MAENORITY
REPORT

前のりティリポート by アーブ山口

2003/5/25

★プロローグ
 私は常識が恥をかかされる話が大好きである。
 そして、どのような分野においても、マイノリティーに注目がいってしまう。
 従って、オートバイの乗り方においても、あまり世の中では推奨されない、比較的リスキーなライディングスタイルを好むのだが、多くのライダーがシートの中央か、むしろうしろの方に座ってライディングするのに対し、シートの前の方に座ってライディングするライダーは、サーキットにおいてはマイノリティーだということで、そうした人達の繰り広げるライディングスタイルを分析した、『前のりティリポート』を以下に紹介したいと思う。

★オートバイの機能
 上記の解説の通り、“前のりティ”というのは、シートの前の方に座ってライディングするライダーは、マイノリティだという私の造語だが、これに対して、“うしろ乗り”と呼ばれるライディングスタイルは、私が思うに、『ライダースクラブ』誌で有名な、ネモケンさんあたりの推奨する、“リアステア”などが基本となり、多くのライダーが実践している。
 もしかしたら、ネモケンさんの意図するリアステアは、私の解釈においては間違っているかもしれないが、このリポートにおいては、リアステアというのは、主にリアタイヤのキャンバースラストを意識したものだと最初に定義しておきたい。

 それではまず、オートバイの“向きを変える”という機能について列挙してみよう。ちなみに、私はクローズドサーキットにてタイムや順位を争うことにおいては、究極的には、この“向きを変える”という部分が1番のポイントになるという信念を抱いている。もちろん、マシンのパワーやブレーキングなど、他の要素も重要なので異論もあるかと思われるが、マシンの性能に関しては、メーカーの努力やレギュレーションにより、ひたすらイコールコンディションに近づいていきやすく、最終的にライダーのアイディンティティーにて勝負する部分というのは、この“向きを変える”という部分になってくると私は考えているのである。
 しかも、2輪の面白いところは、4輪と違い、この“向きを変える”という部分において、あまり机上の論理が確立されておらず、ライダーのスタイルとマシンのセッティングが決まるのは、どこか黒魔術的な要素に頼っている面が多いところなのだ。
 とは言っても、もちろん理論的に分析できる部分もあるので、話を戻してそれを以下に紹介してみよう。
 まず、オートバイと4輪車の共通する部分として、ステアリングがあげられる。ようするに、2輪も4輪もステアリングを切れば向きが変わる訳だ。この時、「オートバイはバンクさせていなければならないのでは?」と考える人もいるかと思われるが、例えば右側に舟があるサイドカーが、右に曲がっていく時、遠心力がでかくなると、左側に倒れてしまうが、それでもハンドルを切っていれば、逆側に倒れていても、サイドカーは“2輪車の状態で”右に曲がっていく。これは極論的な紹介の仕方だが、ようするに、ステアリングはステアリングとして、向きを変える機能があるのだ。
 そして次には、最も2輪車を2輪車たらしめている要素として、キャンバースラストがあるのだが、これは10円玉(別に他のコインでも良い)を転がすと、その内傾いて、10円玉は傾いた方へ内向していくという特性のことで、オートバイをバンクさせていると、自然とこのキャンバースラストを発揮させていることになるのだが、仮に、前後の車輪が同一線上に並んでいるステアリング機能のないオートバイの場合には、オートバイの向きは変わらず、そのままペタンと倒れてしまうだけなので、前述のステアリングとキャンバースラストは、“セットもの”となる訳である。
 そして、次に紹介したいのは、“リアスライド”なのだが、これは上記のステアリングもキャンバースラストも無視し、リアタイヤの軌跡をアウト側にズラすことにより向きを変えるというもので、ダートトラックを走っているマシンなどは、フルカウンターで向きを変えており、ステアリングは反対側に切っているし、前後タイヤのキャンバースラストも全く使っていない。このリアスライドは、タイヤの限界を超えているところが妙味であり、非常にリスキーなものと言える。
 それ以外には、ラジアルタイヤの旋回性などがあるのだが、これは、ラジアルタイヤは、タイヤのサイドウォールがしなることにより、旋回力を生み出しているというもので、これについては詳しいことは割愛したい。

 ここまで解説すればお分かりのように、私が好きなのは、リアスライド的なライディングスタイルで、簡単に言えば、ダートトラックの走りをロードに持ち込んでしまうライダーが好きなのである。
 もちろん、多くの尊敬すべき識者によれば、オートバイを速く走らせることにおいて、リスクはなるべく低くするべきだとのことだが、たしかに、グリップ走行をこころがけ、リアステア的なライディングを敢行していれば、やけどを負うことは少ないだろうが、やけどをしないことがロードレースの目的ではない。
 それは、全盛期のアメリカンライダーが、スライドを多用してGPのチャンピオンを取りまくったように、リアスライド的な走りは、充分にロードレースにおいて“勝つことが出来る”ライディングスタイルだということからも理解できるだろう。

