Erv's Letters index | Text by Erv Yamaguchi |
新HYヘタレ戦争勃発 |
2009年4月10日 11:57 |
世の中のバイク乗り、特に若い人達は、オートバイの性能や、レースの結果に興味を持っている。今日も今日とて持っている。しかし、自営業を営んでいる私は、常日頃から金勘定ばかりしているので、あまりそうしたことに興味が湧かず、「誰が儲けているのか?」。もっと言えば、「誰が“楽して”儲けているのか?」に興味がいってしまう。 そうした意味で、バイクに関しても、ついついメーカーのマーケティングについてばかり考えてしまうのだが、今回は、リッターバイクのマーケティングにて今年あらたに勃発したHY戦争について考察したいが、その前に、まずはリッターSS(スーパースポーツ)の歴史を簡単に振り返ってみよう。 ★リッターSSの歴史 リッターSSのカテゴリーにて、最初にインパクトある車種を投入したのは、98のYZF-R1だが、他のメーカーがこのカテゴリーに参入しておらず、SBKも4発は750ccだった為、孤立したストリート最強バイクというイキフン(雰囲気)だった。その後、00のGSX-R1000も発売されたが、まだ4メーカーが揃ってなかったので、リッターSSの盛り上がり前夜という感じの状態だったが、04年になると、CBR1000RRとZX-10Rが揃って発売され、SBKの4発も排気量が1000ccになったことで、リッターSSの人気が急上昇する。 ところで、ヤマハは02-03のYZF-R1、スズキは03-04のGSX-R1000、ホンダは04-05のCBR1000RR、カワサキは04-05のZX-10Rに関しては、割と直線を基調とした戦闘機ライクなデザインで、このイデタチから、それまでオートバイを購入することにリアリティーのなかったアニヲタチックな人達が、あらたな客層としてこのカテゴリーのバイクの優良な顧客になったが、以前、きたりんか誰かが言っていたように、リッターSSの出没が高い場所は、休日のサーキットや峠の次に、実は秋葉原の路地裏なのではないかといった意見も的を得ている気がする。 話を戻して、各メーカーは、盛り上がったリッターSS市場の熱が冷めないよう、ヤマハは04のYZF-R1、スズキは05のGSX-R1000、ホンダは06のCBR1000RR、カワサキも06のZX-10Rにて、曲線を取り入れた有機的なフォルムを身にまとい始めたが、04年前後の盛り上がりに消費者たるライダー達は心を囚われていたのか、新しいデザインのリッターSSでは、このカテゴリーの売上を更に伸ばす要素にはならず、06のZX-10Rなどは、ストレートに大コケしてしまった。 ちなみに、ZX-10Rは08年に再び直線を基調としたデザインに戻したが、04年の時のようなインパクトはなく、売上もパッとしない結果に終わった。 ★ヘタレ機能対決 メーカーはオートバイのデザインでは販売台数を伸ばせないと判断したのか、ただの偶然か、恐らくは後者だとは思うが、ホンダとヤマハは、ルックスではなく、機能で勝負をかけてきた。 ところで、バイクに乗っていて単独転倒するケースで多いのは、前輪がスリップダウンするブレーキでの“握りゴケ”と、後輪がスリップダウンする立ち上がりでの“開けゴケ”の2つがある。 そして、ホンダは前者に、ヤマハは後者を防ぐ機能を09年に投入してきた。それがホンダのABSと、ヤマハのクロスプレーン型クランクシャフトである。 これまでのリッターSSの売りは、「とにかく一番速い」という、主に前に進む機能と、戦闘機ライクなそのルックスだったが、そのネタが尽きると、今度は、「転びません」という、ヘタレ機能を付加価値として勝負をかけてきた。一体、バイクの見かけでは分からない、この付加価値戦略において、この対決はどちらに軍配が上がるのだろうか? ★勝敗 私の文章はいつも大袈裟だが、何てことはなく、大方の予想通り、セールスにおいてはホンダのCBR1000RRが勝つだろう。 