Erv's Letters index Text by Erv Yamaguchi


カーボンフレーム
2009年4月17日 21:38

 前回のエントリにてカミングアウトした通り、メカニカルな話題にふってみよう。

 それと、カミングアウトによる予定調和的という訳でもなく、motoGP開幕のカタールでは、フツーに歴史に残るもの凄い出来事が起こったというのに、誰も全く話題にせずにシカッティング(シカトの進行形)しているので、私が1人で騒ぐというのもいいかもしれない。

 そう、カタールでは、恐らくWGPから続く歴史上初めて、motoGPにおいてカーボンフレームのマシンが優勝したが、ほとんどの視聴者が、ストーナーvsロッシというものの見方で観戦しているので、誰もこの快挙には興味をもっていないようだ。

 あるいは、そもそもドゥカティのマシンは、元々鋼管トラスフレームを使った強烈ヘンテコバイクなので、フレームの特性とかは関係なく、単にエンジンパワーによる直線番長っぷりと、これまたヘンテコセッティングをストーナーだけがうまく使いこなしちゃってるだけだと多くの視聴者が思っている為か、今更フレームが何で出来ていようが、どうでもいい話なのかもしれない。

 では、それならそれで構わないという調子で、唯我独尊的に、勝手にフレームについて想いを巡らせてみよう。

★アルミツインスパーフレーム
 皆さんご存じのように、大昔のレーサーは、鉄パイプを使ったダブルクレードルタイプのフレームだったが、それがだんだんとアルミの角パイプになり、尊敬すべきアントニオ・コバス氏により、アルミツインスパーフレームが生み出されたが、小学生の時に、私はレン・テリー氏の著書にてレーシングカーの設計について独学していたおかげで、レーシングカーの設計の基本は、『中空』『薄肉』『大口径』の3つだと知っていたので、アルミツインスパーも悪くはないが、なぜ、左右でフレームを分けているのか、「効率悪いよな〜」と常々考えていた。

 例えば、アルミツインスパーフレームのマシンだと、ブレーキング時にフレームが左右に広がってしまい、その為にライダーが「剛性が低い」と感じると、アルミツインスパーフレームの左右をパイプで連結することで、ブレーキング時にフレームの広がりが減少し剛性が上がることでブレーキングが安定したりする。

 しかし、レーシングカーデザイナーが見れば、上記のエピソードはなんとも突貫作業的で美しくないストーリーだ。もし、4輪のレーシングカーデザイナーが2輪のフレームを設計した場合には、左右で分割せず、アルミモノコックボディーといった形にすると思われるが、そうは言っても、エンジンを抱え込みたかったり、エアクリーナーボックスを詰め込みたかったり、空気を通してエンジンを冷却したかったりとか、その他整備性の問題等々、色々と2輪の事情に精通するアントニオ・コバス氏の苦肉の策というのが、アルミツインスパーフレームになった理由なのだろう。

★メーカーによる違い
 あえて話を少し脱線させるが、例えば、旧車のレースなどでは、昔のパイプフレームに最新の太いタイヤを履かせてレースに参加する為に、フレームに様々な補強を入れざるを得なくなるが、細かく補強を入れていくと、フレームはガチガチとしたフィーリングになり、ライダーは乗っていてあまり気持ちよくなくなってくる。その点、アルミツインスパーフレームは、高剛性の中にも適度なしなりがあるので、ライダーに優しいフィーリングが売りである。そして、この優しさをうまく引き出すのがうまいメーカーは、大方ヤマハだと世の中では認知されていて、ヤマハのスポーツバイクは、使い古された言葉を使わせてもらえれば、“コーナーリングマシーン”などと形容されることも多い。

 逆に、このアルミツインスパーフレームの設計が強烈に下手くそなのがホンダというイメージで、もちろん、ホンダだろうとヤマハだろうと、レースの現場では、成功したり失敗したり、その優劣は日常茶飯事で入れ替わっていると思われるので、特に現場で戦う人達からは異論が噴出すると思われるが、私の勝手なイメージとか、一般論といったゆるい認識にて、ホンダはアルミツインスパーフレームの“しなやかさ”を引き出すセンスがまるでないイメージがある。

 一番ひどかったのは、89年のNSR500だが、この年にホンダに移籍したローソンは、曲がらないNSRに手こずり、毎戦毎戦レースのたびにフレームに補強し、フレームによる旋回力など引き出せないので、キャスターを立てて、そのかわりに悪くなった直進性は、ステアリングダンパーを締め上げて対処するという、ほとんどノイローゼ気味なマシンセッティングで、まーそんなヘンテコバイクだったからこそ、ローソンのファイティングスピリッツに火がついて年間チャンピオンになってしまったのは皮肉な成り行きだが、マシン自体は、お世辞で失敗作だった。

