USHIRONORITY
REPORT

うしろのりティリポート by アーブ山口

2004/9/26

★プロローグ
 オートバイのライディングスタイルの種類を説明するのは、カメレオンの色を説明するのに似ている。
 つまりは、100人のライダーがいれば、100通りのスタイルがあると言っても過言ではないのだが、オートバイのライディングスタイルの違いについて説明することが机上論でも暇潰しでもないことに注意しながら、私はあまり世の中では語られないマイノリティ(少数)なライディングスタイルについて語るべく、『前のりティリポート』をアップしていたが、もちろんこれは、『ライダースクラブ』誌があまりにも“うしろのり”を世の中に広めすぎているという思いがあったからで、そうは言っても私は、ライダーはオートバイのシートのどこの位置に座っても良いと考えており、そのことについては、『無視されているマトリックス』にて記述した。
 しかし、私の書く文章の読者も増えてきたことから、更に私は、“リアステア”を標榜する『ライダースクラブ』誌の提唱する“うしろのり”とは違う、“うしろのり”ライダーの中のマイノリティについて以下に記述してみる気になった。もしあなたが、リアタイヤをスライドさせたいのは、何も『前のりティ』だけではないと考える“うしろのり”ライダーならば、目からウロコが落ちるハズだ。

★ダートトラック出身の“うしろのり”ライダー
 『ライダースクラブ』誌の提唱する“うしろのり”は、大昔のヨーロピアンのスタイルが元祖となっており、リアタイヤのキャンバースラストを多く引き出すべく、リアタイヤの接地圧を多くお尻から感じ取る為にも、シートのうしろの方に座ることはメリットが多いという考え方が基本にあるようだ。
 このスタイルは、ストリートやサーキットに関わらず、確かに安全に走る為には非常に有効なもので、多くの支持者を得ている。誤解してもらいたくないのは、それはそれで非常に素晴らしいことであり、私は今後も『ライダースクラブ』誌が永遠に書店に並ぶことが、人類の幸せにとっては有効だと考えている。(何度も繰り返すが、『前のりティ』の優位性の為にも有効である)
 しかし、オートバイにはモトクロスやダートトラックといった、オフロードを走るという分野もあり、こちらの分野においては、オートバイのタンク長は非常に短く、ライダーはシートの前の方に座ることで、フロントタイヤの接地圧を高め、リアタイヤのキャンバースラストはほとんど無視し、リアタイヤの軌跡をアウト側にズラす、つまりはリアタイヤをスライドさせることでマシンの向きを変える走りが基本となっている。
 そして、こうしたダートでの走りをそのままロードに持ち込んだのが、フロントを軸にリアタイヤをアウトに振っていくというミック・ドゥーハンやノリックのスタイルなのだが、これらのライダーの走りを分析したのが、前著の『前のりティリポート』である。
 しかし、ダートトラック出身のライダーで、シートのうしろの方に座っているにも関わらず、リアタイヤのキャンバースラストはあまり使わず、クイックなステアリング特性を好み、リアタイヤのスライドを多用してチャンピオンになったライダーが、かのウェイン・レイニーである。
 レイニーがチャンピオンになっていた当時には、チームのペアライダーにはジョン・コシンスキーがいたが、コシンスキーは250の経験がネックとなり、なかなか500では成績を残すことが出来なかったが、コシンスキーは典型的な『ライダースクラブ』誌的な“うしろのり”ライダーであったのに対し、全くライディングスタイルが違った“うしろのり”ライダーが、レイニーだった。
 しかし、当時のレイニーは、あまりにもリアタイヤのスライドを多用していた為に、タイヤの消耗が激しく、当時のチーム監督のケニー・ロバーツ・シニアは、使用していたダンロップに対して、18インチリアタイヤを作らせてテストしたほどである。ちなみに、18インチタイヤのメリットは、タイヤの外周の距離を多くすることで耐久性を稼ぐというものだが、これはリアタイヤのキャンバースラストを多く引き出すべくタイヤが小径化されてきた歴史に逆行するものである。しかし、このテスト1つをみてみても、レイニーがリアタイヤのキャンバースラスト、つまりは“リアステア”を犠牲にしてでも、スライドを多用したいという考えがにじみ出ていたことが私の気をひいた。
 そしてまた、当時のケニー(シニア)のチームのチーフエンジニアのマイク・シンクレアは、タイヤの消耗の激しいレイニーよりも、タイヤの消耗の少ないコシンスキーのライディングスタスルの方が進んでいるともコメントしていたのも面白かったが、実際、いわゆる二次旋回の優位性が特徴のヤマハのフレームとレイニーのライディングスタイルはミスマッチもしていたようで、ROCのフレームを使用してからレイニーが本来の速さを発揮するようになった事件からも、レイニーは独自のスタイルの持ち主だということが分かる。
 しかし、ここまではリアステアを利用しない“立ち上がり部分”でのレイニーの特徴であり、尊敬すべき福田照男氏が紹介した“アメリカンライディング”における、“セルフステア機能”を最も強く引き出しているのがウェイン・レイニーだと私は考えており、私は自分自身は『前のりティ』だというのに、右も左も分からないというビギナーライダーに対しては、“うしろのり”のスタイルで走るレイニーのスタイルを薦めているのは、皮肉な話である。しかし、これは一方で、“うしろのり”ライダーも250的なスタイルや“リアステア”にしがみつく必要がないことも同時に訴えたいという私の下心でもある訳だ。