なぜならば、特にストリートライダーがストリートで遭遇するシチュエーションでは、“開けゴケ”よりも、パニックブレーキやウェット時など、“握りゴケ”の方がはるかに遭遇する可能性が高く、ストリートピヨピヨライダーは、むしろ“開けゴケ”のリアリティーなどほとんどないからである。 いや、これはタテマエ的な考察であり、惜しげもなくもっと本質を語ろう。そう、ストリート用にホンダ車を買うタイプのライダーは、ほとんどがヘタレであり、ホンダは自分の顧客のスマート(ズル賢い)な性格をよく理解していると言える。 特にABSなどに惹かれるようなヘタレ中のヘタレ、別の言い方をすれば、ヘタレの中のヘタレライダーは、こうしたシステムとの親和性が高いので、デザイン重視の顧客が多いヤマハは、クロスプレーン型クランクシャフトという、見た目のデザインには貢献しないシステムに、あまり心を開かないことだろう。 また、ホンダのABSは、電気的な“後付けのシステム”なので、「そんな余分なモンいらねーから安くしろ」という人達の為に、ABS無しもラインナップできることで、消費者の選択肢も増しているが、ヤマハのクロスプレーン型クランクシャフトはハード面での刷新なので、「そんなモンいらねーから、今まで通りの音を聞かせろ」というニーズには応えられず、バリエーションは1つになってしまうことからも、ホンダの優位性が高い。 ただし、いつも私が大袈裟に騒ぎ立てている“音”問題だが、これに関しては、そもそもリッターSSを購入するあらたな客層は、インラインフォーの音などほとんど意識していないと思われるので、私のような頭が固い頑迷な世代を無視しても、それ程セールスに影響はないと思われるので、ヤマハの不利というよりかは、ホンダの優位性の高さの方が大きいだろう。 という訳で、結論としては、前輪と後輪のスリップダウン防止付加価値戦略は、前輪に目をつけたホンダの勝利となるだろう。 ああ分かってるよ、つまらない結果で申し訳ない。 |
★スズキ 皆さんご存じのように、ホンダというメーカーは、長期的視点に立って、ネタを小出しにすることで顧客の買い替え需要を誘うという、東大生のキャバ嬢が考えそうな狡猾なマーケティング戦略を採用しているメーカーである。 しかし、“満を持して”という言葉が、これ程似合わないメーカーはなかなかないが、スズキというメーカーは、多くの変態の期待に応えるべく、長期的展望など歯牙にもかけず、現在持っているネタを全てフル投入して出してくるおめでたい、いや失礼、大変ありがたいメーカーである。 つまり、ホンダのメインの顧客は、石橋を叩いて渡るレイトアダプター(後期採用者)が多く、スズキのメインの顧客は変態、いや失礼、え〜と、テキトーな言葉が思い付かないが、スズキの顧客を持ち上げてしいて表現すれば、スズキの顧客には“好奇心旺盛な”アーリーアダプター(早期採用者)が多い。 しかし、これまで“根性試し”ネタが多かったスズキは、リッターSSのカテゴリーにおいては、最近はネタが無くなってしまい、ヘタレ自慢対決のHY戦争に加わることが出来ず、スズキはアクビが出る程退屈な09モデルを投入してしまった。しかもスズキは、この世で初めて集合管を世に送り出したヨシムラと親和性が高いメーカーだというのに、何を血迷ったのか、07年に2本出しのマフラーを採用してしまった為に、多くのジスペケ信者が溜息をつくハメになっていた。しかし、この2本出しのおかげで、より上のカテゴリーであるメガスポーツのごく一部の顧客が、同じ2本出しであれば隼より車体が軽いからジスペケを買うという消費行動に出たのは皮肉な成り行きだが、もちろんこれはミクロの話で、マクロとしてスズキが失った販売台数は計り知れないと私は思う。この2本出しで。 