MAENORITY
REPORT 6

前のりティリポート6 by アーブ山口

2005/6/26

★プロローグ
 “リアステア”という名の単純なテクニックの世界においては、根本健氏が王様である。がゆえに、氏が裸であることをあえて知らせようとする者はいない。
 ただし、私をのぞいては。
 しかし、ここでは『前のりティ』の敵である“うしろのり”ライダーの代表である根本健氏だけでなく、ライテクについて書かれた雑誌全ての実態を暴いてみよう。
 もしあなたが、「安全に速く走る為にも、ライテク関連雑誌を読むことが重要だ」と考えているのならば、あなたこそ以下を読むべきである。
 もしあなたが、「ライテク関連雑誌は嫌いだが、どうして嫌いなのか分らない」と言うのであれば、以下にその理由を教えよう。目からウロコが落ちるハズだ。

★ターゲット層
 まず、国内2輪専門誌を暴力的に大きく2つに分類してみよう。
 まず1つ目は、映像を喚起するような、アイキャッチ専門の雑誌である。これらは、読者の視線を奪うことに特徴がある為、内容よりも画像が重視され、必然的にターゲットとなる読者も、新しいもの好きの人間や、ビギナーライダーなどになる。
 もう1つは、画像よりかは、文字情報に頼った雑誌で、こちらの雑誌には、ライダーの自己成長をうながすような記事が多いことが特徴であり、それはオートバイのメカニズムに関する知識だったり、整備に関する知識だったり、ライテクに関する知識だったりする。
 仮に、もしあなたがライテク関連雑誌の編集長だった場合、ライテク関連雑誌を買うタイプの読者にターゲットを合わせることが、金儲けへの近道となる訳だが、私は読者からの目ではなく、ライテク関連雑誌の編集長の目から観察する、つまりは、逆方向から問題をながめることで、ライテク関連雑誌の実態に気付くことができた。
 では、その実態だが、全てのライテク関連雑誌に書かれているテクニックには、欠点についての記述が見当たらないことを私は発見した。あなたは今だかつて、ライテクについて語られている記事の中に、そのテクニックの欠点も同時に書かれているケースに出会ったことがあるだろうか? 私はない。
 全てのライテクに関する記事には、そのテクニックについて全て肯定的に紹介されていることがほとんどである。
 なぜか?
 それは、それを書く者が気付いているかいないかに関わらず、すでに読む人間のターゲットを絞っているからである。
 しかし、もしあなたがマーケティングに関わっている人間ならば、これについてそれ程疑問に思うこともないだろう。英会話学校、美容エステ、様々なビジネススクール等々。こうしたビジネスが行う常套手段とも言えるセールストークが、相手の変身願望をくすぐる内容になっていることと、ライテク関連雑誌の肯定的な“ものいい”が同じなのは、偶然の一致ではない。
 つまり、彼らのターゲットは、「自己成長したい」と願うタイプの人達で、こうしたタイプの人達は、心理学者に言わせると、現状に対する不満屋の人達が圧倒的に多数を占めているのだ。
 こうした人達をターゲットにした場合、セールストークは、いわゆるビフォー/アフターの違いを使ったほうが良いようである。ライテク関連雑誌で言えば、ピヨピヨ走っているビギナーライダーと、カッコ良くヒザでも擦りながらコーナーリングを決めているベテランライダーである。
 ちなみに、サーキットにおけるタイムアップには、“直線”こそが最も重要なのに、直線を走っている姿と、コーナーを走っている姿では、成長前と成長後のビフォー/アフターにおいて、コーナーを走っている姿の方が違いが大きいので、直線について語られているライテク関連雑誌は極端に少ない。これがライテク関連雑誌を読んでも、大してサーキットにおけるタイムアップに貢献しないことの主な理由となっている訳だが、ライテク関連雑誌は、単にニーズに応えているだけなので、今後もビフォー/アフターの違いが大きい部分を大げさに語り続けることだろう。
 なぜならば、ビフォー/アフターの違いを欲する現状に対する不満屋の、ビフォー/アフターの違いに対する欲求と、ライテク関連雑誌に書かれたポジティブな内容の方向性は極めてピッタシ一致するので、言ってみれば、ライテク関連雑誌に寄稿するライターにとって、この不満屋は最高の“カモ”であり、これを専門的には『一面呈示』と呼んでいる。

★インターネットの住人
 さて、インターネットにて、“発信者負担”にて文章を公開している私は、文章でメシを食う必要もなく、特定のカモにターゲットを合わせる必要もなく、第三者からの尊敬を勝ち取る必要もない。
 従ってインターネットの住人である私は、『一面呈示』が特徴である世のライテク関連雑誌と違い、反対意見やネガティブな側面や、ストレートに欠点などを呈示しながら相手を説得する方法である、『両面呈示』を使うことができる。(根本健氏がこの方法を採用すれば、氏は破産することだろう)
 ちなみに、『両面呈示』は、教育水準や、リテラシー(文章に対する読解力)の高い人達に有効な方法であり、私は愚民を対象とした世のライテク関連雑誌を批判するつもりは毛頭ない。
 なぜならば、お金を支払って購入されるライテク関連雑誌は、ただ単にその使命に従順なだけであり、その使命とは、金儲けであり、株主や広告主に対する気遣いであり、だからこそライテク関連雑誌は『一面呈示』にこだわるのであり、ライテク関連雑誌に寄稿するライター達はバカなのではない。それを読むあなたがバカなのである。