★リアステアは全く使わないクラスの誕生
 500に代わり誕生した、現在のmotoGPクラスにおいては、すでに240馬力ものパワーが発生しているそうである。motoGPのライダー達は、“手の平”ほどの面積を使って、このパワーを路面に伝えつつ、コーナーリングフォースという横方向のグリップ力もリアタイヤに求める訳だが、私が観察するに、どうやら240馬力というパワーは、簡単にリアタイヤのホイルスピンを生み出してしまうようで、コーナー立ち上がり部分において、リアタイヤのキャンバースラストを引き出すよりかは、そのままホイルスピンによりリアタイヤの軌跡をアウト側にズラしてしまった方が、合理的なようである。
 むしろ、ライダーやエンジニアの焦点は、いかにホイルスピンをしながらもマシンを“前に進ませるか”の、高度な妥協点を探ることであり、もはやリアステアなどは子供のたわごとといった調子のようだ。
 当然、これまで250的なスタイルで走っていたライダーも、motoGPクラスを戦い抜く為には、このリアスライドと自分のスタイルの高度な融合を試みなければならない訳だが、“うしろのり”ライダーなのにリアタイヤのスライドを多用し走っている注目すべきライダーが、ロリス・カピロッシである。
 彼は、同じくスライドを多用する、『前のりティ』のスタイルで走るチームメイトのトロイ・ベイリスよりも、クイックなステアリングとなるセッティングを好んでいるようで、これは安定性重視の常識的な“うしろのり”ライダーとは異なるセッティングであり、ある意味レイニーと似ている部分もある。
 つまり、フロントを軸にリアを振っていくスタイルは、何も『前のりティ』だけの専売特許ではない訳だが、つまるところ、オートバイを操ることにおいては、座る位置などどこでもいいということなのだろう。重要なのは、「あなたは自由だ」ということであり、その自由の象徴がオートバイという乗り物であり、私が危惧するのは、尊敬すべき識者の非生産的な側面が病的に深刻化することなのである。

★エピローグ
 えっ? 何々? 話は分かったので、自分もロリス・カピロッシのごとく、“うしろのり”のスタイルでリアタイヤをスライドさせるべく、まずはドゥカティを購入したいって? もちろんそれはあなたの自由だが、もしあなたがカリブ海の島を買い取って、妻子や愛犬と一緒に暮らしているという金持ちならば、それは全く問題ないが、もしあなたが未来を担保にフルローンを組んでドゥカティを買うというのならば、それはあなたの役割ではない。それは『ライダースクラブ』誌の編集長の仕事だ。
 さて、フルローンとスライド、あなたはどちらがリスキーだと考えるだろうか? その判断は読者にゆだねたいが、私は自分の未来を担保にフルローンを組む人間が「安全にうまく走る」などと語っていることが愉快でたまらないので、これを読む読者には、ドゥカティジャパンからは一銭も金をもらっていない私の意見を聞き分けて頂きたいと思う。
 つまり簡単に言えば、シートの前に座ろうがうしろに座ろうが、スライドコントロールができるライダーの方が、実戦で圧倒的に有利なのだ。


2003年5月25日 前のりティリポート

2003年11月30日 前のりティリポート2

2004年2月20日 前のりティリポート3

2004年7月19日 前のりティリポート4

2004年9月5日 前のりティリポート5

2004年9月21日 うしろのりティリポート

2005年6月26日 前のりティリポート6


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