話を戻して、本来スズキは、ネタは小出しにせず、ネタは全てフル投入するメーカーなので、2011年、あるいは前倒しで2010年には、前輪のスリップダウンを防止したホンダと、後輪のスリップダウンを防止したヤマハの両方の利点をいいとこどりした、「前後輪どちらもスリップダウンしません」という、ABS付きで不等間隔爆発の狭角V4マシンを市販化する可能性がある。もちろん、そんなものを出してきたら、頭が固い私の世代の心の中で、スズキの株は暴落するが、黙って指をくわえていることなど出来はしないスズキの性癖、というか悪癖により、motoGPテクノロジーフル投入で、新しいHY戦争に割って入ってくるかもしれない。 そう、スズキは、今のままネタを投入することなく負け戦を戦うか、これまでの伝統に従い、持てるテクノロジーをフル投入するか、この二者択一に迫られているのかもしれないが、案外無視されている第3の道、それが、パワーは2万回転で300馬力とかの、「どうだい俺だけ直線番長! コーナーのことなどシカッティング!」路線だが、「とにかくパワーがあった方がいい」というきたりんのニーズと、スロットルをひねる時に小指が立つようなストリートピヨピヨライダーの現実を比較して、これまで変態のニーズに応えてきたあのスズキが、圧倒的多数の後者のニーズに応えることになれば、大変忍びない気持ちで一杯になりそうだ。(笑) ★カワサキ では、大して技術力もなく、レースでは勝てず、今後何のネタもないカワサキはどうすればいいのだろうか? そう、カワサキは、思い切ってZX-10Rの価格を吊り上げ、ZX-10Rに関する販促費は凍結し、ZX-10Rに関係するサービスもガンガン打ち切るのである。こうすれば、売上が減っていく間も利益が増えて笑いが止まらない。これは、案外無視されているマーケティング戦略の裏ワザである。 そして、おめでたい、いや失礼、ありがたいお客様により、ZX-10Rを売却して得た利益は、ダエグの販促費にフル投入したり、レース活動で浪費する金の恐らく10分の1程度の費用にてまかなうことができる、ゼファーシリーズの復活の費用に注ぎ込むべきである。 カワサキは、ゴルフと2足のワラジを履くようなヘタレライダー(玉田もゴルフやってるよw)しか雇えない現状を理解し、販促に効果がないどころか、むしろ逆効果となっているロードレースなどとっとと撤退して、楽して儲けるハーレーのような企業を目指した方が、恐らく株主の安眠にも役立つだけでなく、ZRXやゼファーをこよなく愛すカワ車乗りからも感謝されることだろう。また、中野がキッカケで生まれたにわか軟弱カワファンがいなくなれば、“やから”カワ車乗りも喜ぶよ。きっと。 ★未来予想図 リッターSSというカテゴリーが、販売台数を伸ばすタメのネタ切れにより、ホンダがABS、ヤマハが不等間隔爆発というテクノロジーを投入してきた09年だが、将来スズキがこれに加わり、だんだんとリッターSSが握りゴケも開けゴケもしなくなっていったら、一体未来はどうなるのだろうか? オリンピックなどのスポーツにおいては、選手がドーピングをしていたことがバレるとメダルを剥奪されたりするが、こうしたニュースが流れるたびに交わされる床屋談義の1つが、「ドーピングをさせるだけさせた究極の人間は、一体どんな記録を出すのだろう?」だ。 しかし、バイクのテクノロジーに関しては、人間のドーピングと違って倫理に反しないので、スリップダウンしないテクノロジーが究極に極まったら、「一体バイクはどこまで4輪に迫ることが出来るのだろう?」と、多くの人達が考え出すことだろう。 機械的なシステムでもいい、電気的なシステムでもいい、ほとんど転倒することがないというバイクが出来上がったら、公の場ではリアリティーが少ないが、アンダーグラウンドな世界では、恐らく4輪との異種格闘技戦が始まるかもしれない。 バイクは、ブレーキングで4輪に劣り、コーナーでも4輪より遅い。