MAENORITY
REPORT 3

前のりティリポート3 by アーブ山口

2004/2/20

★プロローグ
 浅はかな考え、分かりきった解答、頼りになりそうな多数、古くからの慣習、常識、うしろ乗り、これらが私の嫌いなものである。
 逆に、私が好きなものをまず真っ先にあげるとすれば、それはハイスロ(ハイスロットル)である。
 しかし、サーキットにおいて、右も左も分からないビギナーライダーにとって、ハイスロというのは、驚くほど効果が高いアイテムだが、驚くほど無視されている。
 実の所、なぜ無視されているのか私はよく知っているのだが、今回のリポートは、主にアクセルワークについてから話を進めていくこととしよう。

★重視されるアクセルワーク
 ライテクを伝承する尊敬すべき有識者達は、ビギナーライダーに対して、アクセルワークは非常に重要だと力説する傾向が強い。従って、この教えに従い、アクセルワークの上達に精を出すライダーが増えることは、『前のりティ』にとって歓迎すべきことである。もちろんそれは、“カモ”が増えるからだ。
 例えばこんな風景を想像して頂きたい。サーキットのパドックにて、右も左も分からないビギナーライダーが、ベテランライダー(もちろん多くは、人当たりの良い“うしろ乗り”ライダーである)に対して「ハイスロってつけた方がいいんですか?」と聞いているとしよう。中には、「いや〜、ハイスロ入れると、微妙なアクセルワークが難しくなって、アクセルが重くもなるんだよね〜」と語るベテランライダーもいることだろう。そして、これを聞いたビギナーライダーは、恐らくハイスロに対して懐疑的になるだろう。
 冒頭で述べたように、ハイスロが効果の高いアイテムでも、あまり大声で推奨されないのは、こうしたベテランライダーの意見がネックになっているからである。
 しかし、心理学者によれば、考え方を変えれば行動が変わるという話だが、行動を変えると考え方が変わるという場合もある。つまりはハイスロは暴力的に入れろということである。
 アクセルワークの上達、それは、リアタイヤのグリップ力と相談しながら、タイヤの限界を探る能力を身につけるべく、タイヤのグリップ力に頼ったコーナーリングスピード重視のライダーにとっては重要な要素となる。
 しかし、低い枝になっている果物を取るかのごとく、そうした教科書的な教えを順守する前に、ビギナーライダーはアクセルの開けが甘いことの方が、私は問題だと考えているので、ビギナーライダーに対しては、まず真っ先にハイスロを入れることを薦めている。
 そうすると、立ち上がりでアクセルの開けの甘いビギナーライダーは、大抵は労せずしてアクセルを開けるのが早くなり、タイムアップする。
 又、特に4サイクルの高回転指向のマシンに乗っている場合、コーナー進入でのシフトダウン時に、小さなアクセル開度にて大きくアクセルをあおれることで、ホッピングも同時に防ぎやすくなり、ブレーキングギリギリまで全開で走ることでアクセルオフしている空走距離を縮めることにも役に立つ。
 しかし、これはあくまでも立ち上がり重視の『前のりティ』のスタイルでの話なので、『ライダースクラブ』誌の熟読者にとっては、オートバイというのは“走ってさえいれば御の字”というシロモノ家電なので、間違っても危険が危ないハイスロなど入れてはいけない。
 もし、『ライダースクラブ』誌の熟読者がハイスロなど入れれば、第二次世界大戦当時に、我が国と同盟国だったよしみからか、イタ公やゲルマン民族が作った高価な輸入車や、特別意味はないが、見栄を張ることはできる、炭素繊維製の外装類を、いわゆる“開けゴケ”にて“キズもの”にしてしまう可能性が高いからだ。
 ちなみに、『ライダースクラブ』誌の熟読者にとって転倒とは、自分の大切な一人娘がレイプされたかのごとく、許されざるべき出来事だか、『前のりティ』にとっての転倒とは、朝の歯磨きのように、目をつむっていてもできるほど、日常的な出来事なのである。(目をつむってライディングすれば、転倒はより日常的にもなる)
 さて、こう書くと、『前のりティ』が、まるで転倒を甘受する内罰的反応型(マゾヒスト)な人間だと思われるかもしれないが、それは全く心外であり、『前のりティ』は、幼稚園のお遊戯のようなライディングをするライダー達に対して、サディスティックにコースを攻め立てる人種であり、『前のりティ』にとって転倒とは、自分のスタイルに忠実である為に当然支払われるべき会費なのである。