 しかし、キャンバースラストを最大限に生かすには、必然的にグリップ力重視にならざるを得ないというリアステア的なスタイルは、尊敬すべき識者の大々的な宣伝により、非常に大衆ウケしているようなので、リアスライド的なスタイルは、非常にリスキーなスタイルとして、あまり大声で語られることはない。
 従って、こうしたスタイルで走るライダーは、非常に肩身も狭い訳だが、むしろそのことが、私を含めて、こうしたライダー達の優位性を生み出していることは大変皮肉な話であり、我々は我々の優位性を維持する為にも、『ライダースクラブ』誌が永遠に書店に並ぶことを願い、もし小金があったら、竢o版(『ライダースクラブ』を発行している出版社)に対して寄付するべきだろう。
 そう、シェークスピアが言っている、“逆境の果実の甘さ”の代償として…。

★セーフティーVSリスキー
 ところで、私が名づけた『前のりティ』の人達は、単にシートの前の方に座るだけではなく、上半身はリーンアウト気味のフォームをとり、文字通り、フロントを軸にリヤを振っていくというライディングスタイルを敢行するタイプのライダーなのだが、多くの人は、こうしたスタイルはリスキーなものだと定義づけている。そして、タイヤのグリップ力に依存し、回転する車輪が傾いた時のキャンバースラストを極力引き出すというライディングスタイルは、比較的セーフティーなライディングスタイルだと考えられている。
 恐らくその通りなのだろう。
 しかし、ここで皮肉な見方をさせてもらえれば、リアステアなどのスタイルは、良妻賢母といった、家庭的な女性との結婚を彷彿させ、『前のりティ』のスタイルは、夜の女との交際を彷彿させるもので、家庭的な女性と結婚した場合には、浮気は絶対に許されないが、夜の女との交際においては、浮気をすることは、それ程リスキーなことではない。なぜならば、相手が本気ではないからだ。(笑)
 このように、グリップ走行のスタイルを提唱するライテク本では、タイヤの限界を超えてしまった場合、その後の処理については何も語ってくれない。つまり浮気をしたら即離婚といった感じである。
 しかし、リアスライド的な走法においては、最初からタイヤの限界を超えて走っているので、タイヤの限界を超えた時の処理について語ること自体が、もはやナンセンスと言った感じで、これは、夜の女と交際していること自体、あまり他人には話せないものなので、少々浮気をしたところで、全く問題がないことと似ている。

 誤解してもらいたくないのは、私は人生においては、堅実で幸せな結婚をタテマエでは推奨したいので、このまま『ライダースクラブ』のようなライテク本が売れ続け、安全なスタイルで走るライダーが増えることが、人類にとっての幸せだと考えている。
 従って、ここから先は、スピードという麻薬で頭がおかしくなってしまったという、限定された読者に向けて書いていきたいと思うので、スライド走法に興味のない方は、このまま書店に行って、『ライダースクラブ』でも買って頂きたいと思う。
 しかし、これらの雑誌が、“幸せな結婚”については詳しく語ることに対し、“不倫した後の対処法”について語られていないことに不満を覚える方は、以下を読んでみて頂きたい。目からウロコが落ちるハズだ。

