Erv's Letters index | Text by Erv Yamaguchi |
09YZF-R1の失敗 |
2009年7月30日 21:20 |
ホンダのパラフォーの伝統は『CB』である。スズキのパラフォーの伝統は『GS』である。カワサキのパラフォーの伝統は『Z』である。 また、現在でも売れ筋のパラフォーのネイキッド車やスーパースポーツ車は、3社共この伝統名を車名に織り込むことで、消費者にメーカーのブランドバリューを認知させている。 ネイキッド車について見てみよう。 リッタークラスのネイキッド車で、ホンダの売れ筋はCB1300SFで、伝統的なCBの名前が入っていることで、このバイクはよく売れている。同様に、カワサキのZRXも、名前に『Z』が入ることで、よく売れている。 しかしあなたは言うかもしれない。「オマエのロジックだと、伝統があるGSX1400が売れて、伝統がないXJR1300が売れないハズなのに、なぜXJR1300の方が売れているのだ」と。 的を射た質問なので、的を射た回答をしよう。あなたが考えた通り、GSX1400は名前に伝統的な『GS』という文字が入っているのに大コケし、XJR1300には伝統を彷彿させる文字がないのに、そこそこ売れている。なぜか? それは、こんな回りくどい文章を書くまでもなく、バイク乗りなら皆さん分かる通り、GSX1400よりもXJR1300の方がデザインが優れているからである。つまり、いくら伝統があっても、チョンマゲがなく、パンツをはいた相撲取りの相撲など誰も見たくないように、GSX1400は、バイク乗りからはチョンマゲのない相撲取りに見えてしまった。これでは伝統も台無しである。 ★ヤマハの伝統 冒頭のロジックで言えば、バイクの名前には、伝統的な名前を使った方がラクしてバイクの販売数を伸ばせるワケだが、デザイン力の無いメーカーだと、キワモノが好きな変態以外からの支持を集めるのが難しく、ある程度まともなデザインとセットで無ければ、伝統戦略も使えないということが良く分かる。 しかし、パラフォーの歴史において、XJ、FZ、YZFと、名前をコロコロ変えて、消費者に一貫性をアピールすることが出来ないヤマハは、他の3社と違い、そのデザイン力を武器に闘っているメーカーだとも言える。つまり、デザインこそがヤマハの伝統という訳だ。これが、カタカナ職業や横文字職業と言われる人達にヤマハが人気がある所以(ゆえん)なのかもしれない。 それはそれで良しとして、私はマーケティングについて独学しているので、自身の考えとして、ラクして儲ける為には、商品のネーミングが重要だと考えている。否、決定的に重要だと考えている。従って、以下に新しいヤマハのYZF-R1に対して、主にマーケティングの立場から懐疑の目を向けてみよう。 ★ネーミングの失敗 09のYZF-R1は、皆さん御存じのように、motoGPのYZF-M1が使用しているテクノロジーである、クロスプレーン型のクランクシャフトを採用してフルモデルチェンジして登場した。 私が不思議に思ったのは、なぜヤマハは、この新しいバイクに対してYZF-M1というネーミングを付けなかったのかだ。 これは事前には予想できなかった話だが、今年に入ってドカがまごついているので、motoGPでは、ロッシとロレがワンツーを形成し、テレビ画面にヤマハ車しか映らないという、ヤマハにとってありがたい状態が多い。このトップワンツーを走るバイクのレプリカとして、同じ技術が採用されているYZF-R1を、YZF-M1として売り出していれば、バイクのエンジンなどブラックボックスと捉える素人の人達に対しても、YZF-R1はもっと沢山認知され、下世話に言えば、もっと売れたのではないだろうか? ラクして。 そう、素人にしてみれば、クロスプレーン型クランクシャフトの説明などしても、それを真に理解するまで時間がかかるが、車名が変わっていれば、そのバイクには何かこれまでと違うことが起きていると消費者たるライダー達は瞬時に理解するものである。 そう、頭の良いあなたは信じられないかもしれないが、バイクを買う人が全員メカオタクとは限らず、むしろ大半がメカオンチなのである。 そして、こうしたネーミングによる付加価値戦略は、過去にヤマハも体験しているハズなのである。それが『EXUP』(エグザップ)だ。 ヤマハが以前リッターバイクを売る際、1987年から1988年までは、FZR1000を売っていた。しかし、1989年から1996年までは、FZR1000に、『EXUP』(エグザップ)というミドルネームをつけた。 仮に、これからバイクの中古車を買うビギナーが中古車販売店にでかけ、ただのFZR1000と、FZR1000EXUPを比較した時、販売店の店員は、「エグザップって何ですか?」という顧客の質問に対して、次のようにアドバイスするかもしれない。「排気デパイスです」、あるいは「低中速トルクが増していて乗りやすいですよ」などなど。顧客の理解度に応じて、あるいは店員の接客レベルによってアドバイスは色々とあるかと思うが、素人の顧客なら、『EXUP』という名称に、何か特別な付加価値があることは理解することだろう。 しかし、YZF-R1に関しては、以前、5バルブから4バルブに切り替わった際も、特別にネーミングに変化はなかったので、どの年式から4バルブ化したのかは、マニアでなければ分からなくなってしまった。よしんば今回のクロスプレーン型クランクシャフトの採用は、バルブ数の変化よりも大きな変化だと言えるのに、ヤマハはそのネーミングに何も変化を加えなかった。 10年後の中古車販売店を想像してみよう。仮に09のYZF-R1が、YZF-M1という名前で販売されていれば、10年後に中古車販売店に訪れた素人の顧客も、なぜ08年まではYZF-R1だったのに、09年からはYZF-M1と呼称が変わったのか、店員さんに質問することだろう。