★ゲット・アウト・チキン
 『前のりティ』以外のチキン(臆病)な読者は、転倒を恐れてブラウザを閉じたことだろう。
 部外者がいなくなったところで本題に入ろう。
 ロードレースにおいては、レースにおける有名な格言通り、まずは完走しなければ勝つことはできない。
 従って、転倒を恐れないことは重要な必要条件だが、勝つ為の絶対条件ではない。つまり、本番で勝つ為には、転倒リスクを下げるテクニックを体得する必要がある
 『前のりティ』は、アクセルワークというよりかは、まるでスイッチのごとく、アクセルの開け閉めが激しく、使い古された言葉を使わせてもらえれば、“ワイドオープン”が特徴だが、ワイドオープンにより、タイヤがグリップしていればウィリー、タイヤがブレイクすればスライドと、特に立ち上がりでのマシンの暴れが激しくなることに対し、アクセルは全開固定にて、どちらかというと、マシンの姿勢をコントロールすることで、その場を乗り切るという傾向が強い。
 特に、ケビン・シュワンツのように、手足の長いライダーは、長い手足を利用してバランスを取るのがたくみである。
 つまり、コーナーリングスピード重視のうしろ乗りライダーは、マシンとの一体感、特にリアタイヤとの一体感をもって、アクセルワークによりマシンコントロールする傾向が強いが、『前のりティ』は、マシンとの一体感やアクセルワークはあまり重視せず、中国曲技団の玉乗りのように、人間の持つバランス感覚を研ぎ澄ますことで、マシンコントロールを重視する傾向が強い訳である。
 イメージとしては、うしろ乗りライダーは、4輪のドライバーと感じが似ている。4輪においては、ドライバーの動きはマシンに影響を与えることがないので、マシンコントロールは、ハンドルとアクセルワークに集中している。そして又、タイヤの本数が2輪車の2倍もありやがるので、オートバイに比べれば、よりコーナーリングスピード重視になりやすいので、コーナーリングスピード重視のライダーは、4輪車のドライバー的な感覚が強いイキフン(雰囲気)を私は感じる。
 それに対して、立ち上がり重視の『前のりティ』は、1903年に初めて空を飛んだライト兄弟の心境に近い形にてマシンコントロールしている。
 物理学の法則によれば、バランスとコントロールの問題は、実の所、とてもシンプルな答に行き着くこととなる。つまり、重心の位置と圧力の中心点を一致させれば良い訳である。
 しかし、言うはやすしきよしであり、そう簡単にバランスをコントロールできるものではない。しかし、ライト兄弟はこの問題に対し、他の飛行家とは違う答を用意することで、人類史上初めて空を飛んだ。その答とは、“練習”である。
 彼らは、まるで『ライダースクラブ』誌の熟読者達が、チタン製のボルトや炭素繊維製のカウル類に興味を示しているかのごとく、他の飛行家が翼とエンジンをいじくり回している間、空中でのバランスを保つ為に、ただひたすら練習に打ち込んだのである。
 つまり、『前のりティ』も、“地に足が着いていない”飛行機を操るかのごとく、スライドしたりウィリーしたりするマシンをコントロールする為には、“バランス感覚”を最も鍛えなければならない。
 しかし、スタンドが無ければ、1人で立っていることすらできないという、基本的な欠陥を内包しているオートバイを操る醍醐味は、このバランス感覚な訳なのだから、何度も言うように、安全に走りたいのならば、最初から4輪車に乗るか、『ライダースクラブ』誌の熟読者との親交を深めた方が良いと言える。

★親愛なる『前のりティ』へ
 よろしい、おっしゃる通り、私は文章を面白おかしくする為に、大げさな表現を使っている。
 つまりは、ハイスロを入れることが『前のりティ』の割礼(ユダヤ教徒が行う、宗教的な包茎手術)という訳ではない。
 更に言えば、最近のリッター当たり160馬力以上を発揮するハイパースポーツ車においては、むやみにハイスロ化すると、危険が危ないので、あくまでも個人の好みでチョイスして頂きたいと思う。
 そして又、上記においては、あたかも『前のりティ』がアクセルワークに対して無能であるかのような印象を与えてしまっているが、実の所、ワイドオープンばかりを繰り返していると、全開付近でのアクセルコントロールにおいては、センシティブ(繊細)なアクセルワークが上達する。これはこれで『前のりティ』の優位性となる訳だが、更に第3のコントロール手段として、“左手リアブレーキ”によるスライドコントロールがある。
 これについては、M・ドゥーハンや柳川明選手が使用していることで有名だが、私自身は使用したことのない未知のテクニックなので、詳しく解説できないことが残念である。
 しかし、1つ言えることは、『前のりティ』のスタイルは、どこまでも奥が深く、やりがいのあるスタイルだということで、私の役割は、『前のりティ』の分娩に立会い、授乳することなのである。
 そして又、私の究極の目的は、勇敢な羊飼いのダビデが、不死身の怪物ゴリアテを凹ましたように、コーナーリングスピード重視のうしろ乗りライダーや、リアステアライダーの収支決算書を赤色にすることなので、よろしく。



2003年5月25日 前のりティリポート

2003年11月30日 前のりティリポート2

2004年2月20日 前のりティリポート3

2004年7月19日 前のりティリポート4

2004年9月5日 前のりティリポート5

2004年9月21日 うしろのりティリポート

2005年6月26日 前のりティリポート6


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