この常識を覆して、これまでの軽量ハイパワーの利点は残しつつ、ブレーキングやコーナーで4輪についていけるようになったら、これまでクルマからゴミ扱いされていた2輪も、少しは一目置かれる存在になるかもしれない。 しかし、これは夢物語ではなく、恐らく数年の内に現実の出来事となるだろう。 ★老害と新しい時代の狭間 かつてその昔、アメリカではFRのクルマが“田舎の草レース”を繰り広げていた。そこにヨーロッパのコンストラクターがミッドシップエンジンのクルマを持ち込み、労せずしてぶっち切りで優勝した。この時、FR車による“田舎の草レース”に愛着のあったアメリカ人達は、心の葛藤に悩まされたことだろう。 また、私は昨年、マン島TTという、ライダーイケニエ殺人レースをいまだに信奉する公道レースカルトの人達をぶっ叩いた。しかし、公道レースカルトの人達は、公道レースを否定されることが理性的に受け入れられなかったようだ。理由。バカだから。正確には、とてつもなくバカだから。 同様に、私はインラインフォーの集合管の音をこよなく愛し、ハイパワーなバイクのスライドとウィリーをこよなく愛していた。しかし、それでは昔のアメリカ人や公道レースカルトの人達と同じ穴のむじななのかもしれない。メーカーが安全なバイクの開発に邁進しているというのに。 そんな私は、自分が頑迷な老害になるのではないかと、素直に自らを反省し、もう等爆パラフォーとかウィリーとかスライドとか、そんなものはどうでもよくなってきた。 むしろ、理論的に有利なミッドシップエンジンのクルマのように、例えウィリーもスライドもせずとも、2輪よりも速い4輪がそんな無駄な動きはせずに2輪をゴミ扱いしているのだから、メーカーはこのまま突き進んで、とてつもなく速い2輪を作って、4輪乗り共の鼻をあかすのも良いような気もしてきた。 もちろん、カギを握るのはスズキで、スズキがmotoGPのテクノロジーを惜しげもなくフル投入した市販車を出すか出さないかで、2輪の未来も大きく変わってくると私は思う。 そしてもし、ウィリーもスライドもせずにヘンテコな排気音で走るバイクがドアの横を通ってウィンドウ越しに目前を走り抜けていく様を拝むハメになったら、4輪の走り屋達は、もしかしたら4輪から2輪に転向するかもしれない。そうなれば、同じ指なしグローブを愛すアニヲタを囲い込むよりかは、リッターSSの売上の向上に貢献する事態になるだろう。コンビニが百貨店の売上をかすめ取ったように。 もちろん、懐古主義チックに、インラインフォーの伝統的な美しさや音の良さを愛すというニーズに対しては、今後もカワサキが応えてくれるだろうし応えるべきである。Vツインを愛すハーレーのように。 そして、カワサキが今後も継続してインラインフォーを販売すれば、むしろカワサキはその戦略でハーレーのように儲けることが出来るだろう。なぜならば、ハーレーと同じで、週末に悪ぶりたいというニーズは速さとは無関係だからである。(悪ぶっている姿を他人に見せつけ自分に酔う為にも、スピードは遅いくらいの方が良かったりもする) 話を戻して、私が小さい頃に好きだった、70年代のF-1レースを今見てみると、フォーミュラーカーが峠を走る86のようにドリフトして走っている様が微笑ましく感じてしまう。しかし、現在のF-1の速さはパネェ。 同様に、今から20年前のロードレースを拝むと、そのバンク角の浅さが前時代的だが、現在のmotoGPのバンク角とコーナーリングスピードはやはりパネェ。 という訳で、『ライダー重視orバイク重視』では、ロードレースも、クルマのレースと同様、、「ライダー人気便乗作戦」や「人間ドラマ戦略」よりも、コンストラクターの戦いといった構図にするべきだと語ったが、その結論と相まって、最近の私は、懐古主義よりも、進歩思想に傾倒してきている。 もちろんその最大の理由は、老害に対する異常な嫌悪感である。 |
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