Erv's Letters index | Text by Erv Yamaguchi |
隣の芝生 2005年12月3日 20:47 2004年12月31日 11:08 良いお年を 私は昨年の年末に、↑のように、スズキとカワサキに対して、業務提携を即刻解消するように助言し、新しい年、つまり今年を迎えた。理由。ラインを拡大しても、ブランドバリューを下げるだけだからである。 幸いなことに、この2つのメーカーに、学習能力はあったようだ。 聞くところによると、スズキとカワサキは、2007年をメドにOEM(相手先ブランドによる生産)をやめるとのことである。 スズキとカワサキによれば、ラインナップの相互補完は、顧客のブランドイメージの混乱などにより、成果が薄かったという。 バカげている。混乱したのは、顧客のほうではない。顧客はいつでもブランドイメージに従順である。混乱していたのは、スズキとカワサキの経営陣である。 そもそも、この2つのメーカーは、OEM供給の前に、マーケットリサーチを行ったのだろうか? 「あなたはスズキのD-トラッカーが欲しいですか?」「あなたはスズキのバリオスが欲しいですか?」「あなたはカワサキのスカイウエイブが欲しいですか?」である。 私を含め、我々一般の人間は、オートバイを設計し、それを製造することなど出来ない。つまり、オートバイを作り出す人達は、とてつもなく賢い人達だろう。ではなぜ、スズキとカワサキといった大企業は、賢い人達が集まった愚かな組織になってしまうのだろうか? それは、技術屋の能力を無に帰すべく、経営者が無能だからである。 スズキとカワサキの経営者は、本当にバカだ。東京をネガティブに生きている暗愚な私が1人で考えても分かることである、業務提携によるラインの拡大という愚行を、平気で決定できる愚者だ。ではなぜ、いっぱしの大学出のスーツ族が、こんなミスをするのだろうか? 理由。フルライン信仰である。 国内のオートバイメーカーのトップはどこだろうか? ホンダである。ホンダはフルラインだろうか? フルラインである。 国内のオートバイメーカーの2位はどこだろうか? ヤマハである。ヤマハはフルラインだろうか? フルラインである。 スズキとカワサキは、隣の芝生が青く見えた。 そして、ホンダとヤマハに対抗する為には、コストをかけずにラインを拡大するしかないと思った。机上の空論である。 ホンダはフルラインで失敗していると思う。否。そもそもオートバイの販売で失敗していると思う。ホンダは4輪に特化するべきである。 ホンダは、北米ではアキュラのブランドで成功し、トヨタと4輪の販売において1〜2位を争っている。しかし、国内ではトヨタ、日産に次ぐ3位まで転落してしまう。理由。オートバイを作っているからである。私は生まれ故郷に帰省したとき、ホンダの本社によく行く。すると1階のショールームには、4輪と2輪が展示してある。バカげている。こんなバカげたメーカーは他にないだろう。このバカげた展示により、レジェンドを見に来た、40〜50代のバーバリー辺りを着た夫婦は、背中に『HONDA』と入ったキルティング素材のジャンパーを着た汚いバイク乗りが視界に入るハメになるのだ。バカげている。ヤナセやレクサスでは有り得ない光景である。 えっ? 何々? いくらホンダ党だからって、ホンダに対してホメ過ぎだって? 分かったよ。私だって人間なので、自分の生まれ育った故郷の地元企業に対しては、評価が甘くなってしまうのも、いた仕方ないのだ。しかし、それでは私らしさが失われるので、ここは心を鬼にして、あえてホンダに対して苦言を語ろう。そう、このホンダのショールームには、2輪だけでなく、なんと子供だましなロボットまで展示しているのである。(オマケに、このロボットは2足歩行で歩く)私がこれを見て理解したのは、ホンダは、株主が得るべき利益の一部を、確実にこの子供だましに使ったということである。上場企業は、本業をおろそかにするべきではない。 えっ? 何々? 商品を開発するには、“遊び心”も必要だって? そんなものは、顧客をダマす為の、“ウソも方便”の一種であり、本当に遊んではいけない。 ホンダは、今は亡き本田宗一郎の後悔の念を汲み取り、ホンダの看板を降ろして、アキュラのブランドネームで今すぐレクサスに対抗すべきである。 そして、どうしても本田宗一郎の経歴に敬意を表したいのならば、中小排気量のオートバイを売るブランドにホンダの名前を残し、大排気量車は、全くの別のブランドネームでスピンオフ(分社化)すべきである。 しかし、新しいホンダの社長は、どうやらオートバイも好きそうなので、こんな冷厳な判断は出来ないだろう。出来るとしたら、それはオートバイの免許も持っていないような、ヤマハの社長のような人物かもしれない。しかし、ヤマハの新社長も、オートバイ部門をスピンオフなどできそうもないので、もっとオートバイ自体を忌み嫌っている人物のほうが相応しいかもしれない。あるいは、現在の社内にいる人間で、本当にオートバイが好きな人間は、現経営陣と話し合い、銀行に頼んで、オートバイ部門の資産を担保に金を借り、LBO(レバレッジド・バイ・アウト)して独立するべきである。そう、ハーレー・ダビッドソンがAMFに仕掛けたように。 話を元に戻そう。 顧客はブランドイメージに従順である。D-トラッカーが欲しいときには、スズキの販売店には行かない。スズキ党の人間は、スズキのロゴが入ったD-トラッカーは買わない。顧客は、スカイウエイブが欲しいときには、カワサキの販売店には行かない。カワサキ党の人間は、カワサキのロゴが入ったスカイウエイブは買わない。 ZX-10Rのカラーバリエーションの中で、最も人気が高いのは、ライムグリーンである。GSX-R1000のカラーバリエーションの中で、最も人気が高いのは、青白である。06のYZF-R1のカラーバリエーションの中で、最も人気が高いのは、50周年記念のストロボカラーである。CBR1000RRのカラーバリエーションの中で、最も人気が高いのは、ウィングマークをあしらったカラーリングである。 顧客は、ブランドイメージに忠実である。混乱することはないどころか、最も正確にブランドに従う傾向がある。しかし、残念なことに、売り手がそれを忘れる。 ドゥカティが青いオートバイを売るだろうか? 売らない。理由。顧客が心を開かないからである。 カラーリングのラインナップにしろ、車体のラインナップにしろ、ラインの拡大には、いつも最もらしい理由がつく。「そのオートバイも、顧客は必要としている」しかし、それならば、もっと沢山売れるか、もっと儲からなければおかしい。 しかし、皮肉なことに、国内のメーカーは、お互いのラインを模擬することで、ますます利益を減らしている。ますますオートバイそのものの魅力を引き下げ、ヒットが出しづらくなっている。しかし、誰が何と言おうと、フルライン信仰を捨てることが出来ない。「隣と一緒になれ」圧力のせいである。 これは一種の病気である。技術屋が額に汗し、手を汚して商品を開発しても、スーツ族がこの病気にかかっている限り、国内メーカーはブランドを築くことが出来ない。国内メーカーの皮肉は、技術力と生産能力が高すぎるあまり、バットを振りたいという欲求に勝てないことである。しかし、ドゥカティやハーレー・ダビッドソンのように、バッターはストライク以外のボール球に手を出すべきではない。 |
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