 私には、この89年の印象が非常に強いので、どうもホンダはガチガチしたフレームを作るのが大好きで、なかなかヤマハのような二次旋回を引き出すフレームが作れないので、そのコンプレックスの裏返しとして、ピポットレスフレームとか、ユニットプロリンクとか、フレーム以外の部分でヤマハとの違いを出してアドバンテージを築こうとしている感が強い。

★でその勝負の行方は
 ピポットレスフレームは見事に大コケしたが(笑)、ユニットプロリンクも成功か失敗かは賛否両論だと思われる。

 私は個人的にはユニットプロリンクは嫌いだが、否、正確には大嫌いだが、多くのライダーの証言から、バイクの方が勝手に曲がっていってしまうという現象や、ブレーキング時にリヤサスの反力を利用してフロントを沈ませるという感覚がなくなってしまった事に対して、最初の内ライダーは非常に戸惑ってしまうのがユニットプロリンクのようで、それをうまく乗りこなせば成績も後からついてくるようだが、いつまでもそのフィーリングに慣れないライダーは、結局はバイクを買い換えるハメになるようだ。

 つまり、あまり万人向けではないのがユニットプロリンクのようだが、プロアームとかピポットレスとか、得意のホンダの気紛れ設計がこれだけ多いと、これらの新機軸は、繰り返しになるが、フレームの基本設計で勝負できないホンダのヤマハに対するコンプレックスの裏返しにしか思えないことが多い。

★一筋縄ではいかない2輪
 なぜ話を脱線させたかだが、バイクのフレームというのは、4輪のレーシングカーデザイナーの、「シャーシは基本的に全く変形しない剛体が理想で、ロードホールディング(路面追従性)は全てサスペンションに100%仕事を任せるのが基本なので、サスを設計通り動かす意味でも、シャーシは剛体であって欲しい」という考え方が通用しないシロモノ家電で、バイクは、ロードホールディングをサスだけではなく、フレームのしなりなども考慮させているか、あるいは、それを無視したとしても、“二次旋回”という部分において、フレームのしなりも重要と捉えているフシがあり、仮に、4輪的な絶対の真理に基づいた原理原則から、理想のフレームを作ったとしても、ライダーの感性に合わないと、結局はその性能は机上の空論になってしまい、理論的にヘンテコでも、ライダーが操りやすいと思えば、そちらの方が速いということにもなりかねないのが、2輪のレーサー設計の妙味となっている。

★別の見方
 と、ここまでが、かなり大雑把な私の2輪に対するイメージだが、鋼管トラスフレームというのは、いわゆるヤマハ的なフィーリングをほとんど無視した前時代的なシロモノ家電なので、そんなフレームのバイクが、motoGPという最高峰クラスでチャンピオンを取ってしまうのは、とてつもない出来事だった訳だが、今年はなんと、ドゥカティはカーボンフレームを出してきた。

 『ライディングスポーツ』誌などを見ても、日本のメーカーからもらった写真で雑誌を作るのが大好きな人達だけに、日本のメーカーと協力したレーサーの画像は豊富で、ドゥカティのレーサーのカーボンフレームは、今のところあまりそのルックスが拝めないのが残念だが、軽く検索してみると、↓みたいなページがあった。

http://www.gpone.com/news/News.asp?NNews=3879

 画像が小さくあまりよく分からないが、新しいカーボンフレームは、エアクリーナーボックスを含めたモノコックボディーライクな設計のようで、極めて4輪の考え方に近い設計がなされている感じがする。

 ちなみに、4輪のデザイナーなら、ブレーキング時の剛性を最大限に発揮する意味でも、フレームの左右の上側や下側にも板を貼って、『中空』『薄肉』『大口径』とすることで、軽量高剛性なシャーシを設計すると思われるが、日本のメーカーは、motoGPマシンと言えども、相も変わらずアルミツインスパーの間には、剛性アップにはなんの役にも立たないエアクリーナーボックスが陣取っている。しかし、ドゥカティの新フレームは、エアクリーナーボックスが左右のフレームを連結する“板”になっているようで、かなり高剛性なフレームといったイキフン(雰囲気)で、想像するに、しなり等を無視したかなり“剛体”という設計のような気がするが、これまでの伝統的な“しなり”を無視した設計の方向性で、ドゥカティのマシンは、サスやタイヤにロードホールディングの役割は全て任せ、むしろフレームは基本的に剛体と捉えることで、全てのセッティングは“感性”というあやふやなものではなく、ロジカルにサスのセッティングにてつめていこうという設計思想なのかもしれない。

 つまり、一般的にドゥカティは直線番長だと思われているが、本当は、日本のメーカーとは全く違うアプローチにより、独自の哲学を開花させている可能性もあるので、ストーナーvsロッシという近視眼的な見方だけでなく、motoGPはドゥカティ対ヤマハという、マシンコンストラクターの戦いとしても注目できると思われる。

 どうだい、もってき方が無理やりだろう。(爆)




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