★セッティング
 では、数少ない『前のりティ』の人達にむけて、マシンのセッティングから話をしてみよう。
 まず、リアステア的なライディングをするライダーの尊敬すべきところは、“乗るマシンを選ばない”ということだが、我々『前のりティ』は、マシンのジオメトリーにとてもうるさく、スタイルに合わないマシンを選んでしまうと、非常に苦労してしまうという欠点をあげておきたい。
 第1に『前のりティ』にとって非常に重要なのは、キャスター角で、我々はステアリングヘッドアングルが急なオートバイを何よりも好む。理由は、コーナー進入でのスライド、つまりドリフティングブレーキを使う時、バンキングスピードの早さをキッカケにしたいからで、その為には、キャスター角が寝ていては、バンキングスピードを上げることができないからである。更に言えば、フロントフォークの伸び側の減衰力を上げることで、進入時に立ったキャスター角をそのまま維持し、フォークが立ったままでコーナー前半を回りたいというセッティングを好む。逆に、リアサスは、一気にフロントに過重移行する為にも、逆に伸び側のダンピングを落としてしまう傾向にもなる。ちなみに、現代のレーサーのジオメトリーが、キャスターを立たせたことによる直進性の悪さを、フロントの過重を増やすことで対処しているのに対し、正に、『前のりティ』は、キャスターを立たせていることによるデメリットを、“前に座る”ということで対処し、現代風のレーサーのスタイルを大袈裟にしているスタイルだという感がある。
 そして、次には、スイングアームの長さだが、これは限られたホイールベースの中で、長ければ長いほど良いと言える。スイングアームが短いと、スイングアームが上下することで、対地角の変化も大きくなってしまい、これが相対的に、キャスターが立ったり寝たりといった感覚を強くライダーに与えてしまうのだが、『前のりティ』としては、フロントを軸にして走っているという感覚が強い為、キャスター角は極力一定といった感覚を好むので、相対的に、スイングアームの対地角の変化も最小に留めたいのだ。
 また、例えば、買ってきたオートバイのキャスターを立てる為に、フロントフォークの突き出し量を増やすと、車高が下がってバンク角が浅くなってしまうなどのネガが出てしまうが、そのバランスを取る為に、今度はリアの車高を上げると、スイングアームの対地角が大きくなってしまい、アンチスクワットにより、リアタイヤの接地力が大きくなり、リアタイヤのスライドを誘発させにくくなってしまったりもする。こんな時に、スイングアームピポットの調整ができるマシンは、大変重宝するので、スイングアームピポットを調整できるマシンは、『前のりティ』にとっては要チェギである。
 そして、何と言っても重要なのが、“タンクの長さ”である。
 『前のりティ』にとっては、当然、シートの前に座り、フロントとの一体感を生む為にも、タンクは短ければ短い程良いと言える。例を挙げれば、昔のFZR400などは最悪で、日本そばにトマトソースをかけるべく、ライダーをうしろの方に乗せ、コーナーリングスピードを高めるべく設計されたマシンは、我々には全く肌が合わない。
 また、コーナーリングスピードが高いというスタイルのライダーが開発したマシンは、マシンの前後のピッチングモーションを嫌うことからか、重心が低いマシンになることが多いが、こうした、重心が低いオートバイも、『前のりティ』と相性が悪い。

 相性の良いマシンとしては、『前のりティ』はフロントとの一体感を何よりも重視するので、フロント周りの剛性感の高いマシンを好む。従って、キャスターが寝ている、正立フォークが入ったネイキッド車などは、全く相性が悪い。乗るならば、フロント周りの剛性感のあるレーサーレプリカで、更にタンクが短く、スイングアームが長いマシンということになるが、幸いなことに、最新のレーサーレプリカは、大体このような方向性で作られているので、『前のりティ』としては朗報と言える。

★エンジン特性
 そしてマシンのジオメトリーと共に重要なのは、エンジン特性だが、『前のりティ』は、低中速トルクの無い、2次曲線的な出力特性を持ったエンジン、つまり一言で言えば、最近は死語扱いされている、“ピーキーな”エンジン特性を何よりも好む。なぜならば、特にコーナー後半においてリアタイヤの空転を誘発するには、低い回転数からトルクが出てしまうよりも、モーターのようなエンジン特性により、リアタイヤを空転させたいからで、これは、『前のりティ』の頂点に君臨するミック・ドゥーハンが、1992年にせっかくホンダが同爆を投入したにも関わらず、再びスクリーマーに戻したことからも分かるだろう。
 従って、アマチュアライダーの『前のりティ』がマシンをセレクトする場合には、迷わず4サイクルの並列4気筒車、それも低中速トルクの大きさが特徴のネイキッド車ではなく、ピーキーでショートストロークのエンジンを搭載したレーサーレプリカということになる。
 また、それでも低中速トルクが気になるという方は、アフターパーツでカムシャフトの入手が容易なマシンを強くおすすめする。いわゆるハイカムというものは、低中速トルクを少なくし、ピーキーなエンジン特性にする、『前のりティ』にとっては最高とも言えるアイテムなので、キャブやマフラーなどよりも、むしろ先におすすめしたいパーツの1つである。
 逆説的に言えば、いわゆるシングルやツインといったエンジンは、低中速トルクが大きいばかりではなく、その不等爆発により、リアタイヤのグリップ力が高まりやすく、スムーズなドリフトを誘発しにくい。
 そして、この特性は、『ライダースクラブ』誌や『クラブマン』誌といった雑誌の読者である、いわゆるエンスージアスト系の人達にとっては、上等なワインのように素晴らしい性質だとされているので、一般的には、扱いづらくピーキーなエンジン特性を大声ですすめる人はいないが、このことも『前のりティ』にとっての優位性を生み出しているので、『前のりティ』の人達は、間違ってもシングル・ツインのエンジンをセレクトすべきではない。ウルトラスムーズな並列4気筒車を迷わずセレクトしよう。