★利潤
 ライテク関連雑誌が目指しているものは、真実ではなく利益である。これは動かしようもない事実だ。
 もしライテク関連雑誌の使命が、真にライダー達の啓蒙にあるのであれば、新しいテクニックが発見された月に雑誌を発行し、それ以外の月は休刊するハズである。しかし、ライテク関連雑誌は利益の為に毎月発行を続ける。
 しかし、あなたにとって幸いなことに、インターネットはこの利潤競争に巻き込まれていない。仮にもしインターネットがこの争いに巻き込まれれば、インターネットの住人は多くのものを失うだろうが、幸いにして、私自身はまだ世捨て人であることをやめられないようだ。

★デメリット
 では、約束通り、『前のりティ』の欠点を述べてみよう。
 『前のりティ』の欠点とは、ライテク関連雑誌にはそのスタイルが紹介されないことである。
 もちろんこれは、一流の皮肉だが、ライテク関連雑誌は、多国籍タバコ企業とは異なり、その最も大切な顧客を死に導くようなことはしない。従って、そこに紹介されているテクニックは、最も低リスクなものとなる訳だが、フロントを軸にリアを振っていくという『前のりティ』のスタイルは、ストレートにリスキーなスタイルなので、ライテク関連雑誌には間違っても紹介されることはない。
 そして、“うしろのり”ライダーの素晴らしい点は、乗るオートバイを選ばないことである。そう、“うしろのり”やリアステア重視のスタイルは、ほとんど全てのオートバイに通用する素晴らしいテクニックなのである。
 理由として考えられるのは、自動車における設計にて、ほとんど全ての市販されている自動車は、弱アンダーステアに設計されていることがあげられる。
 理由は簡単で、運転中の被験者(ドライバー)の脈拍や心拍数や脳波を測定すると、弱アンダーの特性が最も緊張感が少ないことが分っているからである。
 同様に、恐らくオートバイの基本設計も、弱アンダーなセッティングになっているのだろう。(4輪のメーカーではマツダ、2輪のメーカーではスズキがこうした実験を無視するケースがあるようだ)上記の理由から、こうした特性を運命づけられた地上の乗り物の1つであるオートバイを操る場合、リアタイヤに体を預けるような“うしろのり”や、リアタイヤのキャンバースラストを最大限に引き出すような“リアステア”は、万人向けの非常に有効なライディングテクニックである。
 そして、フロントを軸にリアを振っていくという『前のりティ』のスタイルは、上記の“うしろのり”、あるいはリアステアとは、まるで正反対なスタイルであることが、そのまま『前のりティ』の欠点となっている。
 具体的に語ってみよう。“うしろのり”やリアステアの世界においては、バンキングスピードについて語られることはほとんどない。
 なぜならば、バンキングスピードを上げることは、ライダーの緊張をともなうし、フロントからのスリップダウンの危険性も飛躍的に高めてしまうからである。ゆえに、ダラダラとバンキングさせたとしても、その後の2次旋回に重点を置く“うしろのり”やリアステアといったテクニックは、これまた安全に速く走ることに大きく貢献する訳だ。
 しかし、『前のりティ』は、バンキングスピードに非常にこだわるスタイルである。バンキングスピードを上げる為ならば、何でもすると言った調子だ。それはまるで、帰りの燃料を積まずに飛び立った特攻隊のようでもある。(特攻隊がそうしたように、『前のりティ』は最愛の人に向けて必ず遺書を残しておくべきだ)
 もし仮にビギナーライダーが『前のりティ』の世界の扉を開けたのならば、この最初の難関である“倒し込み”という名の儀式は、ほとんどテクニックと呼べるようなものではなく、まるで新人の外科医が生まれて初めて患者の体にメスを入れるように、単に理論を超越した“思い切りの良さ”だけが重要である。
 しかし、それをロジカル(論理的)に解説することが、私の肩にのしかかる読者の期待なので、あえて言わせてもらえれば、それはひたすらに、バンキングスピードの速いプロライダーの走りをビデオ等で繰り返し観察し、そのイメージを脳裏に叩き込むことである。
 あるいは、ダートトラックでの練習を事前に行っておくことも好ましいと言える。ダートトラックでは、フルバンク中にグリップ走行が出来ないというのに、スリップダウンしないように、一発でフルバンクまでもっていかなくてはならないので、『前のりティ』のスタイルを確立することにおいて、ダートトラックでの練習は非常に有効である。
 しかも、ダートトラックでコーナーに進入する際には、シートの前のほうに座り、上半身を起こして、リーンアウト気味なフォームをとるので、イン側の足のつま先がステップに載っているかいないかの違い以外は、ほとんどやっていることが同じなことも、私が薦める理由でもある。
 話を戻して、次には、『前のりティ』のもう1つの欠点をあげてみよう。それは、『前のりティ』に適したオートバイが少ないことと、仮に運良く『前のりティ』のスタイルを実践できるオートバイに出会ったとしても、『前のりティ』のスタイルに合わせて、マシンをリセッティングしなければならないことである。
 理由は、前述したように、市販されているオートバイのほとんどは、弱アンダーステアにセッティングされているからで、フロントを軸にリアを振っていく走りの具現化に向けて、これをリセッティングする手間が生まれることに対して、この時間は、ビギナーライダーにとっては、無駄な時間とも言える訳だ。
 そして、これに比べれば、ノーマルの素性の良さを引き出す“うしろのり”やリアステアのテクニックは、ビギナーライダーが成長することにおいても、非常に素晴らしいものである。
 従って、私が考える、オートバイを走らせることにおいて最も不適切な場所である一般公道においては、良心的な人間ほど、“うしろのり”やリアステアを推奨するのである。そして、推奨を受けたライダー達は、日本的病巣と言われる他者追随にあけくれることとなる。

