費用対効果は薄く、モーターサイクルショーに人が沢山集まっても、全日本のライダー全員を集めても人が集まらないことが誰にでも予想されるように、視聴者様には、“バイクそのもの”を宣伝した方が費用対効果は高いだろう。そして、メーカーはそれに応える意味でも、車体の独自化に努め、斬新なアイデアを具現化できるデザイナーを育てるかヘッドハンティングした方がいいだろう。そして、メーカーが退屈なオートバイよりも、斬新なオートバイを作ることに投資するようになれば、視聴者様の2輪への注目度も増すことだろう。

 何てことはない、80年代の空前のロードレースブームの頃が、メーカーもまさにそうしたことを実行していたのだが、経済危機の現在では、メーカーは「金が無い」とぼやくかもしれない。しかし、金が無いなら無いなりに、知恵を出して新しいバイクを開発して頂きたいと切に思うし、金がないことを理由にして、「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」に逃げ込むと、バイクという名のハードを使ったロードレースという競技は、今後もこれまでのペースかそれ以上のペースで衰退していくことだろう。





★追記
 えっ? 何々? 新たに起用したデザイナーのせいで大コケした、カワのイメージに逆らい丸っこくした06ZX-10Rや、916信者の認知的不協和を生んだドカの999なんかの失敗例があるので、そう簡単においそれと新しいデザイナーなんて雇えないって? なるほど。さすがにカワヲタやドカヲタの方達の眼力は厳しい。(笑)
 まーたしかに、08ZX-10Rとか1098とか、ルックスをいさぎよく元のラインに戻したその英断は称賛に値するので、他のメーカーもこれを教訓に、新しくバイクをデザインするにしても、少なくともアスピレーショナル・アプローチ(好ましい憧れるべきイメージをブランドに付加する方法)という言葉が理解できるデザイナーを起用するのが絶対条件となるだろう。




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