★ライディングフォーム



 『前ノリティ』は、シートの前の方に座るだけではなく、↑の北山瑞樹選手のように、バンク角を調整することでスライドコントロールを容易にする為に、上半身はアウト側に持ってくるのが特徴で、副次的に、コーナーには肩から入るような感じで、ヒザも横に張り出すのではなく、前方に突き出すようなフォームになる。
 正に、こうしたフォームが、『前のりティ』をマイノリティとたらしめている原因なのだが、多くの人達にとっては、上半身が起きたこうしたフォームは、見た目が美しくないばかりか、あまりアグレッシブにも感じないことからか、シートのうしろの方に座り、頭の位置が低いコーナーリングスピード重視のアグレッシブなフォームを取るライダーを好む。
 しかし、このことが『前のりティ』の優位性を生み出していて、上半身を起こし、頭の位置が高いことで、マシンとの一体感よりも、マシンのコントロール性を優先し、スライドコントロールを容易にしているのだ。

 例えば、リアタイヤのキャンバースラストを生かすべく、リアタイヤの接地圧を高めようと、リアタイヤの真上近辺に座ることを意識する“うしろ乗り”においては、リアタイヤのグリップ力を最大限に発揮すべく、リアサスも柔らかめの設定にして、リアタイヤの接地圧を高めていくこととなるが、ここでリアタイヤがブレイクすると、急激にリアサスが伸びだし、このサスストロークの暴れによりハイサイドとなりやすく、スムーズにスライドしたとしても、これまで仲良く付き合ってきたリアタイヤから、突然、離婚届けを突きつけられたかのように、うまくコントロールすることが難しい。しかし、あえて言わせてもらえれば、いわゆる“うしろ乗り”のスタイルなのに、リアタイヤのスライドコントロールが巧みだったのが、かのワイン・ガードナー選手で、これはこれでひとつのスタイルでもあるのだ。関係ないが、ガードナー選手は、ドナさんとの離婚後も、自分の人生を巧みにコントロールして欲しいものだ。

★エピローグ
 『前のりティリポート』はいかがだっだろうか? 上記に書いてあることは、文章を面白おかしくする為に、あえて大袈裟な表現を使っている感は否めないが、特にマシンのセッティングなどに関しては、上記で書いてある程単純なものではなく、例えば、リアサスの伸び側のダンピングを弱めれば、結果的にダンピング不足となってしまいかねないので、あくまでも実走した感触でセッティングをすすめてみて頂きたいし、エンジンの特性においても、ピーキーであればそれでいいというものでもないと思われる。
 そして、『前のりティ』の最大の弱点は、タイヤの消耗の激しさだが、これにも一長一短があり、グリップ走法重視のライダーは、レース中にタイヤの寿命がきた場合、いきなりタイムダウンしてしまいがちだが、最初からスライドさせて走っている『前のりティ』にとっては、タイヤがタレてもそのままのペースを維持しがちで、これが『前のりティ』の優位性にもなっている。

 どちらが損か得かは、読者の判断に委ねたいが、私としては、多くの方は、尊敬すべき識者が書いたライテク本に従って、“安全に速く”というライディングスタイルを探求して頂きたいと思うと共に、『前のりティ』は、「安全に速く走りたいんだったら、最初から4輪車のシートにドカっと座って、ハンドルを左右に切ってりゃいいだろ」というファンキーなライダーにおすすめの、文字通りマイノリティなスタイルなので、あまり大声ではおすすめしたくはない。

 ではなぜこんなリポートをアップしているのかと言えば、インターネットというツールは、マイノリティ同士のコミュニケーションツールとしては最適なものなので、このリポートを通じて、『前のりティ』同士で仲間を作ることができればいいと、乙女チックに願っているからである。
 もし、このリポートをキッカケに『前のりティ』同士のコミュニケーションが達成されたあかつきには、“うしろ乗りライダー”&“リアステアライダー”を酒漬かりにするライディングスタイルとして、マニアックなポジションを確立したいと思う。


●番外:尊敬すべきプロの『前のりティ』
 ミック・ドゥーハン
 ノリック
 ケビン・シュワンツ
 その他少数


2003年5月25日 前のりティリポート

2003年11月30日 前のりティリポート2

2004年2月20日 前のりティリポート3

2004年7月19日 前のりティリポート4

2004年9月5日 前のりティリポート5

2004年9月21日 うしろのりティリポート

2005年6月26日 前のりティリポート6


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