★メリット
 私とライテク関連雑誌を比較すると、オートバイを走らせるステージが、サーキットか一般公道かという部分に違いがあると指摘する人もいるだろう。
 しかし、私自身は、一般公道は、それ自体がすでに危険が危ないシロモノなので、一般公道にてオートバイを走らせることは、まるで北朝鮮と核兵器が結婚するようなものだと考えている。 
 従って、一般公道を安全に走るというライテク関連雑誌の概念そのものが、チベット問題を抱えながら、日本人を侵略者だとする中国のように、典型的な自己矛盾であると私は思う。
 しかし、ライテク関連雑誌は、自分達が提唱するテクニックは、サーキットにおいても有効だと主張することだろう。それはそれで構わないのだが、我々『前のりティ』のスタイルにとっては、最初からサーキットを基本的なステージと考えていることが、最大のメリットである。
 更に、玄人的に“さめたものいい”をすると、サーキットにおけるベストラップとは、ほとんどエンジンパワーとタイヤのグリップ力で決まってしまうのであり、実の所、スタイルの違いでは、ラップタイムに大きな違いは生まれない。
 しかし、“レース”においては、スタイルの違いは勝敗に大きな影響を及ぼす。
 では分りやすく解説してみよう。
 まず、“うしろのり”、及びリアステア的なテクニックを駆使してサーキットのラップタイムを縮めてみよう。すると、このスタイルでは、コーナーリングスピードを上げる必要があり、コーナーリングスピードが高いと、ワイドなライン取りとなり、ワイドなライン取りとなると、毎周決まったベストラインを走ることが重要となる。
 しかし、『前のりティ』のスタイルは、コーナーリングスピードやライン取りはあまり重視せず、むしろスピードの変化やラインの変更に対するマシンコントロールを重視するスタイルなので、極論すれば、毎周バラバラなラインで走ることができる。これは、単にラインを外して他車をパッシングする際に有利なだけでなく、ライバルにパッシングされないようにする為の威嚇にも役立っている。
 また、グリップ走行を重視する“うしろのり”&リアステアライダーは、スタートとゴール時の燃料の残量変化によるマシンの重心の変化や、タイヤのグリップ力の前後バランスの変化などの影響を受けやすいが、スライドを基本としているライダーは、これらの変化に対応する能力が高い傾向にあることが、レースという本番における“勝負強さ”につながっている。

★エピローグ
 あなたが理解しているように、私はライテクについて語る能力においては、“無能”である。
 しかし私は、レバーを操作する際に、何と言う名前の指を使用するかといった、そうしたストーリーよりも、“概念”について考えることのほうが好きである。
 従って、私はライテク関連雑誌と違い、語りたい話を無慈悲に要約する意味でも、レバーを操作する際に使用する指の名前は、あなた自身の実験によって決定して頂きたいと考えている。なぜならば、私にとってライテク関連雑誌が展開する些細なテクニック論は、まるで曙(あけぼの)と長谷川京子のどちらにダイエットが必要か知りたい人の為に、ワザワザ2人の体重を教えているかのようだからであり、私自身が『前のりティ』を目指すライダーに助言したいことは、ライテク関連雑誌とは正反対のアプローチである、次のアリストテレスの言葉に要約されるように、転んでは起き、転んでは起きを繰り返すことで、スライドコントロールを体得して頂きたいということにつきる。

我々は行う前に学ぶべきことを、実行することによって学ぶ。


2003年5月25日 前のりティリポート

2003年11月30日 前のりティリポート2

2004年2月20日 前のりティリポート3

2004年7月19日 前のりティリポート4

2004年9月5日 前のりティリポート5

2004年9月21日 うしろのりティリポート

2005年6月26日 前のりティリポート6


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