そうすれば店員も、「ああ、そう言えばこの年式からクロスプレーンが入っていたんだっけ」と、簡単に思い出すことが出来るかもしれない。しかし、そのままYZF-R1という呼称で売っていると、5バルブから4バルブに切り替わった時のように、大してクロスプレーンに付加価値など見出せず、単に1年の年式の違いという扱いになってしまうのではないだろうか? しかし、このように分析すると、ヤマハファンや、あるいはヤマハのマーケティング担当者も、市販車のYZF-R1と純レーサーのYZF-M1にて名前を変えているのは、「仮にYZF-M1という市販車を出すと、SBKでもYZF-M1が走り、motoGPでもYZF-M1が走ることで、見ている者が混乱する為の処置で、レーサーと市販車の名前が違うのは、この業界の伝統であり慣習で、顧客の分かりやすさを優先したからだ」と弁解するかもしれない。 つまり、ヤマハはこれまでパラフォーの市販車に対してXJ、FZ、YZFと名前を変えてきたという伝統があると言うのに、YZF-R1シリーズは、YZF-R1という名前の一貫性が重要で、YZF-M1は、motoGPレーサーとしての名前の一貫性が重要だとでも言うのだろうか? しかし、それはおかしい理屈だと言える。例えば、motoGPが990ccの時代ならば、1000ccまで10ccしか足りないだけなので、1リッターを表した、『M1』の『1』という呼称も筋が通っているが、現在の800ccのmotoGPでは、YZF-M1は、YZF-M0.8とか、あるいは600ccのYZF-R6のように、YZF-M8に変化させるべきだったのではないだろうか? つまり、motoGPを走るYZF-M1の名前に一貫性があるとヤマハ側が思っていても、一般ピーポーにはそうは思えない。 しかし、それでもヤマハは名前の一貫性の重要性を主張するのだろうか? この不景気の時代に420億円もの赤字を抱えていると言うのに。 そう、SBKとmotoGPにて同じ名前のバイクが走ろうが、ラクして儲けることが出来れば、なりふり構わずそんなことはシカッティングで、YZF-R1に対しては、絶対にYZF-M1の名称か、あるいは何か特別なことが起きていることが一目で分かる、『EXUP』のようなミドルネームの付加が絶対に必要だったと私は考えている。500人の派遣社員のクビを切らない為にも。 また、それでもレーサーと市販車の名称の棲み分けにこだわるのであれば、他のメーカーがよくやるように、例えばmotoGPマシンがYZF-M1なら、市販車はYZF-M1“RR”とか、少し変化を加えて違いを出せばいいのではないだろうか? 新しいヤマハのリッターSSを買った顧客だって、「俺、R1買っちった。(テヘッ)」よりかは、「俺、M1RR買っちった。(テヘッ)」の方が、はるかに優越感が感じられるのではないだろうか? これまでのR1乗りに対して。 しかし、恐らくYZF-R1の開発陣達は、そうした小手先のマーケティング戦略に対してたかをくくっていたのだろう。「良い商品を開発すれば必ず販売成績にも反映される」と。しかし、こうしたベタープロダクト戦略は開発担当者の思い上がりであり、多くは杞憂(思い過ごし)に終わる。 では、もう過ぎ去ってしまった過去のことだが、結論を言うと、私が思うに、クロスプレーン型クランクシャフトを採用したバイクには、レーサーであろうと市販車であろうと、『M』の称号を与えた方が、マーケティング的にははるかに有利だったと思う。そして、レーサーと市販車の名称をバッティングさせない為にも、motoGPが800cc化した際に、YZF-M1は名称をYZF-M8に変更し、その後、リッターSS市場にて、今度は少し遅れてYZF-M1RRという名称で市販車を販売していれば、ドカが販売したデスモセディチRRのような価値観をリッターSS車に付与することも出来たのではないかと私は考えている。 最後に、09のYZF-R1は、“耳さえふさいでいれば”、本当は素晴らしいバイクだったのかもしれない。果たして、ロッシやロレが活躍する絶好の年にYZF-M1ではなく、YZF-R1という名前でリッターSSを売ってしまったヤマハに、YZF-R1のセールスを伸ばす起死回生策はあるのだろうか? 実はある。 それは、これから09のYZF-R1を買う顧客に対して、排気音が聞こえなくなるという特殊な加工を施した耳栓を無料でサービスするというキャンペーンを大々的に打つことである。そうすれば、消費者たるライダー達は、この新しいバイクには、排気音を犠牲にすることで何か新しいことが起きていると瞬時に理解することが出来るだろう。 もちろん、すでに09のYZF-R1を購入してしまった顧客が、誤って燃料タンクに龍角散を入れたりしないよう、ヤマハは丁寧な謝罪文と共に、これらの顧客に対してもこの耳栓を迅速に発送した方が良いことは言うまでもない。 ★オマケ '09 YZF-R1の音。 こういうのを、「聞くに堪えない」と言う。 “音叉マーク”が聞いてあきれる。 ザリ エンジン始動 しかし、09YZF-R1に乗れば、多少、湘爆の江口洋介になった気分を味わえるかもしれない。 yamaha r1 2009 akrapovic slip on exhaust スロベニア人が作ったマフラーのおかげか、GS400の直管よりかは多少マシな音になっている。 しかし、↑の映像を見ると、ヤマハの技術力よりも、アクラの技術力の方がより高く感じられてしまう。 motoGP Twincan でもやっぱり4発はこういうんじゃないと認知的不協和がある。 という訳で、サムタイム宣伝オチ、ソー・ソーリー。 motoGP Twincan & Barracuda Exhaust |
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